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第137話 カレシとして

 水樹と一緒に桐谷家へ行ってから数日後の土曜日、沙月と約束したデートをしている。

 しかし、久しぶりのデートかつ、沙月から誘って来たのに何処か浮かない顔をしている。


 それに俺の顔をチラチラ見て溜息を吐いたりしている。

 それでもいつもの様に明るく振る舞っていたので、あえて触れないでいた。


 しばらくウィンドウショッピングをして休憩がてら喫茶店にはいる。

 注文を済ませて席に着くと、沙月は今日何度目か分からない溜息を吐いた。

 流石に心配になった俺は


「沙月、何かあったのか?」

「えっ! ど、どうしてですか」


 明らかに動揺している。


「いや、明らかに動揺してるだろ?」

「そんな事ないですよ~、それよりここのケーキ美味しいですね」


 そう言ってケーキを頬張る。

 あまり話したくない内容なのかもしれないと自分に言い聞かせて


「……そうだな」


 と返事をするしかなかった。


 喫茶店を後にして今度は雑貨等を見て周る。

 猫の形をしたペン立を手に取り「これカワイイ~」と言って微笑む。

 その笑顔は、やっぱり無理している様に見える。


 その後も色々と店を周ってショッピングモールを後にした。

 ショッピングモールから駅に向かって歩いていると、またチラチラと見て来る。


 俺もチラッと沙月を見ると、話したいけど話せないといった様な雰囲気で俯いていた。

 そしてまたチラチラと見ては溜息を吐くというのを繰り返していた。


 何が沙月をこうさせてしまっているのか気になってしまう。

 さっきは話せない事なんだろうと言い聞かせて我慢したけど、もう限界だ。


 なるべく話しやすい雰囲気で話しかける。


「なぁ沙月、拾い食いでもしたのか?」

「そんな事する訳無いじゃないですか!」

「いつもより元気無い様に見えるからさ」

「今日の私ってそんなにいつもと違いますか~?」


 俺の質問に対してぎこちない笑顔で答える。

 それが凄く俺の胸を苦しめる。


「全然違う! 笑顔がぎこちないし、溜息ばかり吐いてるぞ」

「それは……実は体重が少し増えちゃって。女の子にこんな事言わせないでください」

「さっき美味しそうにケーキ食べてただろ。だとするとダイエットしてる訳じゃないんだろ?」

「えっと……美味しそうだったのでつい食べちゃいました」


 テヘッとワザとらしく舌を出す。

 いつもならその仕草が可愛く映るのだろうが、今日は痛々しく見える。

 俺は沙月から信用されていないんだろうか?

 そんな事を考えてしまい、沙月の両肩を掴み、真っすぐ目を見据えて


「俺は沙月の彼氏だぞ? 元気の無い姿なんか見たくないんだよ。頼むから本当の事を言ってくれ」


 俺の懇請こんせいにも似た言葉に沙月は


「っ! 友也さん――。分かりました……本当の事を話します」


 そう言って「ここでは話しづらいので」という事で近くの喫茶店に入った。


「それで何が原因なんだ?」

「えっとですね……友也さんには言いにくいんですけど……柚希ちゃんと偶然会ったんです」

「まさか柚希に何かされたりしたのか?」

「いえいえ、柚希ちゃんがどうこうではないんです!」

「なら、どうして。仲良くやってたんじゃないのか?」

「柚希ちゃんとは今でも仲良しですよ。でも、彼氏さんが……」


 彼氏と会ったのか。

 もしかして柚希にメチャクチャ自慢されたとかだろうか。


「彼氏がどうかしたのか?」

「二人に偶然会ってお茶をしたんですけど……柚希ちゃんが途中でトイレに行ったんです」

「うん、それで?」

「そしたら彼氏が私に凄い話しかけてきて、その内容というのが……」


 柚希が居ないのをいいことに話しかけたという事だろうか。


「君かわいいね。とか、連絡先教えてよ。とか、今度遊びに行こうよ。とかだったんです」


 なんだそりゃ! 柚希と付き合ってるのに他の女と遊ぼうとしたのか!

 しかも沙月に声をかけるなんて!


「その誘いを彼氏がいるから無理です! って断ったら友也さんの事を悪く言い出して……」

「どんな風に?」

「頭悪くて貧乏で、どうせ顔が良いだけの男って言われて……」


 うわぁ、なんかプライド高そうだな。

 というか知らない奴をよくそこまでボロクソに言えるな。


「それで私、頭に来て『あんたみたいな肩書だけの軽薄な男と違って凄く優しい人です!』って言っちゃったんです。その後すぐに柚希ちゃんが戻って来たんですけど、何事も無かった様に柚希ちゃんに接してて……」


 と言って沙月は俯いてしまった。

 話を聞く限り典型的なチャラ男じゃないか!


「なるほどな。柚希の兄の俺に妹の彼氏の悪口を言いたく無かったって事か」

「はい……。柚希ちゃんは悪くないんですけど、どうしても彼氏が……」


 だからずっと俺の事を気にして挙動不審になってたのか。

 まぁ友達の兄と付き合ってて、その妹の彼氏の事を悪く言えないよな。


「俺に遠慮しないで不満があればぶちまけてくれ。俺は沙月の彼氏だからな」

「友也さん……」

「それに、俺の事で怒ってくれてありがとう。嬉しいよ」


 と言って沙月の頭を優しく撫でる。

 するといつもの様に眩しい程の笑顔を見せた。


「えへへ~、なんだかスッキリしました」

「やっといつもの笑顔に戻ったな」


 やっといつもの沙月に戻って安心する。

 それにしても柚希と付き合ってるのに沙月に手を出そうとするなんて彼氏としてどうなんだ?


 だけど沙月の話を信じない訳じゃないけど、自分の目で確かめた訳じゃないからなぁ。

 等と考えながらその日はそのまま帰宅した。

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