目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第124話 避ける

 翌朝、睡眠不足で重たい瞼をこすりながら朝食を食べていた。

 昨日部屋に戻ってから南と何をしていたのか色々聞かれたのだ。


 俺は正直に一人の人に決めた事。

 そして南を振った事を伝えた。


 俺の遅い決断に中居は


「やっと決めたのかよ、この優柔不断男」


 と言われてしまった。

 対して水樹は


「友也が自分で決めたんならそれでいい。ちゃんと気持ち伝えろよ」


 と言ってくれた。


 思えばキャンプの時から皆を待たせてしまっている。

 だからこそ今回の修学旅行でキチンと気持ちを伝えたい。



 朝食を済ませ部屋に戻ると、まだ田口が寝ていた。

 それを見た中居が無理やり布団を剥がし


「いつまで寝てんだ!」


 と一喝するが、田口からの反応が無い。

 おかしいと思い田口の様子を診ると呼吸が荒く顔も赤く火照っていた。


 おでこに手を当てると素人でも高熱とわかる程熱かった。


「凄い熱だ。ちょっと先生呼んでくるからタオルを濡らしておでこに置いておいてくれ」

「わかった」


 俺は急いで先生達が泊まっている2階に向かった。

 2階に着くと丁度良く担任が居たので事情を話す。


 担任は保健医を連れて行くから先に行ってろと言ってその場を去った。

 俺は言われた通りに部屋に戻る。


 俺が部屋に戻ってから5分程で担任と保険医が来た。

 保健医が熱を測ったり瞳孔をチェックしたりして一通りの診察を終えると


「ダメね。近くの病院に行きましょう」


 と言ったので俺は反射的に


「そんなにヒドいんですか?」


 と聞くと


「只の風邪だと思うけどかなりの高熱だから医務室では十分な治療が出来ないってだけよ」

「そうですか」


 保健医はそう説明した後スマホを取り出して何処かへ連絡をしている。

 担任は俺達には体調に異常は無いか聞いて


「不幸中の幸いだなー。田口と同じ部屋ならお前ら全員に移っていてもおかしくないからなー」


 と言って胸を撫で下ろす。

 そしてその後に


「今日は田口は参加は無理だがもうすぐ集合時間だから遅れるなよー」


 確かにあの熱で歩き回るのは無理だろう。

 俺達は担任に言われた通り準備をして集合場所へと向かった。


 今日はグループごとでの自由行動なので女子も一緒に周る。

 昨日の事もあるので南に顔を会わせづらい。


 そんな事を考えていると女子グループがやってきた。


「おっはよー!」


 といつもと変わらずに元気に挨拶する南。

 それを見てホッとする。


「おはよう」

「おー、トモ。おっはよー」


 と普段と変わらない挨拶を交わした後、楓にも挨拶する。


「楓、おはよう」

「おはようごじょいます!」

「え?」

「お、おはようございます」

「う、うん」

「じゃ、じゃあ」


 と言ってすぐに女子グループと合流してしまった。

 いつもと違う雰囲気で何処か避けられているようにも感じた。

 何か怒らせるような事をしたかな? と頭を巡らせるが思い当たる節がない。


 そうこうしている内に点呼が始まり、学年主任から注意事項を受けて解散となった。


「よし、それじゃあ俺達も行くか」


 という水樹の掛け声で俺達も移動を開始した。

 何処を周るかは事前に決めてあるので揉める様な事はない。


 トラピスチヌ修道院へ行き、五稜郭に行ったあと函館山に行く予定だ。


 移動途中で南に楓の様子について聞いてみると


「昨日部屋に戻ったら今まで何してたのか聞かれてトモにフラれた事話したんだよねー」

「俺も聞かれて大変だったよ。お蔭で寝不足だし」

「あははは、私もー」

「でも、その話をしただけで楓に避けられるとは思えないんだけどなー」

「う~ん、でも私がフラれたって言った時は凄い動揺してたよ?」

「なんで?」

「それは私にも分かんないよ~」

「そりゃそうか」


 という感じで話を聞いたが原因が分からなかった。


 何度か話しかけてみてもそっけない返事しか返ってこなかった。


「この修道院明治31年に出来たんだって」

「そうなんだ、すごいね」


「この五稜郭って星型になってるんだって」

「そうなんだ、すごいね」


 という感じで返されそのまま及川や南の所へ行ってしまう。


 そしてとうとう今日最後の函館山の近くまで来てしまった。

 修学旅行も明日は帰るだけだから何とかして今日中に伝えたい。


 そんな事を考ながらロープウェイ乗り場で待っていると


「あ! そういえば叔父さんから買い物頼まれてたんだった」

「そうなの?」

「うん、だから皆だけで行って来て。私は買い物済ませちゃうから」


 と言って来た。

 流石にこれには皆も不信がって


「いや、お土産なら後で俺達と買えばいいだろ」

「そうそう、折角来たんだから楽しもうよ~」


 と水樹と及川が言うが


「お土産とかじゃないの。ホテルの主任って実は私の叔父さんなんだよね」

「へ~、そうだったのか」

「だから主任の苗字も新島だったんだ!」

「そうなの、だから私が買って帰らないと困るみたいなんだ。だから皆は楽しんできて」


 と言って来た道を一人で戻って行ってしまった。


「あ~、楓行っちゃった。主任もこんな時に買い物なんて頼まなければいいのに~」


 と及川がぶつくさ言っている。


 しばらく楓抜きで並んでいたが俺はどうするべきか悩んでいた。

 すると水樹が


「友也、このまま一人で行かせていいのか?」

「それは……」


 と俺がどうすればいいか悩んでいると


「チャンスは今日しか無いんなら悩む前に行動だろ」


 と言ってバシンッ! と背中を叩かれた。


 そうだ!

 どうして避けられているか分からないけど、ちゃんと話をしなきゃな!


「悪い、楓が心配だから追いかけるわ」

「おう、行ってこい」



 と水樹に背中を押されて楓を追いかけた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?