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第122話 隠し部屋

 ホテルの中に入ると暖房が効いていて冷えた体には暑い位だった。

 ロビーにある暖炉の前を通り過ぎエレベーターへ向かう。


「ちゃんと部屋に戻ったら身体温めろよ」


 と言うと


「わかってるってー」


 と先程までのアンニュイな感じは消えていた。


 そのままエレベーターに向かっていると、不意に南に腕を引っ張れ後ずさってしまう。


「なんだよ急に」


 と文句を言うと、南は慌てた様子で


「大変だよ! エレベーターの前に先生が居る。いつの間にか就寝時間になってたみたい」


 南に言われ俺も慌てて確認する。

 南の言うとうり先生が見張っていた。


「どうしよう、このままじゃ部屋に帰れないよ~」

「それどころか部屋に居ない事がバレたら強制送還されるかもな」

「えー!、まだ帰りたくないよ~」


 くそ! どうにかして戻りたいがどうやって先生の目を盗めばいいんだ。

 仮に1階の先生をやり過ごしても3階と4階にも見張りの先生は居る。

 その先生達もどうにかしなきゃならない。


 そう考えていると再び腕を引っ張られた。


「トモ、大変! 先生がこっちに来る!」


 南が指さす方を見ると別の先生がこちらへ向かってきていた。


「どうしよう、ねぇ、どうしよう」


 かなり焦っているのか南は俺の腕をグイグイと引っ張っている。

 結構痛いが今はそれに構っている暇はない。

 どうする? どうすればこの状況を打開出来る?


 と考えていたその時、一枚のポスターが目に入った。


 これだ!


「南、こっちだ!」


 と言って南の手を握ってポスターの方へ移動する。


「どうしたのトモ、こんな所じゃ直ぐに見つかっちゃうよ」

「それがそうでもないぞ」


 と言って俺はポスターをめくった。


「これって!?」


 そう、俺が見つけたポスターは昨日田口が見つけた隠し部屋の入り口だった。

 昨日は中までは見ていないが、このまま先生に見つかるよりはマシだろう。


 ポスターをめくりながら南に中に入る様に促す。


「南、早く!」

「なんだか分からないけどトモを信じるよ」


 そう言って南は隠し部屋の中に入っていった。

 それを確認して俺も隠し部屋に入る。


 息を殺して扉越しに様子を伺う。

 巡回していた先生が隠し部屋の前を通り過ぎ、そのままホールの方へ向かった。


 それを確認した俺は


「ふぅ、もう大丈夫だ。先生は行ったよ」


 と告げると


「よかった~」


 と南も安堵の表情を見せる。


「でも、よくこんな部屋知ってたね」

「昨日たまたま田口が見つけたんだ。だから先生達には見つからないと思う」

「田口に感謝だね。癪だけど」

「そうだな」


 余裕が出来て改めて部屋の中を見渡すと、畳が敷かれており、純和風な感じの部屋だった。

 定期的に掃除がされているのかホコリ等の汚れは見られなかった。


 どうしてこの部屋が隠されていたのか気になるが、今はこれからどうするか考えないとな。

 幸い空調は効いてるので寒さに凍える事も無さそうだ。


 と考えていると


「ねぇねぇ、押し入れに布団があったよ! これ使っちゃって大丈夫かな?」

「そうだな、朝までこのままって訳にもいかないし後で片付ければ問題ないんじゃないか?」

「じゃあ布団敷いちゃうね~」


 と言って南は押し入れから布団を出して敷き出した。


 でも朝までこの部屋でやり過ごしたとしても朝の点呼はどうするか?

 いや、まて。 就寝の時の点呼はどうしたんだ?


 もしかしたら俺達が居ない事に気づいて巡回していたのかもしれない。

 だとしたらこの部屋から出るのはマズイな。


「トモー、布団敷けたよー」

「おう、ありがとう……って、一組しか無いじゃないか!」

「元から一組しかなかったんだもん、しょうがないじゃん~」

「そうか、俺はてっきり……」


 そこまで言って、しまった! と思った矢先に


「てっきり、なぁに?」


 と嗜虐的な笑みを浮かべて効いてくる南。

 どうにかして誤魔化さないと


「ホテルだから二組あると思ったんだよ」

「ふぅ~ん」


 南は笑みを崩さずににじり寄ってきて俺の腕を掴む。


「ど、どうしたんだ?」

「ふふふ~、え~い!」


 という掛け声と共に俺は布団の上に引っ張り込まれた。

 南も体重を掛けて引っ張った所為かバランスを崩して倒れ込む。


 俺の横に倒れた南は顔だけこちらに向けて


「ねぇ、トモって童貞?」

「ブフォ!? い、いきなり何言い出すんだよ!」

「だってトモって色んな子から言い寄られてるし、楓とも付き合ってたからけいけんしてるのかなぁって」


 確かに楓と付き合っていたし、最近は色んな子に持て囃されている。

 だが、俺は年齢=童貞歴だ!


「俺はまだ童貞だよ! 悪かったな」


 と言うと、何故か南は微笑んで


「そっか」


 とだけ言って黙ってしまう。

 こんな話をした後に黙られてしまうと居心地が悪い。


 と考えていると、南はガバッ! と起き上がり


「とりゃー」


 と言って俺に被さってきた。


 この体制ってヤバくないか? 所謂いわゆる騎乗……。


「ねぇ、トモは女の子とそういう事したいと思わないの?」


 と耳元で囁く様に聞いてくる。

 湯上りのシャンプーの香りや南の柔らかい感触で急速に顔が熱くなる。


「そういう事ってなんだよ」


 とワザとらしく知らないフリをするが


「エッチな事、興味ないの?」

「えっと、俺も男だから興味はある、かな」

「だったらさ、私とシよ?」


 そう言って南は上体を起こして見つめてくる。

 大きな瞳は潤みを帯びて俺を真っすぐに見つめている。


 そうだ。

 俺の気持ちを伝えるのは此処しかない。

 そう思い俺も南を見つめ返す。


「トモ、好きだよ……」

「南……」


 俺は南の首に腕を回し抱き締める。


「あっ……」


 南の声が漏れる。

 俺は今までで一番強く南を抱きしめた。

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