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第118話 修学旅行

 月曜日、体調も元に戻り学校へ行くと、教室に入るなり


「あ! トモだー!」


 と南がいち早く気づき駆け寄って来る。


「もう大丈夫なの?」

「ああ、お見舞いありがとな」

「やっぱりあのドリンクが効いたんだね!」

「いや、それは無い」

「え~、なんでさ~」


 とやり取りをしていると、他のメンバーも俺の元へやってきた。


「友也、大丈夫か?」

「佐藤君が休んだ時大変だったんよ~」

「田口! ったくお前は……」

「大変だったって何かあったのか?」


 恐らくまた田口が口を滑らせたんだろう。

 中居に肘で小突かれている。


 それよりも俺が休んで大変だったっていうのはどういう事だろう。


 俺の疑問に答えたのは楓だった。


「ごめんなさい! 友也君が寝込んだのは私が不愉快な態度取った所為だって取り乱しちゃって……」


 と楓が言うと、それを補足する様に水樹が


「あんな楓見た事なかったからな。学校抜け出そうとしてたしな」


 と笑いながら言うと楓は


「皆にも迷惑かけてごめんね」


 と頭を下げる。

 そんな楓に俺は


「楓、俺の方こそヒドイ事言って悪かった! ごめん!」


 と深々と頭を下げる。

 すると楓は


「違うよ! 私が最初に変な態度取ったから……」

「いや、俺も曖昧な事してたから……」


 とやり取りをしていると中居が


「結局お前らはイチャつくのな」


 と呆れていた。


 その後予鈴がなりそれぞれ席に戻る。

 すると隣から


「ねぇねぇ佐藤、休んでる間に何かあった?」


 と及川が聞いてくる。

 何かというか色々な出来事はあったので


「何かってなんだ?」


 と聞き返すと


「ん~、何だか佐藤の顔が何か吹っ切れたみたいに見えたから」


 及川の奴、どんな観察眼してるんだ。

 及川に畏怖を抱きながら


「そうだな、色々と定まったって感じかな」

「なにそれ」


 という所で授業が始まり会話は中断された。



 授業が終わり皆が帰り支度や部活の準備をしている中、俺は楓の元へ向かい


「楓、少し話せないか?」

「ごめん! 今週は用具の準備係だから早く行かないといけないの」

「そっか、頑張れよ」

「うん、ありがとう」


 楓が無理なら次は南だな。

 今度は南の席まで行くと既に南の姿は無かった。


 近くに居た女子に聞いてみると


「部活の中でランキング大会があるからって最近は直ぐに部活行っちゃうよ」


 との事だった。


 友華さんとの事は早めに知らせておきたかったけどこれじゃ放課後は無理そうだな。

 かと言ってLINEで済ませていい話じゃないしなぁ。



 その後も授業が始まる前に話そうとしたが朝練等で話す事は出来なかった。


 沙月もこういう時に限ってシフトが被らないし、お見舞い以来顔も見せていない。

 友華さんには俺から話すからと言ってあるので友華さんから聞いてるという事はないだろうけど。



 そうこうしている内に修学旅行を迎えてしまった。


 自宅から一旦東京駅で集合し、そこからは学年全体で移動という形だった。


 空港に着き皆テンションが上がっている。

 かくいう俺も飛行機は初めてなので既にドキドキが止まらない。


 そんな中、やはりというべきか、田口がはっちゃけている。


「うおおぉぉーー! 初めて飛行機生で見たーー! デケーー!」


 とウザさMAXで叫んでいる田口に対して担任が


「あー、田口。帰っていいぞー」

「なんでー!?」

「言わなかったかー? テンション上げたら帰らすってなー」

「えー! あれって本気だったんッスか!」

「私が冗談言った事あるかー?」

「ないッスね……」

「分かったら大人しくしてろー、次は無いからなー」

「はい、スミマセン」


 俺も帰らす云々は冗談かと思っていたけど、まさか本気だったとは……。

 田口を見るとさっきまでのテンションが嘘の様に下がっている。


 そこに水樹が


「全く、彼女と居る時みたいに猫かぶっとけよ」

「そうですね。これからは気を付けたいと思います」

「ははは、それそれ!」

「むっ! そこまで笑わなくてもいいのでは?」

「すまんすまん、まぁ頑張れ」


 と話していた。


 ちょっと待って! 今何か聞き逃せない事言ってなかった?


「な、なぁ。今、彼女がどうって聞こえたんだけど……」

「ああ、友也は知らなかったのか! コイツ文化祭の後に告白して付き合い出したんだよ」

「えええぇぇぇ!?」


 あの田口に恋人が! 

 文化祭の後って事は相手は沙月の友達の片山恭子かたやまきょうこか!


「なんで教えてくれなかったんだよ」

「だって友也は友也で色々騒がれてたからな。タイミングが掴めなかった」

「まぁ、確かに文化祭の後は色々大変だったからな」

「そうだな、新島を怒らせたりな」

「ぐっ、返す言葉が無い」


 水樹はクククッと笑って


「そんな事よりも今は旅行を楽しもうぜ」

「……ああ、そうだな」



 こうして俺の想いを伝えられないまま修学旅行が始まった。

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