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第114話 お見舞い

 文化祭が終わり、慌ただしく中間試験を迎えた。

 中間試験では1学期の期末の様にそれぞれが教えあう形で乗り切った。


 そして11月も半ばに差し掛かり、高校生活最大のイベントといっても過言ではない行事が迫ってきた。



「とりあえず修学旅行先は例年通り函館だー。一応授業の一環として行くからあまりはしゃぎすぎるなよー」


 と担任が告げると


「先生~、テンション上げるなって方が無理っしょ~」

「そうか、なら田口は来なくていいぞー」

「ちょ、そりゃないって~」


 と、いつもの調子でおちゃらける。


「まぁ冗談は置いといて、班決めはお前たちでやって後で報告してくれー」


 と言って教室から出て行った。


 その後は各々自由に班決めを始める。


「友也ー、俺達も決めようぜ」


 と水樹から声が掛かる。

 俺はいつもの溜り場まで行くと


「男子のメンバーはこれでいいよな?」

「そうだな。ま、代わり映えしないのは愛嬌って事で」

「女子もいつもと同じでいいっしょー」


 男子は中居・水樹・田口・俺のいつものメンバーだ。

 だが女子はどうなるんだろう。


 田口が女子もいつものメンバーと言った後に水樹が


「田口、お前はもうちょっと周りを観察した方がいいな」

「え? どゆこと?」


 と田口が訳がわからないと言った様に首を傾げる。

 いつもなら田口だから仕方ないと切り捨てる所だが、原因は俺にある。


「もしかしたら女子はいつものメンバーじゃないかもしれない」

「どういうこと?」

「ちょっと色々あってさ」

「色々って何よ~、気になるじゃんか~」

「やめろ」


 田口が理由を聞いてこようとしたのを中居が止める。


「佐藤にも色々あんだよ」

「そうなんか~、ごめん佐藤君」

「いや、別にいいって」


 この日は結局女子メンバーは決まらず、次回また決めようという事になった。



 家に帰り風呂から上がったままの状態でベッドに横になって考える。


 なぜ俺が原因でいつものメンバーで集まれないかというと、単純に楓に無視されているからだ。

 理由は俺の不誠実な行動だった。


 文化祭でライブをやって以降、学年問わずに女子から人気が出た事が切っ掛けだ。

 ファンになったという子や、それこそ好きと言ってくる女子もいた。


 そんな彼女らにキッパリと断らずに希望を持たせてしまうような態度を取ってしまっていた。

 この事は水樹から教えられるまで気づかなかったが。


 そんな態度を取り続けた結果、楓から避けられるようになってしまったのだ。


 勿論その後俺の事を好きだと言ってくれた子にはキッパリと好きな人がいると伝え、俺なりに誠実に向き合ってきた。


 楓とも何度も話そうとしたが、何かと理由を付けて話を聞いて貰えないでいた。


 先週やっと話をしてくれたと思ったら


「自分に好意を寄せてくれるなら誰でもいいんでしょ?」


 と言われてしまった。


 俺はその言葉につい


「楓だってファンの男いっぱいいるじゃないか! 自分は良くて俺はダメなのかよ!」


 今思い出しても最低なセリフだ。

 楓が怒るのも無理はない。

 もしかしたら愛想を尽かされているかもな。


 そして今日の班決めの時も話しかけたが、案の定無視をされた。

 自業自得とはいえこのまま終わりたくはない。


 どうすれば仲直りが出来るのだろう。


 そんな事を考えている内にいつの間にか眠ってしまっていた。



 翌朝、目が覚めると体が重く、身体の節々に痛みを感じた。

 熱を測ってみると38.8度の熱が出ていた。


 風呂上がりの恰好のまま寝てしまったので風邪をひいてしまったらしい。

 柚希にはバカじゃないの? と言われてしまった。


 とりあえず学校に休むと連絡を入れて病院に向かった。



 目が覚めると既に空が暗くなりはじめていた。

 病院から帰ってきて薬を飲んでそのままずっと眠ってしまったらしい。


 熱を測ってみると、薬が効いたのか随分と下がっている。

 ベッドから起き上がり、汗で濡れたシャツを着替えようとすると


「いきなり何しだすの! お兄ちゃんのエッチ!」


 と柚希が叫んだ。


 何で柚希がいるんだ? と部屋をよく見てみると洗面器とタオルがテーブルの上に置かれていた。


「悪い、看病してくれてたのか」

「いいから早く着替えて!」


 柚希に言われるがまま着替えていると、無視できない言葉が発せられた。


「さっき新島先輩がお見舞いに来たよ」


 その言葉を聞いた瞬間に俺は思わず柚希の肩を掴む。


「本当か! さっきっていつだ? くそ! 今から追いかけて間に合うか?」

「ちょ、お兄ちゃん落ち着いて! 追いかけるなんて無理だよ。それにお見舞いに来たのは1時間前だし」

「そ、そうか、取り乱して悪かった」

「そういえばお見舞いの品貰ったよ。はい、これ」


 柚希はそう言って俺の好物のみかんと一枚のプリントを渡してきた。

 お見舞いの品がプリント? と訝し気ながらプリントを見る。


 プリントを見た俺は直ぐに楓にLINEを送った。

 すると直ぐに返事が来た。


〈よく寝れた? お見舞いの品見てくれたんだね〉


 俺も直ぐに返事を返す。


〈あのプリントは夢じゃないよな?〉

〈夢じゃないよ。今まで不愉快な態度取ってごめんなさい〉

〈謝るのは俺の方だよ。本当にごめん〉

〈私ね、友也君のファンの子達にヤキモチ焼いちゃってたの。大人げないよね〉

〈俺の方こそヒドイ事言ってごめん! チヤホヤされて舞い上がってた。俺が一方的に悪いよ〉

〈ふふ、お互い謝ってばかりだね〉

〈そうだな〉

〈ねぇ? 約束覚えてる?〉

〈ごめん、何の約束?〉

〈今日お見舞いに行った時家には上がらなかったんだよ〉

〈あっ!〉

〈今度家に行く時は二人きりの時に行くね〉

〈覚えてるよ。うん、わかった〉

〈修学旅行楽しみだね〉

〈ああ、凄い楽しみだ〉

〈あまり長く話してると体調悪化しちゃうから続きは学校でね〉

〈うん、ありがとう〉


 こうしてLINEのやり取りが終わり、再びプリントに目を落とす。

 そこには修学旅行の各班が載っていた。


 俺たちの班は楓を含めたいつものメンバーだった。

 体調が良くなったらもう一度楓に謝ろう。

 と考えていると


「なにプリント見てニヤニヤしてるの。気持ち悪い」


 と柚希から突っ込まれてしまった。

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