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第104話 自信を持って

 俺達が驚いていると、水樹は得意気に


「友也の歌の上手さは俺が保証するぜ」


 と言いながら肩を組んできた。

 堪らず俺は


「いやいやいや、無理だから!」


 と俺が拒否していると、バンドの人も


「水樹君が言うなら上手いんだろうけど、ステージに立った事ないんでしょ?」


 そうだよ、いきなりステージで歌える訳が無い。

 カラオケとは違う。


 だが水樹は


「俺の時だって初めてだったぞ? それに本番迄練習すれば大丈夫だって」

「そりゃそうだけどさ……」


 いくら練習したって無理だ。

 ステージで歌う度胸なんて元ぼっちの俺にあるはずがない。


 そうだよ!

 元ぼっちがステージで歌って誰が得するんた? 


 みんな水樹に歌って貰いたい筈だ。

 このバンドの人だって水樹を頼りにしてきたんだ。


「歌は俺が教えるから水樹がステージに立った方がいい」

「この曲目なら友也の方が絶対上手いって」

「そうじゃなくて、みんなは水樹に歌って欲しいんだよ」

「友也?」

「俺みたいな奴がステージに立っちゃダメなんだよ」


 と言い終わるや否や、水樹は俺の胸ぐらを掴んだ。

 そして俺を睨みながら


「俺みたいな奴ってどういう意味だよ! まさか自分が元ぼっちだからその資格が無いなんて思ってるのか?」


 ヤバい! すげぇ怖い! 

 だけど


「そうだよ! 俺なんかより水樹が歌った方が盛り上がるだろ!」

「っ!? ちょっとこっち来い。純は待っててくれ」


 と言ってかなり強目に引っ張られ、非常階段の所まで連れてこられた。


 そして水樹は俺に問いかける。


「友也、まだ自分がイケてないなんて思ってるのか?」

「そんな事は無いよ。去年よりずっと学校が楽しい」

「だったら何であんな事言ったんだ?」

「たまに……水樹達には敵わないなって思う事があるんだ。妹にさえそう思ってしまう瞬間がある」


 俺がそう言うと水樹は壁に寄りかかりながらため息と吐く。

 きっと呆れられたのだろう。

 と考えていると


「あのな友也、そんな事は誰しもが持ってるもんなんだよ。俺だってそう思う時がある」

「水樹が?」

「ああ、例えば中居だな。俺にはあんな真っすぐに物事を考えられない」

「中居は凄いよな」

「それに田口、俺にはあんなキャラは出来ない」

「やる必要ないだろ」

「それに友也、お前もだ」

「俺?」

「ああ。前にも言っただろ? お前の努力は誰よりも俺が認めてる」

「でも……」


 俺が黙っていると更に水樹は


「それに、お前の事が好きな新島や水瀬の気持ちはどうなる。お前の事を認めてるから好きになったんじゃないのか? それをお前は否定するつもりか?」


 水樹に言われ、二人の笑顔が脳裏をよぎる。

 こんな俺を好きでいてくれる。


 俺がどちらか選べない優柔不断な奴でも好きで居続けてくれている。


 俺は……。

 俺はなんて幸せ者なんだろう。


「水樹、俺は……」

「分かってくれたか?」

「ああ、二人の想いを踏みにじりたくない」

「それでこそ友也だ。さすが俺の好きな女をかすめ取っただけはある」


 と言って肩をポンと叩く。


 え? 今水樹は何て言った?


「んじゃ教室戻ろうぜ」


 と言って歩き出す水樹を引き止める。


「待ってくれ! 水樹が好きな女って?」

「あー、つい喋りすぎたな」


 と言って頭をかいている。

 そして


「実は新島の事が好きだったんだ。皆には内緒な?」


 と言い再び歩き出す。


「ちょ、冗談だよな?」


 と問いかけると


「さぁ? どうだろうな」


 とはぐらかされてしまう。


 水樹が好きだった相手が楓だった?

 そんな素振りは一度も見せた事ないじゃないか。


 俺を勇気づける為の嘘なのか?

 それとも……。



 教室に戻ると、さっきの言い合いの所為か皆から注目を浴びた。

 バンドの人の所まで行くと


「水樹君、大丈夫なの?」


 と不安そうに声を掛けている。

 それに対し水樹は


「全然問題ない。さっき言った通り友也に出て貰う」


 と言って軽く背中を叩かれる。


「俺でよかったら力にならせてくれ! 頼む!」


 頭を下げて頼むと、純と呼ばれている生徒は


「分かった。とりあえずどれくらい歌えるのか確認したいから今から部室まで来てもらっていいかな?」


 俺はチラリと水樹を見ると


「準備もあらかた終わってるから大丈夫だ。あと、やっぱり少し不安だから水樹も付いてきて欲しい」


 と言うと


「まぁ俺が推薦したしな。ちゃんと付き合うよ」


 と言ってくれたので、俺達はそのまま軽音楽部に向かった。



 部室に着くと


「早速で悪いんだけど、この曲歌ってもらえるかな」

「オッケー」


 スピーカーから曲が流れ、それに合わせて歌った。


 やはりカラオケと違って声があまり響かない。

 部室でこれじゃあステージだと後ろまで聞こえないかもしれない。


 それよりもバンドメンバーはどう思っているだろう。

 やはり今のじゃ厳しいかもしれない。


「えっと、どうだった?」


 と聞くと


「すげぇ! 音程もバッチリだし声量も申し分ない。それどころか最高だよ!」

「でも全然声が響いてなかったし、まだまだ練習しないと」

「いやいや、あれだけの声出しといて満足してないってどんだけだよ!」


 おお、なんだか凄く持ち上げてくれてる。

 俺のやる気を出させる為だろうか?

 と考えていると、水樹が


「友也は自己採点が厳しいんだよ。まぁカラオケで聞いた時程のインパクトは無かったな」


 と水樹が言うと


「マジで! これ以上上手くなるとかヤバイって!」


 と興奮している。

 そして


「今度は俺達の演奏に合わせて歌ってくれないか?」


 と言ってきたので


「生演奏は初めてだからよろしく頼む」


 そして今度はバンド演奏に合わせて歌った。


 全ての曲が終わった後


「本格的に軽音部に入ってくれないかな?」



 とスカウトされてしまったが丁寧に断った。

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