目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第102話 和解

 いつもより少し早めに登校した。

 看板を見た皆の反応を見たかったからだ。


 教室に入ると人だかりが出来ていた。

 俺がそこに近づくと、クラスメイトの女子が


「この看板ってもしかして佐藤君が作ったの?」


 と聞いてきた。


「ああ、昨日の内に作ったんだ。これで本番に間に合うだろ」


 俺がそう言うと


「スゲー!」

「めっちゃクオリティーたかくない?」

「っていうか休みの日に学校来て作るなんて凄い!」

「佐藤って頼りになるな!」


 という言葉が飛び交った。

 そんな中


「結局自分で作ってるんじゃん」


 と早川が言ってきた。


「まぁ、約束したしな」

「それって私の言い分が正しかったってことっしょ?」


 何処か勝ち誇った様子で言ってくるが


「実は俺一人で作った訳じゃないんだ」

「そりゃそうだろうね。一人で作れる完成度じゃないし」


 その時、丁度前田と後藤が教室に入ってきたのが見えた。

 このタイミングだと思い


「前田と後藤と一緒に作ったんだよ。な?」


 と机に鞄を置こうとしている二人を見る。

 二人はいきなり話を振られて戸惑っていたが


「う、うん。昨日一緒に作ったんだ」

「お、おう」


 と二人が答える。

 すると早川は


「でもさー、昨日までサボって皆に心配掛けたのは事実じゃ~ん」


 と言ってきたので、俺は二人をこちらへ呼び寄せる。

 そして


「別にさぼってた訳じゃないんだ。これを見れば分かる」


 と言って、前田の背中をポンと叩く。

 前田は鞄から大量の紙を出し


「じ、実はこれを作ってたんだ」


 と言ってビラを一枚早川に渡す。

 ビラを見た早川は


「これって看板の……」


 早川の反応を見たクラスメイトもビラをくれと前田に殺到する。

 そしてビラを見た反応は


「おぉー、スゲー!」

「このイラストって看板のやつじゃん」

「って事は二人が手伝ったって事は本当なのか」

「それにビラの数も半端ないって」

「つーかビラを作るなんて決めてなかったよな?」

「うん、そこまで頭回らなかった」


 前田と後藤は皆から褒められて照れくさそうにしている。


 去年、俺が椅子を直したと申告していればこうなっていたかも……。

 いや、過ぎた事を考えてもしょうがない。


 俺は未だに呆然とビラを見ている早川に向かって


「どうだ? これでも二人がサボってたって言うのか?」


 早川はもっと悔しそうにすると思っていたが、普段と変わらないトーンで


「やるじゃん。でもこういうのは先に相談とかした方が誤解されなくてすむんじゃない?」

「ご、ごめん」

「ごめんなさい」


 そして俺の方を見て


「昨日一緒に作ったって事は佐藤も焦ってたんじゃない?」

「確かにな。最初は俺一人で作ってたよ。流石にこれ以上は遅らせられないと思ってたからな」

「だったら何であそこまで二人を庇ったんだよ」

「昔の俺に似てたから……かな」

「何それ、変なの」


 と言って早川はいつものグループに向かって歩き出した。

 これでこの件は一件落着かな。

 と考えていたら、早川がこちらを振り向き


「佐藤、アンタの下の名前ってなんだっけ?」

「名前? 友也だけど」

「ふ~ん」


 と妙な反応を見せたが、そのままグループに合流した。


 今までのやり取りを見ていたのか、水樹が隣に立ち


「お疲れ」

「おう」


 と短いやり取りをして俺達もいつもの溜まり場へ向かった。


 溜まり場では田口が心ここにあらずといった感じでウロウロしている。

 中居を怒らせてしまったのだから無理はない。


 しかし当の本人はまだ登校していなかった。

 なので俺達が帰った後どうなったか聞く事にした。


「この間俺達が帰った後どうしたんだ?」

「佐藤君~、それはこっちのセリフだって~。中居君怒ってた?」

「えっと、まぁ、その~……」

「その反応で分かっちゃうよ~。隠すならもっと上手く隠して~」


 田口、そういう所を直さないとまた中居を怒らせるぞ。

 と若干イラッとしていると


「うーっす」


 と中居が登校してきた。

 月曜には元に戻ってると言っていたが少し心配だ。


「おっす」

「おはよう」


 と水樹と俺が挨拶をし、中居が席に着くと田口が物凄い勢いで頭を下げた。


「この間は本当にごめん!」


 水樹と二人で中居がどういう反応をするか固唾をのんで見守っていると


「ああ、俺こそ先に帰っちまって悪かったな」


 中居の言葉を受け、若干涙目になっている田口に対して


「それで? あの後は運命の人とやらには会えたのか?」


 と揶揄う様に話しかける。

 宣言通り、いつもの中居に戻っていた。


「それがさぁ、聞いてくれよ」


 と水樹が会話に加わる。

 中居の大人な対応のお蔭で、いつものグループに戻った。

 流石はトップカーストのリーダーだ。


 俺達が帰った後の事は俺も気になっていたので水樹の話に耳を傾ける。


「コイツ、中居を怒らせたっていって物凄くへこんでたんだよ」

「へぇ~」


 と言いながら中居は田口をチラッと見る。


「そしたら具合が悪くなったと勘違いした保健委員の子に話しかけられてやがんの」

「だっせー」

「ちょ、マジへこんでたからさ~」

「そしたらコイツ、その子と仲良くなって連絡先交換したんだよ」

「おいおい、あんな事しておいてよくナンパできたな」


 と中居が冗談半分で言うと


「いや、違うんだよ。女子の方から連絡先聞いてきたんだ」



 水樹の言葉を聞き、俺と中居は驚きのあまり固まってしまった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?