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第99話 人気者

 田口を連れ、沙月のクラス迄やってきた。

 人気なようで結構並んでいる。


「最後尾はこちらになりま~す!」


 と言って列を捌いている女子に従って最後尾に並ぶと


「あれ? 佐藤くん?」


 と話し掛けてきた。

 誰だろう?

 と考えていると


「え~、私のこと忘れちゃったんですか~?」


 と猫なで声で言ってくる。

 う~ん、誰だっけ。何処かで見た事があるような気がする。


 とその時


「香織ちゃんじゃん! 久しぶり~」


 と田口が挨拶をする。

 しかし香織ちゃんとやらは首を傾げている。


 何だこの状況は! 

 と思っていると


「俺の事覚えてないん~? ショックだわ~」


 と田口が言った事で思い出した。

 夏休みに合コンした時に沙月と一緒に居た子だ!


「ごめんごめん、ちょっとからかっただけだよ。合コン以来だね」

「も~、からかわないで下さいよ~。ビックリしたじゃないですか~」


 よし! 何とか誤魔化せた。

 この子は確か村本香織むらもとかおりだ。


 村本さんは肩口で揃えた髪にウェーブが掛かっている。

 身長は沙月と同じ位だが、胸がかなりデカイ!


「女子高の文化祭だから当たり前かもだけど、見事に男しか並んでないね」

「あ~、大体は沙月目当てなんですよ~」

「えっ! マジで?」

「はい、合コンとかで知り合った人ばっかりですけどね」


 おいおいマジかよ。

 沙月から男を虜にするのが快感って聞いてはいたけど……。


「でも最近は合コン誘っても来ないんですよね~。もう遊びはお終いにしたって言って」

「そうなのか」


 宣言通り俺だけを狙ってるって事なんだろうか。


 と俺と村本さんが話していると、田口が強引に割って入って来た。


「ねぇねぇ、それよりハワイアン綿菓子ってなに~?」


 それに対し村本さんは若干引き攣りながらもなんとか笑顔で答える。


「ここまで来てくれたんですから後のお・た・の・し・みですよ♪」

「うおおぉぉ! やっぱり香織ちゃんは可愛いな~」


 田口のテンションがおかしくなっている。

 それを察したのか、村本さんは


「それじゃあ私は仕事あるので失礼しますね。いっぱい買っていってくださいね♪」


 と言って俺達から離れていった。

 いっぱい買ってくださいねって言われても綿菓子はキツイだろ。


 しばらくして列が進み、受付までやってくると


「あっ! 佐藤君ひさしぶり~」


 と受付の子にも挨拶された。

 確かこの子も合コンに来ていた。


 確か名前は片山恭子かたやまきょうこだったはず。

 片山さんは栗色の髪を腰まで伸ばしていて、揺れる髪からは良い匂いがする。

 身長は低めだが、スタイルは抜群で、男受けしそうな感じだ。


 さっきの様な失敗をしない為に自分から話を振る。


「そこで村本さんとも会ったよ」

「そうなんですね! 私の事も覚えてくれてます?」

「片山さんでしょ? ちゃんと覚えてるよ」

「よかった~。あの日は佐藤君ずっと沙月と喋ってたから覚えて貰えてないと思いました」

「まさか。皆可愛かったから凄い印象に残ってるよ」

「ありがとうございます~。もしかして沙月に会いに来たんですか?」

「チケット貰ったからさ。それに俺達の出し物のヒントとかないかな~って感じかな」

「も~、そこは嘘でも私に会いに来たって言って欲しかったです」

「あ! ご、ごめん」

「ふふ、冗談ですよ。では順番来たので楽しんで下さいね~」


 そう言って促されるまま教室に入る。


 そこには何とも言えない光景が広がっていた。


 壁一面にハイビスカスを形どった造花が散りばめられ、南国っぽいBGMが流れている。

 教室の端に綿あめ機が置いてあり、皆そこに並んでいるのだが、どこか悔しそうに見える。


 そして教室の中央では一段高くなったステージがあり、その上には沙月がいた。


「それじゃーいっくよー!」

「「おおおぉぉぉ!」」

「じゃーん、けーん、ぽん!」

「「負けたぁぁぁ!」」


 この光景テレビとかで見た事あるな。

 そうだ! メイド喫茶特集で見た事ある。


 しかしここはメイド喫茶ではない。

 俺は後ろを振り返り、片山さんにどういう事か聞くと


「じゃんけんで沙月に勝てば沙月の手作りが食べられるんです」

「……え! それだけ?」

「はい。本当は2ショット写真とかやりたかったんですけど写真撮影禁止なのでこうなりました」


 いやいや、それでもこんなに盛り上がるとか凄すぎだろ。

 手作りと言ったって綿菓子だぞ? 機械っでクルクルするだけの。


 だがそれだけ沙月が人気という事か。

 今来ているアロハシャツも際どい感じにアレンジされている。

 その上沙月が猫被っているから男達からしたらお姫様みたいな感じなのだろう。


 俺達の前の順番が終わり、ステージ前に移動すると、沙月が俺に気づいた。


「友也さん! 来てくれたんですね、嬉しいです~!」


 と言いながら手をブンブン振っている。

 沙月がそんな事をするものだから男連中の視線が一気に俺に集中する。


 俺は軽く返事をする。

 すると、それを見た沙月は満足そうに微笑む。


 やめてくれ! 視線が痛い!


 そうこうしている間にじゃんけんタイムになった。

 さっき片山さんから聞いたが、沙月は未だにじゃんけんで負けていないらしい。


「それじゃーいくよー! じゃーん、けーん、ぽん!」


 じゃんけんの掛け声が終わると共に負けた男達の絶叫が木霊する。

 さすが無敗の沙月だ。


 と思っていたら


「はい、こちらの方の勝利です! お見事~!」


 俺だけ勝っていた。


 教室中の男達に殺意の籠った視線を受けながら綿あめ機の列に並ぶ。


 俺は生きて帰れる気がしなかった。

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