今日で準備を始めて1週間が経った。
その間、前田と後藤が教室で作業する事は無かった。
いつも通り文化祭の準備に取り掛かる。
二人の姿を目で追っていると、教室から出ようとするところだった。
流石にこれ以上はマズイと思い声を掛けようと思ったその時、早川が先に動いた。
「ちょっと待ちな!」
二人はいきなりクラスの女王に話しかけられビックリしている。
「な、何か用?」
とオドオドした感じで聞くと
「用があるから話かけてんだけどー」
「ご、ごめん」
「あんたらさぁ、いつも帰ってるけどちゃんと看板作ってるわけ?」
「ちゃ、ちゃんとやってるよ」
「それにしては全然看板のかの字も見えないんだけどー」
「それは……」
このままじゃヤバイと思い間に入る。
「まぁまぁ、落ち着けって早川」
「はぁ? なんでお前が出てくんだよ」
「こいつらの話も聞こうぜ。何か訳があるんだよ。な?」
と話を振ると二人ともバツが悪そうに
「べ、別に……」
あー、そこは話を合わせて欲しかった。
「ほら、何もねぇじゃん。ただサボりたいだけなんだよ」
その可能性は薄々感じてはいた。
「善人ぶってんじゃねぇよ」
……は?
「おい、俺がいつ善人ぶったっていうんだよ。お前はいつも自分の意見を無理に通し過ぎなんだよ」
「つーか皆作業してんのにサボろうとしてんのが悪いんだろ!」
「まだサボってるって決まった訳じゃねえだろ!」
「そんな悠長にしてて看板が出来なかったらどうすんだよ! お前が責任取るんだろうな?」
「ああ、俺が責任持って作ってやるよ! だけど俺はあいつ等を信じてる!」
俺達が言い合っているといつの間にか人だかりが出来ていた。
水樹が近づいてきて
「どうしたんだよ友也、らしくないぞ。それに早川も言い過ぎなんじゃないか?」
「いや、前田と後藤が帰ろうとしてて……あっ!」
いつの間にか前田と後藤が居なくなっていた。
「あーあ、結局あいつ等帰ってんじゃん。折角庇ったのにごくろうさまー」
と言い残して去って行った。
頭の処理が追いつかず呆然としていると
「……で? 何があったんだ?」
と水樹が事情を聞いてきたので説明した。
「そりゃ災難だと思うけど、さっきのは言い過ぎだったぞ。友也らしくもない」
「すまない。正直水樹が来てくれてたすかった」
「あんな大見得切ってどうするつもりなんだ?」
「あっ! つい熱くなって売り言葉に買い言葉で言ってしまった」
まさか自分が此処まで熱くなるなんて思わなかった。
昔の自分なら熱くなるどころか冷めてたかもしれない。
「まぁここは一旦リフレッシュでもしようぜ。そうそう、丁度明日女子高の文化祭あるから付き合えよ」
そう言って水樹はチケットを取り出した。
そのチケットには見覚えがあった。
「あっ! そのチケット俺も持ってる。沙月から貰ったよ」
「マジか! 一枚で二人分だから中居と田口も誘うか」
「そうだな」
「んじゃ二人は俺から誘っとくからそろそろ準備に戻るか」
「ああ、水樹サンキューな。お蔭で冷静になった」
「そりゃよかった」
水樹に……クラスの皆に迷惑かけちゃったな。
ああいう時こそ冷静に対応しなきゃだな。
その後何事も無くその日の準備は終わった。
前田と後藤は戻って来る事はなかったが。
翌日、沙月の高校の文化祭に行く為に指定された待ち合わせ場所に向かっている。
てっきりいつものターミナル駅だと思っていたが、結構離れているらしい。
待ち合わせのバスターミナルに着くと、既に皆集まっていた。
「悪い、遅くなった」
「全然大丈夫だ」
「おっす」
「ウィーッス」
挨拶をしている間に丁度バスが来たので乗り込む。
バスに揺られる事15分、学校近くの停留所に着いた。
バスに乗っていた人達の殆どがここで降りる。
どうやら目的は同じらしい。
「やっべー、緊張してきた」
と言いながら目を輝かせる田口。
「正門の受付でチケットの確認あるみたいだから俺と友也で行ってくるわ」
そう言って俺と水樹が受付へ向かう。
チケット制にも関わらずかなりの人でごった返している。
受付の子にチケットを見せて同伴者が二人居る事を伝える。
すると受付の子が注意事項を説明してくれた。
大体は迷惑行為等の基本的な物だったが、校内での写真撮影は全面禁止。
もし破った場合は親や俺達の高校に連絡が行くらしい。
さすがお嬢様学校なだけはあるなと感心していたら、今度は金属探知機での検査だった。
これには中居と田口も参加義務があるらしいので二人を呼び寄せる。
全ての検査が終わり、俺達は漸く校内に入る事ができた。
「ここまでするとかすげぇな」
「何も悪い事してないのに怖くなったよー」
と中居と田口が感想を漏らす。
俺もここまで厳重だとは思っていなかったのでビックリした。
よく沙月は此処に通えてるな。
と若干沙月に悪い事を考えていると
「よし、何処から周る?」
といつもの様に仕切る水樹。
水樹は別段驚いていない様に見える。
こういうのは慣れているのだろうか。
「ハイハイ! 沙月ちゃんのクラスに行きたい!」
と田口はテンション高めに言う。
それに対し水樹は
「ん~、中居はどうする?」
「っつか、その沙月ってのは田口のなんなんだ?」
「覚えてないのか? いつも行くファミレスの子だよ。この間話してただろ?」
「覚えてねぇわ」
流石というべきか、沙月のあのキャラを忘れるとは。
「友也はどうする?」
「俺は行くって約束しちゃったから顔出すよ」
「なら暫く別行動するか。昼に此処で待ち合わせって事で」
「分かった」
俺と田口で沙月の教室に行く事になった。
こんなハイテンションの田口と二人きりは少し不安だ。
「田口、あんまりはしゃぐなよ?」
と一応念を押す。
「分かってるってー。よっしゃー、待ってろよ俺の運命の人ー!」
全然分かっていなかった。
田口が変な事を叫ぶので周囲の注目を集めてしまった。
俺は軽く田口の頭を叩いて
「お前が変な事叫ぶから注目されてるだろ! ほら、さっさと行くぞ」
と言ってその場から逃げる様に歩き出す。
その後を田口が
「悪かったってー。だから置いてかないでくれよー」
と言いながら着いてくる。
はぁ。夏休みの水樹の苦労が少し分かった気がした。