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第86話 4人で

 沙月が戻ってきて店員を呼ぶ。

 どうやらおすすめスイーツを注文したようだ。


「友也さんは何か食べますか?」


 と聞かれ、時計を確認すると既に昼を少し過ぎていた。

 今から帰って食べるのもなんなので俺も注文する事にした。


「じゃあ俺はチーズチリドッグ一つお願いします」


 注文を終え、アイスコーヒーを飲んでいると


「友也さん、一つだけ聞いていいですか?」


 と、珍しく真面目な顔で聞いてくる。


「なに?」

「本当はどうして変わろうとしたんですか?」


 突然の核心を突いた質問にむせそうになるが堪える。


「彼女が欲しかったからって聞いたんだろ」

「はい。でもそれは嘘だと思うんですよ」

「どうして?」

「それはですね……」


 少し溜めを作って


「根暗な人が此処まで変わろうとするなんて生半可な気持ちじゃ出来ないと思うんですよ」

「確かにな、俺もそれまでは変わろうなんて考えなかった」

「お姉ちゃんは友也さんが好きで変わろうとしてます。友也さんも本当は好きな人の為に変わったんじゃないですか?」


 なるほど、友華さんが変わる理由が恋なら、俺も恋で変わったと思ったのか。


 どう答えるべきなのだろうか。

 変わろうとしたのは柚希の為だ。


 例え好きな人の為に変わったと言っても誰を好きだったか聞かれるだろう。

 ここは楓の為と答えておくべきか?

 楓なら口裏を合わせてくれるだろう。


 と考えていたら


「新島楓って人じゃないですよね」


 と先に釘を刺された。


「どうして楓じゃないって言いきれるんだ?」

「お姉ちゃんから聞きましたが、その人は学校一の美人なんですよね?」

「まぁ、そうだな」

「だからです。根暗でいつも一人でいる人がそんな眩しい存在を好きになるのはありえません」

「キッパリ言うな」

「お姉ちゃんを見てきたので分かります」


 確かにボッチにとって楓の様な女子は自分とは不釣り合いと考えて、最初から恋愛対象にならない。

 友華さんという身近な存在がいたからこその考えだろう。


 仕方ない、柚希の事を話そう。


「分かったよ、本当の事を話す」

「はい!」

「実は……」


 柚希の自己顕示欲が強い部分だけを隠して全てを話した。


 俺の話を聞き終えた沙月は


「その柚希ちゃんって凄いですね!」

「驚くのそこ!」

「だってボッチでオタクだった友也さんを此処まで変えたんですよ!」

「まぁそうだな」


 言われてみれば確かにそうだよな。

 でも俺の努力も褒めて欲しいな。


 なんて考えていると、沙月は


「柚希ちゃんに会ってみたいです! 会わせてください」

「いきなりどうしたんだよ」

「柚希ちゃん1年生なんですよね? 同い年だしなんだか仲良くなれそうです!」

「ん~、アイツ部活やってるしな~」


 と俺が渋っていると


「お願いします。お姉ちゃんを変えるヒントを聞きたいんです!」


 と真っすぐ俺の目を見て言う。

 これは断れないな。


 だけど柚希がうん。と言うかだ。

 柚希にメリットがないと動きそうもない。


 そこまで考えて、思いついた。

 自分でもちょっと引く内容だが仕方ない。


「だったら今度、友華さんも誘って四人で遊ぶか? その時に紹介するよ」

「本当ですか!」

「ああ、友華さんは一度柚希に会ってるし問題ないだろ」

「ありがとうございます! それで何時にしますか? 明日でも大丈夫ですよ!」


 凄い食いついてきたな。

 やっぱり友華さんを変わらせたいという想いが強いのだろう。


「まてまて、柚希の都合もあるから、話はそれからだ」

「分かりました。お姉ちゃんには私から伝えておくので、都合の良い日があったらLINEください」

「わかった。けど柚希次第だからあまり期待するなよ?」

「分かってますって!」


 柚希次第で出かけるという事で話が纏まり、この日はここで別れた。




 ウチの最寄り駅の前で、柚希と二人で桐谷姉妹を待っている。


 あの日の夜、いつもの会議の時に沙月が会いたがっている事や友華さんの事情を話した。

 そうしたら俺の思い通り食いついてきた。


 柚希は友華さんに目をつけていたから友華さんと一緒に遊ぶと言えば来ると確信していた。

 しかし、柚希が食いついたのは沙月だった。


『なんだか沙月ちゃんとは仲良くできそう』


 との事だ。

 沙月も柚希と仲良くなれそうと言っていたし、お互い何かを感じたのだろう。


 その日の内にLINEで日程を決めて、今日が四人で遊ぶ日となった。


「う”~、お兄ちゃん~あつい~」

「運動部だろ? 多分もう少しで来るから我慢しろ」


 今日は天気予報だと酷暑日らしい。

 日陰にいてもかなり暑い。


 それから少しして改札から二人が出てきた。


「お待たせしましたー!」


 と沙月が元気よく挨拶する一方で、友華さんは控えめに


「お、お待たせしてすみません」


 と頭をさげる。

 俺が挨拶を返そうとすると、柚希が素早く俺の横に来て自己紹介をする。


「始めまして、佐藤柚希です。佐藤友也の妹です、よろしくおねがいします」


 とものっ凄い笑顔で自己紹介をする。

 さっきまで熱さでうな垂れていたとは思えない。

 流石は完璧美少女!


「私は桐谷沙月で、こっちが姉の友華です」


 と沙月も負けず劣らず満面の笑みで返す。


 友華さんとは一緒に帰った時以来会ってなかったので久しぶりだ。

 沙月から友華さんの気持ちを聞いてしまっているのでどう接したらいいのか悩んでいると


「お、お久しぶりです」


 と友華さんの方から挨拶してきた。


「お久しぶりです……」


 挨拶をして近くに行くと、ある変化に気づいた。


「髪切りました?」

「は、はい。へ、変じゃないですか?」

「いえ、凄く可愛いです」


 髪を切ったと言っても軽く剝いた程度だろう。

 しかし、それだけで大分印象が変わっている。


 思わず可愛いと口から零れてしまった。


 思わず口から出た『凄く可愛い』という言葉を受けて、友華さんは顔を真っ赤にする。

 その反応を見て俺迄赤くなりそうだった。

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