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第74話 決着?

 俺は今、川の桟橋に向かって走っている。

 急がないと楓が帰ってしまう。


 自販機から桟橋まではそれほど離れていないが、時間ギリギリだ。


 漸く桟橋が見えて、楓の姿も確認出来る。

 楓も俺に気づき手を振ろうとして、その手は中空で止まった。


 そして視線は俺から外れる。

 視線は俺の横を走る水瀬南に向けられていた。


 桟橋の中央に楓が佇んでいた。

 その表情には悲しみと困惑が混じっている。


 俺は敢えて楓の近くには行かず、数メートル手前で立ち止まる。

 しかしミナミは楓の隣まで行き、楓と並んで俺を見つめている。


 最初に声を挙げたのはミナミだった。


「約束通り此処まで来たんだからちゃんと聞かせてね」


 その言葉を聞いた楓が驚いている。


「え? 南が選ばれたんじゃないの?」

「最初は私もそう思ったんだけど、トモがどうしても二人同時に聞いて欲しいみたい」


 そう。俺は最初に自販機に行ってミナミと会ったが、答えはまだ伝えていない。

 俺の出した答えはどうしても二人同時に聞いて欲しかった。

 なので、ミナミに無理を言って此処まで付き合って貰ったのだ。


「友也君、どういう事?」


 と楓が聞いてくる。

 俺は姿勢を正し、二人を正面に捉えて言う。


「俺が出した決断をどうしても二人同時に聞いて欲しかった」


 戸惑う二人を余所に、俺は深く深呼吸をし、二人を見据えて言葉を続ける。


「俺は春からリア充を目指して頑張って来た。そして学校一のアイドルの楓と付き合う事が出来た。それどころかにまで好意を抱かれる様になった。夏休み前から始まったアピール対決も凄く楽しかった」


 二人は俺の言葉を神妙な面持ちで聞いている。


「俺は楓の事が大好きだ!」


 楓は涙を流している。

 南は俯いて震えているのがここからでも分かる。

 だが、俺が伝えたい事はまだ終わっていない。


「でも、南の事も楓と同じ位大好きになってた!」


 南は顔を上げてこちらを見る。


「楓が好きだ! 南が好きだ! だから今はどちらとも付き合えない」


 アピール勝負が決まった時は楓以外の選択肢は無かった。

 だが、柚希に言われ逃げる事無く南の気持ちと向き合った。


 そして気づいたら南の事を、楓と同じくらいに好きになってしまっていた。

 こんな気持ちのままどちらかと付き合うなんて事は俺には出来なかった。


 俺の懺悔にも似た言葉を聞いて、最初に口を開いたのは楓だった。


「二人とも同じ位好きだから付き合えないって事?」

「ああ、不誠実な事はしたくない」


 今度は南が口を開く。


「私がここで身を引けば楓と付き合う?」

「いや、付き合わない。例え南が身を引いたとしても俺の気持ちは変わらない」


 どちらかが身を引くという事は犠牲になるという事だ。

 そんな事をされてまで付き合おうとは思わない。


「確認なんだけど、私と南、両方好きって事でいいんだよね? 嫌いとかじゃないよね?」


 と楓が確認してくる。

 俺が二人を嫌う? そんな事はあり得ない!


「二人とも大好きだ! でも、付き合えない」


 俺の言葉を聞き、楓は「はぁ……」とため息を吐いた後


「要するに友也君が優柔不断って訳だ。もっと言えばヘタレちゃったんだね~」


 と俺にクリティカルヒットを浴びせる。

 そして続けてこう続けた。


「この先、二人の内どちらかの気持ちが強まれば付き合えるのかな?」

「俺自身、このままじゃダメだと思ってる。だから答えはちゃんと出すよ」

「その所為でどちらかが泣くとしても?」

「ああ、だから俺に時間をくれないか?」


 楓は何やら考えている。

 一方、南は瞳を輝かせ


「だったら今よりもっと好きになって貰えるようにアピールすればいいって事でしょ?」


 と南らしいポジティブな考えが飛び出した。

 そして南は楓に向かって


「アピール対決の延長戦だね! そんな風に悩んでる間にトモは貰っちゃうから!」


 と言って俺の元まで来て腕を組む。

 わざとらしく胸を当てて。

 それを見た楓が


「ふう、しょうがないか。今まで以上に積極的に行くから覚悟しておいてね!」


 と言って楓も俺の元まで来て、南とは反対側の腕に絡みつく。


「ごめんな、俺が優柔不断な所為で」

「私はそんな友也君を一年の時から知ってるから大丈夫だよ」

「わ、私だってトモの事大好きだからこんな事で諦めないよー」


 そう言って二人は火花を散らす。

 そして頷きあって二人同時に頬にキスをする。


 俺が戸惑っていると


「今のは今回答え出せなかった事のお仕置きね♪」


 と言って楓が微笑む。


「やっと南って呼んでくれたね。私も負けないから覚悟しててね♪」


 と言って南も微笑む。


 こうして俺の優柔不断によって、アピール対決は延長戦に入った。




 しかしこの状況を中居達にどう説明しよう。


 流石にこれ以上は隠し通せなそうだ。

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