右側に楓、左側にミナミという両手に花状態で学校に向かう。
駅での牽制のし合いが嘘の様に仲良く喋っている。
そんな二人に向けて質問する。
「楓とミナミが勝負してる事は中居達には言うのか?」
「ん~、言わない方がいいかも」
と、答えたのは楓だ。
「理由はどうであれ、私達が別れた原因は南だから中居は納得しないと思う」
確かに第三者から見れば、別れた原因の女子が猛アピールしてるのを快く思わないかもしれない。
中居は正義感が強いから尚更だろう。
「それじゃあ学校では今まで通りに過ごした方が良さそうだな」
「そうだね~」
と楓と結論づけるとミナミが
「気を使わせちゃってごめん」
と謝って来た。
それに対して楓が
「気にしなくたっていいよ。でもこれじゃ公平な勝負にならないね」
「どうしてだ?」
「私は学校でアピール出来るけど、南は学校じゃアピール出来ないでしょ?」
「ああ、確かに」
普段通り過ごすとなるとミナミは何も出来ない。
どうするか悩んでいるとミナミが
「提案があるんだけどいいかな?」
と言ってきたので
「何かいいアイディアでも思いついたのか?」
と聞くと
「夏休みまであと少しでしょ? だからその間は私は我慢するよ。その代わり夏休みに入ったら最初の3日間は私に頂戴。キャンプまでの残りの日は一日おきに順番でアピールする日にするの。どうかな?」
ミナミの提案を聞いて楓が考える。
今の提案なら中居に気づかれる事もないと思う。
「俺はミナミの提案でいいと思うけど楓はどうだ?」
「最初の3日間だけでいいの? 夏休みまで2週間はあるよ?」
楓だけ独り占めできる時間が多いけどいいのか? という事だろう。
楓の質問に対してミナミは
「私の自業自得だし仕方ないかなって。それに学校でアピールできなくてもLINEでやり取りできるしね」
とスマホを見せながら言う。
「南がそれでいいなら私は何も言わないよ」
「ありがと楓」
といった感じで今後の方針が決まる。
夏休みの順番等はまだキャンプの日取りが決まっていないので後日決める事になった。
ミナミの提案を受けてから三日が経った。
その間も学校では楓が付き合ってる時と変わらず手作り弁当を作ってきたり、スキンシップが多くなった事から水樹から
「お前達ホントに別れたのか?」
と言われる程だった。
ミナミはいつも通り俺達を及川と一緒になって揶揄っていた。
そして期末試験も終わり、明日から部活が再開となるので全員でファミレスに集まっていた。
「試験も終わった事だし本格的にキャンプの計画進めるか」
と水樹が切り出すと、田口が待ってました! と言わんばかりに
「よっしゃー! 遊ぶぞー!」
と気合を入れていた。
試験で鬱憤が溜まっていたのかいつもよりも声がデカイ。
「前少し話したけど新島の言ってた所で問題ないか?」
と全員に確認を取る。
反対意見など出る筈も無く、全員が頷く。
「そんで費用なんだが、向こうで機材や食料は準備されてるらしいから一人辺り一万と見といてくれ」
水樹の仕切りでどんどん話が纏まっていく。
俺もいつか水樹の様になれるのだろうか。
「日程についてだけど、部活組はいつまで部活ある?」
と聞くと中居が
「7月一杯は無理だな。行くなら8月はいってからだ」
とサッカー部のスケジュールを言う。
「私は部活の合宿もあるから行けるとしたら8月の頭らへんかな~」
と楓が答えると、それに続いてミナミが
「私も合宿あるから楓と同じかなー」
と答える。
そして今度は俺に予定を聞いてくる。
「友也は何か予定とかあるか?」
「いや、特に予定は無い」
「そうすっと、8月の頭で決まりだな。後は今から予約が取れるかどうかだな」
と言って顎に手を当てて真剣に考える。今から予約となるとどこも一杯で難しいかもしれない。
最悪計画自体が流れてしまう。
そんな暗い雰囲気を吹き飛ばす様に楓が立ち上がり
「こんな事もあろうかと、キャンプの話題が出た時に予約はしておきました~!」
と言って自分の胸を叩く。
「さすが新島、抜け目ないな」
「へっへ~ん! もっと褒めていいからね~」
「で、何日に予約入れたんだ?」
「8月3日に入れといたよ。事前に各部活の顧問にスケジュール聞いておいたからね!」
「新島には頭上がんねーわ」
なるほど、これで納得がいった。
ミナミと勝負する時にキャンプまで時間ないけどと言ったのは既にキャンプの日程が分かってたからか。
ここまでいくと楓がどこまで計算してるのか分からないな。
その後、持っていく物や集合時間等を話し合って解散となった。
最寄り駅からの帰り道、ミナミと歩いていると
「今二人きりだけどいいのかな? 夏休みまで我慢するって言ったのに……」
と、申し訳無さそうに言うので
「問題ないだろ。皆で集まったら最寄り駅が同じの俺達が一緒になるのは仕方ないって」
「そうかな?」
「それに楓も何も言って来ないだろ? だから大丈夫だよ」
「そっか、そうだよね!」
と言って大きく伸びをした後にクルッと周ってこちらを向き、満面の笑みで
「トモ! だーい好き!」
と言って抱き締められた。