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第62話 アプローチ

 俺と楓は別れこそしたが決別した訳ではない。

 寧ろ楓への気持ちの再確認の時間じゃないだろうか。

 だったら俺達が一時的に別れた事は皆には言わなくてもいいだろう。

 そう考えていたら


「皆には私達が別れた事はキチンと言わないとね」


 と言ってきた。

 俺は思わず


「別に言う必要はないんじゃないか?」


 と言ってしまった。

 皆に知られる事で本格的に≪別れた≫となってしまう事が怖かった。

 だが楓は


「ダメだよちゃんと言わないと。じゃなきゃ公平じゃないでしょ?」

「そ、そうだよな」


 公平じゃないと言うのはミナミに対しての事だろう。

 でもミナミの事だからきっと……。


「もう、そんな暗い顔しないで! 美少女二人からアプローチされるんだから堂々としてないと!」

「ん? 二人からアプローチ?」

「私だってただ見てる訳じゃないよ? いっぱい好きになって貰えるように色々アプローチするからね♪」


 俺はてっきり楓はミナミの事を見守ると思っていたが


「私が黙って友也君を渡す訳ないでしょ!」


 との事だった。

 なるほど。だから美女二人からのアプローチになるのか。

 あれ? これじゃまるでギャルゲーの主人公みたいじゃないか。


 二人で理科室を後にし、教室に戻ると


「また二人でイチャついてたのか?」


 と、水樹が揶揄うように言ってくる。

 それに対して楓は理科室で話した通りに


「皆にお知らせがあります」


 と皆の注目を集めてから


「私と友也君は別れる事になりました」


 一瞬の静寂の後


「「「「「えええぇぇぇぇ!?」」」」」


 と今までで一番大きなリアクションを見せた。


「なんでなんで! どうしてわかれたの?」


 と及川が楓に詰め寄る。

 俺の方には男子組が押し寄せる。


「おい友也、どういう事だよ」

「お前何かしたのか?」

「ヤバイわ~、佐藤君マジでパないわ~」


 と三者三様の反応を見せる。

 俺は楓と打ち合わせ通りに答える。


「俺が楓の事好きなのかどうか分からないって言われて一旦別れる事にしたんだ」


 と説明すると


「いやいや、お前新島にベタ惚れだっただろ」

「友也が新島の事好きなのは俺達が良く分かってるけどな」

「そうそう! 佐藤君いつもニヤニヤしてたしね~」


 楓が予想した通りの反応が返ってきたので、楓が用意した返事を言う。


「今のままじゃ満足出来ないから一旦別れて猛アピールするらしい」


 楓曰く、こう言えば俺へのダメージは無いとの事だ。


「うわー、マジか」

「あれで満足出来ないってヤバイな」

「新島さん貪欲すぎんよ~」


 これも楓が言った通りの反応だ。

 楓の方をチラッと見ると、及川も水樹達と同じような反応をしていた。

 しかしミナミだけは浮かない表情をしていた。


 その後昼休憩も終わり午後のテストも無事乗り切り帰り支度をしていると


「佐藤君、ちょっといいかな?」


 と声を掛けられた。

 声のした方へ振り向くと他のクラスであろう数人の女子が俺の所に集まっていた。

 一体なんだろう? と考えていると


「新島さんと別れたってホント?」


 と代表者らしき女子に聞かれた。

 もう噂が広まったのかと考えながら


「ああ、別れたよ」


 と答えると、何処か嬉しそうに


「そうなんだ、辛いね」


 と言った後


「良かったら帰りカフェでも行かない?」


 と誘ってきた。

 これは一体どうしたらいいのだろうと考えていると、スマホが震えた。


「ちょっと待ってね」


 と言い、スマホを確認するとミナミからだった。

 内容は


〈話したい事があるから非常階段横の教室まで来て〉


 と書かれていた。

 きっと俺達が別れた事についてだろうと思いミナミの方を見るとミナミと目が合った。

 ミナミは一回頷くと、俺から視線を外し教室から出ていった。

 俺はスマホを仕舞い、待っている女子達に


「ごめん、この後用事があるから」


 と伝えると「残念~、それじゃまた誘うね~」と言って帰っていった。

 女子達が居なくなると同時に水樹達がやってきた。


「モテモテだな友也」


 と揶揄う様に言ってくる。

 いや、実際に揶揄っているのだろう。滅茶苦茶笑ってる。

 しかし直ぐに真剣な顔になり


「しっかし楓と別れた瞬間にアタックしてくるなんてな。現金な奴等だよ」


 と何処か軽蔑の色が見える声色で言う。

 中居も続けて


「お前も変な女に引っかかるなよ?」


 と注意してくれる。

 俺はそんな二人に対して


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


 と言うと、中居があさっての方向を向きながら


「お前が変な女に引っかかったらこっちが困るからな」


 と中居のツンデレが炸裂した後、水樹が明るく


「取りあえず今日はパーッと遊ぼうぜ?」


 と提案すると、田口もそれに乗っかり


「やっぱこういう時はゲーセンっしょ!」


 と拳を掲げながら言うと


「お前はパンチングマシーンやりたいだけだろ」


 と中居にツッコまれて一笑い起きる。

 俺を励まそうとしてくれているのが分かって嬉しかったが


「悪い、この後用事があって学校に残ってなきゃならないんだ」


 と言うと中居が


「んだよノリ悪ぃな」


 と不満を漏らすが、水樹が


「まぁまぁ、今日は一人にしてやろうぜ」


 とフォローを入れてくれて、そのまま水樹達とは別れた。

 教室を見渡すと殆どの生徒が帰宅したようなので、ミナミに指定された教室へ向かう。


 指定された教室に着き、扉を開け中に入る。

 薄暗い教室の真ん中でミナミが立っていた。


「遅くなって悪い、話ってなんだ?」


 と話しかけると


「もうちょっと待って」


 と言って黙ってしまう。

 つられて俺も言葉を発せられず黙ってしまう。

 やや重い空気の中、数分が経過した時教室の扉が開いた。

 入り口の方を見るとそこには


「楓?」


 楓は扉を閉めながら


「やっぱり友也君も居たか」


 と言いながら俺の横まで来る。

 それを見届けてからミナミがようやく口を開いた。


「楓と佐藤が別れたのは私の所為だよね?」


 と涙目で問いかけてきた。

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