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第61話 別れ

 寝ようとして目を閉じるとミナミの唇の感触が蘇り、ミナミの事を考えてしまっていた。

 今日のお礼と言ってたけどそれをそのまま受け止める程俺も鈍感じゃない。

 前に楓と柚希に言われていたが、ミナミは少なからず俺に好意を抱いているのだろう。

 だとすると、俺はミナミに対してどう接するべきなのだろうか?

 等考えている内に朝を迎えてしまった。


 結局答えがわからないまま登校し、自分の席に座ると


「おーい友也」


 といつもの溜まり場から水樹が俺を呼んだのでそちらに向かう。

 溜まり場には俺以外の全員が集合していた。


「おはよう」

「おいっす!」


 短く挨拶をすると


「夏休みに入ったら皆で泊まりでキャンプ行こうって話してたんだけど友也も来るよな?」


 と夏休みの計画を立てていたらしい。

 しかしこうやって誘って貰えるのは今でも嬉しいな。


「おう、行く行く」

「さすが友也、話が早くていいねー」


 と何故か褒められた。


「でも何処に行くんだ? 泊まりだと予算も結構掛かるんじゃないか?」


 と質問すると今度は楓が答えた。


「近場で評判のキャンプ場があって、一晩コテージに泊まって一人一万円位かな」


 一万か。俺には安いのか高いのか分からないが学生にとって一万の出費はデカい。

 お年玉貯金があるとはいえ最近は出かける事も多くなったのでバイトとかした方がいいのかな。

 リア充って服もそうだけど結構お金使うな。

 なんて事を考えている間にも話は進んでいたようで、ミナミに


「どうしたの佐藤、ちゃんと聞いてるかー!」


 と言いながらバシッと肩を叩いてくる。


「あ、ああ。ちゃんと聞いてるから叩くのは止めてくれ」

「あはは、ごめんごめん」


 といつも通りのミナミだ。

 昨日の事などなかったかの様に普段通りに接してくる。

 やっぱり昨日のは只のお礼だったのだろうか。

 しかし意識し過ぎて言葉がどもってしまった。


 その後もミナミと接する時に自分でもよくわからない言動を取ってしまった。

 このままでは不味いと思い無理やり話題を反らす。


「キャンプの話もいいけど先ずは今日からの試験頑張らないとな」


 と言った瞬間に中居・ミナミ・田口に睨まれた。

 よっぽど現実逃避したかったらしい。



 午前の試験を無事乗り切り昼食を摂った後、楓から例の理科室に来てほしいと頼まれた。

 理科室で話をするって事は皆には聞かれたくない話なのだろうか?

 理科室に着きドアを開けて中に入ると、既に楓が待っていた。


「ごめんね、急にこんな所に呼んじゃって」

「いや、大丈夫だよ。何かあったの?」


 と聞くと、楓は不安そうな表情になり


「もしかしてさ、南と何かあった?」


 ドキッ! と俺の心臓が跳ねる。

 きっと察しのいい楓の事だから何かしら感じたのかもしれない。

 このまま隠すのは良く無いと思い昨日の事を全て話した。


「……という訳なんだけど」

「……」


 話し終えて楓の反応を待つ。

 きっと怒られるだろうな。でも意識的じゃないにしろ他の女子とキスしたんだから怒られて当然か。

 しかもそれを直ぐに楓に相談しなかったんだから更にタチが悪い。俺って最低だな。


 しばらくの沈黙の後、楓から発せられた言葉は意外な物だった。


「やっぱりそうなっちゃったか~」


 俺を怒るどころか、仕様がないなぁといったニュアンスで言っている。

 俺は訳が分からなくなり楓に詰め寄る。


「やっぱりってどういう事だ? それに俺を怒らないのか?」


 俺の焦りの様な質問に楓は至って冷静に


「そりゃ友也君にも怒ってるよ」

「だよな……」


 怒ってるという言葉に何故か安心している俺を余所に楓は言葉を続ける。


「でも、付き合った時からいつかはこうなるんじゃないかって思ってた」


 それはもしかして


「俺が浮気すると思ってたって事か?」


 と恐る恐る聞くと


「ううん、そうじゃなくってね……」


 一旦言葉を切り真剣な表情を俺に向ける。


「南が友也君の事好きなのは知ってた事だし、南の性格からいつか感情が抑えられなくなると思ってた」

「でも……」


 俺の言葉を遮る様に楓は続ける。


「私は友達の好きな人を奪っちゃったんだよね」


 俺は何て言えばいいのか分からなくて口が開かない。


「それで今回の事もあって考えたんだけどさ……」


 少しの沈黙の後、楓は泣きそうな表情で


「私達、一旦別れよう?」


 え? 今なんて? 別れよう?


「ま、待ってくれ! 今回の事は本当に悪いと思ってる! だから……」


 俺が必死に別れたくないと言おうとすると、再び楓に遮られる。


「待って! 違うの」

「違うってどういう……」


 楓はまるで駄々をこねる子供をあやす様に優しく語り出す。


「私が告白した時に友也君言ったじゃない? 自分の好きは私に比べてまだ小さい物だって。それで友也君から告白して貰って付き合い出したじゃない? 私の価値観を変えてくれた友也君と付き合えて凄く幸せだった。本当の事言うと別れたくない」

「だったら別れる必要はないだろ?」

「でもね、南の気持ちもきっと私と同じ位大きいと思うの。じゃなかったらあんな事する子じゃないもん」

「……」

「だからね、友也君にもう一度選んで欲しいの。私か南、どっちと付き合うのか」


 選んで欲しいなんて言われても俺は……。


「欲張りになっちゃったみたいでさ、小さい好きじゃなくて大きな好きが欲しくなっちゃったの」

「俺はちゃんと楓の事好きだぞ!」

「ありがとう。でも、南の気持ちも考えてあげて。その上でどちらと付き合うか決めて欲しい」


 俺は何も言えないまま楓の話をきいていた。


「キャンプ行くでしょ? その最終日に答えを聞かせて欲しい」

「……わかった、真剣に考えるよ」


 こうして俺達は別れる事になった。

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