目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第59話 勉強会

 俺への嫌がらせの決着から数週間が経った。

 あれ以来俺への嫌がらせは全く無くなった。

 無くなったのだが、俺は今ある事に頭を悩ませていた。


「佐藤君~、ここ分かんないんだけど~」

「あぁくそっ! マジわかんねー」


 田口と中居が問題を前にして弱音を吐く。

 期末テストまであと一週間に迫っていた。

 田口はともかく中居まで赤点ギリギリらしい。

 なので勉強の出来る俺・楓・水樹・及川で勉強を教える事になった。

 テスト一週間前という事で部活も無くなったので今は学校帰りにファミレスに寄っている。


「もう! そうじゃないって。 それにはこの公式を使うの!」

「うるせぇな、分かってるっての」


「そっか~、流石水樹君だわ~」

「関心してないで次の問題やれって」


 中居を及川が、田口には水樹がほぼマンツーマンで教えている。

 俺と楓の相手は水瀬なのだが……


「いや~、ここのドリンクバーは種類が少ないね!」


 と言いながらドリンクバーから戻って来る。


「ちょっと南、ちゃんと勉強しなさい」


 と楓に怒られるが


「ごめんごめん、今から本気出すから!」


 と言いながら問題集を見つめる。

 しかし直ぐに


「ハイ、先生! 分かりません!」


 無駄に元気良く手を上げて分かりません宣言をする。

 これで何回目の質問なんだと辟易しながら


「何処が分からないんだ?」

「全部です!」


 その返事を聞いて俺と楓は同時に溜息を吐く。


「取りあえず一問目からじっくりやってくしかないか」

「そうだね~」

「よろしくお願いします!」


 こうして放課後は毎日勉強会を開いた。

 後は土日を挟んで月曜日の本番を待つだけとなった。

 中居達もそれなりに問題が解ける様になったので土日は各自で勉強する事になった。


 最近は土日も中居達と遊ぶ事が増えたので家でゆっくり勉強というのも久しぶりだ。

 復習や問題集をやってると気づいた事があった。

 以前よりスラスラと問題が解ける。

 そこでふと思いあたる。

 水瀬に勉強を教えながら復習も出来ていたという事に。

 これには水瀬に感謝だな。


 夜、あまり根を詰めてもしょうがないので自室でくつろいでいるとスマホの着信音が鳴った。

 画面を確認すると水瀬からだった。

 どうせ分からない問題でもあったんだろうと思いながら通話をタッチする。


「もしもし、どうした?」

「助けて」

「助けてって、何があったんだ?」

「どうやって勉強したらいいか分からない」

「は? テスト範囲の問題集を解いていけばいいだろ?」

「問題集は勉強会で全部やっちゃったもん」


 そういえばそうだったな。

 テスト範囲だけを集中的にやってたからそこの部分は全部やってしまった。


「もう一回復習で一個一個解いていったらどうだ?」

「それは昼間やった」

「なら問題ないだろ。自信持て」

「無理だよー」

「そう言われてもなぁ」

「私にもう一回勉強教えて! お願い!」

「一人じゃ出来ないのか?」

「出来ないから頼んでるの! ちゃんとお礼もするから!」

「分かったよ、明日駅前の喫茶店来れるか?」

「ん~、喫茶店より家に来てよ」

「はぁ? それはマズいんじゃないか?」

「一回来てるんだから二回も三回も変わんないって」

「そりゃそうなんだろうけど……」

「それともお主、よからぬ事でも考えているのかね?」

「考えてないよ! ってか何だその口調は」

「ははは、ねーお願いー」

「分かったよ、何時に行けばいいんだ?」

「さっすが佐藤! じゃあ12時に来て!」

「早いな」

「あっ、お昼食べて来ないでね。お礼に御馳走するから!」

「俺としてはその労力を勉強に向けて欲しいんだけどな」

「まあまあ、勉強もちゃんとするから!」

「しょうがないな、それじゃ明日お邪魔します」

「はいはいー、お待ちしてますー」


 通話が終わり、俺は明日の為に教科書や問題集を鞄に詰めて早めに就寝した。



 教科書等で少し重い鞄を持ちながら水瀬の家のインターホンを押す。

 しかし中々応答がない。

 しょうがないのでもう一度押す。

 すると今度は勢いよく玄関の扉が開いた。


「ごめんごめん、ちょっと手が離せなかったから。さ、入って入って」


 と何やらご機嫌な水瀬に促されるままお邪魔する。

 家に入るとスパイシーな香りが鼻孔をくすぐる。この香りは恐らく


「もしかしてカレー作ってたのか?」

「そうそう、私の一番の得意料理です!」


 昼食を食べていないので余計に食欲を刺激される。


「ちゃんとお昼抜いてきた?」

「ああ、お蔭でお腹空いてヤバイ」

「じゃあ私特製のカレーを一緒に食べよう!」

「水瀬も食べてないのか?」

「ずっと作ってたからね。料理運ぶから私の部屋で待ってて」


 そう言ってキッチンがあるであろう方向に小走りで去っていった。

 俺は以前の時の記憶を頼りに水瀬の部屋へ向かう。


「確かこの部屋だったよな」


 と独り言ちながらドアを開ける。

 部屋に入ると以前来た時と雰囲気が少し変わっている様な気がした。

 取りあえず問題集が散らばっている机の傍に腰を掛ける。

 そして一旦落ち着いてから考える。

 昨日寝る前に以前水瀬と約束した事を思い出したのだ。


 『二人きりの時はミナミって呼んでね』


 今日は水瀬と二人きりだしミナミと呼んだ方がいいのだろうか?

 でもいきなりミナミなんて呼んでビックリしないだろうか?

 俺が呼び方で悩んでいると唐突に部屋のドアが開き


「おーまたせー!」

「うぉあ!」


 ビックリして変な声が出てしまった。


「驚きすぎでしょ、もしかして下着漁ってたとか~?」

「ち、違う! 断じて違うから!」

「ふ~ん、取りあえずカレー食べよー」


 危うく変態扱いされる所だった。

 でも水瀬はいつも通りだし無理に呼ばなくても大丈夫かな?

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?