俺が必死に逆ナンではない事を説明していると水瀬が
「がっちゃん…小川さんに変な事聞かれなかった?」
と、少し慌てた様な感じで聞いてきた。
う~ん、恋バナとかの話はしない方がいいよな。
「昨日何話したの? って聞かれただけだよ」
「そ、そっか」
水瀬は俺の答えを聞いて安堵した様に息を吐いた。
だが俺達の会話を聞いていた他の連中が食いついてきた。
「なに? 昨日あれから何かあったの?」
と水樹がからかうようなトーンで聞いてくる。
「いや何も無いって。さっき話した通り部活の事とか話してただけだから」
という俺の答えに女子達は
「ふ~ん」
「へ~」
と意味深な微笑で返事をしていた。
本当に何もないんだけどなぁ。
と、そこで中居が
「部活っていえば今日からだよな。めんどくせぇ」
と面倒くさそうに言う。
それに同調するように他のメンツも
「うわ~だるい~」
「あまり放課後遊べなくなっちゃうね」
「今年こそ予選突破できるっしょ!」
と部活への不満や意気込み等を言っている。
不満は言ってるけどキチンと部活をやってるから凄いな。
俺なんて万年帰宅部だし。
そんな事を考えていると
「佐藤君は部活に入ったりしないの?」
と聞かれた。
運動神経は悪い方ではないが、今まで人間関係が嫌で部活には入らなかった。
「ん~、今は脱ヲタというか、自分を変えるので精一杯かな」
と正直に答える。
「そっかぁ、頑張ってね! 応援してるから」
「ありがとう」
応援して貰えるのはありがたいな。モチベーションが上がる。
例えそれが社交辞令であっても……。
おっと、いけないいけない。いつものネガティブが出てしまった。
ここは言葉通りに受け取っておこう。
と思考を前向きに変えた所で昼休憩の終わりのチャイムが鳴る。
それぞれが自分の席に戻る中、水瀬だけが残って及川に見られない様に耳打ちしてきた。
「あとで話があるから授業終わったら教室に残ってて」
と言い自分の席に戻っていった。
吐息の感触が耳に残って俺の心拍を早める。
話があるから教室残っててってもしかして告白的な感じですか?
いやいや、そんなはずがないだろう。昨日知り合ったばかりだぞ!
でも昨日じーっと見られてた気がするんだよなー。
違う違う! それは俺が噂の張本人だったから気になっただけだ!
結局俺は自問自答を繰り返し、午後の授業は手に着かなかった。
そして全ての授業が終わり、それぞれ部活の準備や帰宅する生徒で賑やかになる。
本来なら俺も帰宅の準備をして我先にと帰る所だが今日はそうはいかない!
水瀬から教室に残って要る様に言われているからだ。
落ち着かない心臓を落ち着かせようと深呼吸をしていると
「あれ? 佐藤は帰らないの?」
と及川に突っ込まれてしまった。
この場合何ていえばいいのだろうか?
水瀬と待ち合わせているのはきっと秘密だろうし。
「えっと、図書室にでも行こうかなと思って」
「ふ~ん、じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
ふう、何とか誤魔化せた。
と思った矢先、今度は中居、水樹、田口の男子グループに声を掛けられた。
「あっれ~佐藤君帰らないの~?」
田口がチャラい感じで言ってくる。
「ああ、図書室に寄ってこうと思って」
と及川に言った事と同じ事を言うと
「ぶはっ、図書室って似合い過ぎだろ」
と中居がからかう様に言ってきた。
まぁ所詮俺だからな。
と、自虐していると水樹が中居に向かって少し強い口調で
「和樹、それは言い過ぎだろ。友也だって頑張ってんだからさ」
「ちっ、わかってるっつーの。わるかったな佐藤」
中居が素直に謝るなんて! と思うのは失礼か。
中居は確かにカーストトップだが暴君ではないからな。
「あ、ああ、いいって。こんな事で落ち込んでたら自分は変えられないしな」
という俺の言葉を受けて
「マジで変わったな。まぁ、頑張れよ」
と中居からも応援された。
やっべ、中居って実はツンデレなのか? なんて思っていると
「わるかったな、別に中居に悪気があったわけじゃないんだ、許してくれ」
と何故か水樹が謝って来た。
さっきの中居への態度といい、実は水樹が影のトップなんじゃ……。
「っつーか昨日聞き忘れたんだけど連絡先交換しね?」
「あーそれいいわ~。俺も佐藤君の連絡先知りたいかも! ほら、中居くんも交換しようぜ~」
そう言えば女子の連絡先は全員知ってるけど男子はまだ誰とも交換してなかったな。
「んじゃ、これが俺のね」
「これが俺のね~」
水樹、田口と連絡先を交換し
「な、中居も交換しようぜ?」
と俺から声を掛け、自分のQR画面を見せる。
「ま、俺だけ交換しない訳にはいかないからな」
と言いながらコードを読み取る。
全員が交換し終わった後
「んじゃ俺達は部活行くからよ」
と言って部活に向かった。
中居は悪い奴じゃないんだけど言葉遣いや雰囲気が元ぼっちにはキツイな。
俺達が連絡先を交換している間に教室には誰も居なくなっていた。
ここで水瀬の言葉が脳裏をよぎる。
話ってなんだろう。
期待と不安で俺の心臓は今にも破裂しそうだ。
授業終わったらと言っていたが、水瀬も部活があるはずだからそんなに待たないだろう。
と考えていたその時、水瀬が教室に姿を現した。