下駄箱で靴を履き替えていると、水瀬南の驚きの声が聞こえた。
「ええぇ! そうだったの!?」
みんな凄い驚くなぁ。 まぁ自分でもかなり驚いたけどさ。
中居達は既に外に出ていたので急いで後を追おうとすると、いきなり誰かに肩を組まれた。
「いやぁ~、驚きましたな~。ここまで変わるとは」
「ちょ、か、顔近いって!」
水瀬が顔を覗き込む様に言う。しかも肩を組んでいる状態なので柔らかくて弾力のある物が押し付けられている。
「ああ、ごめんごめん」
そう言って肩組みから解放したが、俺の前を後ろ向きで歩き、またしても顔を覗き込むような形で聞いてきた。
「でも~、彼女欲しいだけでここまで変わるかな~? ズバリ、狙っている子がいる! そしてその子はかなりの美少女だからここまでの変身をしたに違いない!」
ビシィッと俺を指差しながら言う。
それを聞いていたのか中居が
「それ俺もきになるわ。誰か目当ての奴が居んだろ?」
「俺もきになるな」
「俺も俺も!」
中居に続き、水樹と田口も同調する。
「いや、及川にも言ったけど特にまだ特定の相手は居ないんだって!」
と反論するも
「変わるのだって大変だし相手いると思うな~」
「恋のパワーって奴だね!」
「私もそう思う!」
今度は新島、水瀬、及川に反論される。
及川には朝説明したんだけどなぁ。
「いや、マジで居ないって!」
今度は少し強く反論する。
「な~んだ、つまんねぇ」
と中居が言うと
「まぁ、友也だしな」
「久々に恋バナできるとおもったのに~」
「まぁしょうがないよ。佐藤君がああ言ってるんだから」
と一斉に会話を打ち切った。
たった一言でここまで人を動かすなんて。さすがグループのリーダーといった所なのだろうか。
俺は今一人で歩いている。
グループで帰るといってもグループ全体で会話するのではなく、男女に分かれて話している。
しかし俺は元から出来ている輪に入れずにいた。
俺の前を中居、水樹、田口が横並びで歩いており、その後ろに俺。
俺の後ろに新島、水瀬、及川が横並びで歩いている。
たまに見かける、集団の中のぼっち状態になっていた。
男は俺以外サッカー部で部活の話しで盛り上がっていて、女子は……あの中に加わるとか出来ないな。
俺はどうにかして会話に混ざろうと話題を探しているが、一向に何を話せばいいか分からない。
俺が悩んでいると
「どうした友也?」
と水樹が後ろを振り返り、わざわざ俺の隣に来てくれた。
この気配り! これが真のイケメンか!
「いや、何を話していいか分かんなくて……」
と正直に言うと
「話題なんてなんだっていいんだって。その時思った事とかでもさ」
「う~ん」
「今気になってる事とかないのか?」
こんな俺を心配してくれてるんだから何か言わなければ!
「部活ある時もこのメンツで帰ってるの?」
絞り出した話題がこれだった。 水樹に申し訳ない。
「いや、時間が合えば帰るけど基本バラバラだな。新島達もみんな部活が一緒って訳じゃないからな」
「やっぱりみんな部活入ってるんだな」
リア充は部活に入らずウェーイしてるイメージでした。 ごめんなさい。
と心の中で謝っていると
「なになに~、私の名前が聞こえたけど~」
と今度は新島が俺の隣にやってきた。
「友也だけ部活入ってないからお前達が部活の時寂しいみたいだぜ」
と水樹が冗談交じりに言う。
「そうなの? 佐藤君なら声かければ一緒に帰ってくれる子いっぱいいるとおもうけどな~」
「今のは水樹の冗談だから真に受けないで」
そう言うと新島は
「待っててくれたらいつでも一緒に帰ってあげるからね」
と悪戯っぽく微笑んだ。
「新島は何部なんだ?」
「私はテニス部だよ。 南が陸上部で佳奈子がサッカー部のマネージャーやってるの」
それを聞いて俺は戦慄した。
新島がテニス部だと? 柚希もテニス部に入ると言っていた。
同じ部活に柚希の上位互換ともいえる新島がいたら柚希はどうするのだろう?
自己顕示欲の塊が放っておくわけがない! どうする? 忠告とかしといた方がいいのか?
と考えていると
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
「新島のテニスウェアでも想像してたんじゃないか?」
「ええ~! 佐藤君のエッチ!」
と、あらぬ方向に話題がそれたので慌てて訂正する。
「そ、そんな想像してないって!」
「慌ててるのが怪しいな~」
このままじゃ俺がむっつりスケベの烙印を押されてしまう! 正直に言おう。
「実は1個下の妹が咲崎に入学したんだけど、テニス部に入るって言ってたからさ」
「友也に妹いたんだな」
「佐藤君の妹ならきっと凄い美少女なんだろうな~」
とテニス部に入る事だけを伝えた。
「名前はなんていうの?」
「柚希だよ。 佐藤柚希」
「カワイイの?」
新島がやけに興味津々だな。
「中学じゃ自他共に認める美少女だったな」
と答えると「ふ~ん、美少女ねぇ」と聞こえるか聞こえないかの声量で呟き、一瞬新島の纏っている空気が凍える様に感じた。
だが直ぐに元に戻り
「そうなんだ~、佐藤君の妹なら当然だよね!」
と、今日何度も見た笑顔を見せた。
俺が感じた冷たさについて聞こうとすると
「もう駅に着いたね~、やっぱりみんなで帰ってるとあっという間だね!」
と話題を違う物に変えられてしまった。
「んじゃ、俺達はこっちだから」
「じゃあね楓~」
「うん、じゃあね~」
と上り組みと下り組に分かれた。
今のメンバーは俺、新島、水瀬の3人になった。
電車が来るまで水瀬が昨日のバラエティー番組について話し、乗車してからもそれは続いた。
乗車して二駅目が俺の降りる駅だったので
「俺ここでおりるから、それじゃあ」
また明日と言おうとしたら
「あ、私もここだから」
と水瀬もホームに降り立った。
俺がビックリしていると
「佐藤君~、手出しちゃダメだかんね~」
という新島の冗談で我に返り
「だ、出す訳ないだろ!」
と返した所で扉が閉まり、水瀬が
「それじゃ一緒にかえりましょー!」
と元気よく拳を天に掲げた。
俺はというと、不意に訪れた女子と二人きりでの下校に頭がショート寸前だった。