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第11話 歪な協力関係

 柚希は薄く微笑んでいる。

 もう引き返せない? どういうことだ?

 他にも何か企んでいるのだろうか?


「引き返せないって、どういうことだ?」


 俺の質問に柚希は微笑を崩さず


「めぐが協力してくれる事になったでしょ? だから少しお願いしたんだ~」


 と言って、スマホを操作しだした。

 一体めぐに何をさせる気なんだ?


「お兄ちゃん、これ見て」


 そう言って差し出したのは先ほど操作していたスマホだった。

 画面を見てみると


「ん? これは……咲崎高校の共用掲示板か?」

「その通り」


 スマホの画面に映し出されていたのは、咲崎高校の共用掲示板だった。

 この掲示板は咲崎高校の生徒なら誰でも利用でき、1年~3年それぞれの掲示板の他に、全学年共通の掲示板がある。

 今はSNSでやり取りする生徒が殆どだろう。

 これを俺に見せてどうするつもりなのかと考えていると


「ここに新1年生専用掲示板ってあるでしょ?」

「ああ」


よく見たら掲示板の一番上に新一年生専用の掲示板があった。


「この掲示板は4月から咲崎高校に通う生徒が入学するまでの間情報交換したりするのに活用されてるんだけど……これ見て」


 促され見てみると


 発言者:メグメグ 

 投稿 :今日は友達のお兄さんが咲崎高校の先輩なので色々話を聞いて来ました。

     部活や学校行事とか色々聞いたけど、私が気になるのはやっぱり先輩かな~。

     凄くカッコイイ(≧▽≦) それにお喋りも楽しいの♪

 発言者:ユイユイ

 投稿 :そんなにカッコイイの~?

 発言者:メグメグ

 投稿 :うん! すっごくカッコイイ!

 発言者:ミキティ

 投稿 :なんて名前の人なの~?

     チョー気になる

 発言者:カナデ

 投稿 :ここで個人名聞くのは違反じゃなかったっけ?

     でも私もきになるな~。

     学校始まったら教えてね~

 発言者:ユイユイ

 投稿 :私も知りた~い!

 発言者:メグメグ

 投稿 :うん! 学校始まったら教えるね!

     きっと皆驚くよ~


 というやり取りが掲示板内でされていた。


「なんだよ……これ……」

「めぐに頼んで掲示板に書き込む様にお願いしたの。この書き込みは新入生全員がみれるから。よかったねお兄ちゃん、新学期からちょっとした有名人だよ?」


 こんな事までされるなんて。柚希は本当に俺に逃げ場を与えないつもりか?


「でも、いざ本物を見たら大した事無くてみんな俺から興味無くすんじゃね?」


 そうだよ。本物見たら大した事無かった、何てことはざらにある。


「そうだね、お兄ちゃんからは興味は無くなるだろうね」


 柚希も認めた! ならこの調子で俺が目立たない様にすればいいだけだ。


「でも、めぐはどうなるだろうね?」


 クスクスッと笑いながら言われた一言に俺は固まった。


「めぐが嘘ついてみんなを騙した事になるよね。そうするとどうなると思う?」


 俺は血の気が引いて行くのを感じた。


「めぐは当然の様に虐められるだろうね。それに、友達の先輩。 つまりお兄ちゃんの妹である私も標的にされる」


 めぐだけじゃなく柚希までが虐められるのか?


「女子って結構エグくてね。十中八九私も共犯として的にされるだろうな~」


 くそ! 柚希が言っていた、もう引き返せないっていうのはこういう事か!

 俺がヲタぼっちに戻ったら、めぐだけでなく柚希も虐められる。


「めぐは親友じゃなかったのかよ!」

「親友だよ。だからこうして一緒に虐められる道を示したの。めぐだけ虐められるんじゃ可哀想だから」


 歪んでる

 柚希がこんなにも歪んでいたなんて知らなかった。

 自分の目的の為に親友すら平気で裏切る!

 そして、俺はある決意をした。


「わかった、俺は今まで通りリア充を目指す。それでいいか?」

「理解して貰って嬉しいよ」


 俺は柚希を更生させる! 自己顕示欲の塊を普通の女の子に変えるんだ!


「俺はこれから何をすればいい?」

「話が早くて助かるよ」


 俺が自己顕示欲という呪縛から解放してやる!


「今までの特訓の反復練習と、筋トレかな」

「筋トレ? どうして……って聞くまでもないな」

「自覚はあるんだ?」

「まぁな」


 今まで部活にも入らず家でアニメやゲーム三昧だったからな。

 最近お腹がプヨプヨしだしてきた。

 きっと筋トレも細マッチョを目指すとかだろう。


「まぁ、筋トレしても一朝一夕で筋肉が付く訳じゃないから気長にやっていくしかないけど、サボったりしないでね」

「分かってるって」


 今は柚希の指示に従うしかない。

 俺一人じゃリア充になんてなれないしな。


「それじゃあお兄ちゃん、休みもあと少しだけど頑張ろうね!」


 さっきまでの凍える様な、冷めた印象が無くなり、いつもの柚希の笑顔が戻っていた。

 どちらが本当の柚希かは分からないが、この笑顔に俺は救われてきた。

 だから、今度は俺が柚希を救う番だ。


「ああ、これからもよろしく頼む」


 こうして俺達の歪な関係はスタートを切った。

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