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第10話 自己顕示欲

 俺が柚希の発言に戸惑っていると


「あ~あ、上手く行ってると思ったんだけどな~。でも、流石の洞察力だね。普通の人なら気づかないんだけどね」


 と笑いながら言った。


「どこまでが計算なんだ?」


 素直な疑問をぶつけると、柚希は薄く笑って


「質問が違うよお兄ちゃん。が正解だよ?」


 その言葉を聞いて俺は背筋が凍った。

 俺は恐る恐る尋ねる。


「もしかして、ギャル達に虐められていたのも?」


 俺の中で何かが崩れていく


「せいか~い」


 意味が分からない。何でそんな事を……。


「お兄ちゃんが通るだろう時間にあいつらを呼び出して、私があいつ等を焚き付けたの。案の定お兄ちゃんは私があいつ等に囲まれてる所を目撃してくれた。その後は悲劇のヒロインを演じるだけ。正義感の強いお兄ちゃんは自分の所為で妹が虐められてると知ったら必ず変わろうとする。全部計算通りだよ」


 そんな話を楽しそうに話す柚希。

 今までの特訓も何もかも柚希の思い通りだったわけか。

 だとしたら、めぐは?


「めぐは? 親友だって言ってたよな? そんなめぐも利用したのか?」


 そうだ。柚希はめぐが親友だと言っていた。

 めぐも柚希を大切に思ってる事も伝わって来た。

 だが、そんなめぐすらも柚希は……。


「うん、利用した」


 何の感情も無く平坦な声音で柚希は肯定した。


「なんで……どうしてそんな事が出来るんだよ? 親友だって言ったのは嘘だったのか!?」


 俺は怒りの余りつい語気が強くなってしまった。

 それでも柚希は表情を変える事無く淡々とした声で


「うるさい。 お母さんたち起きちゃうでしょ」


 と言うだけだった。

 俺はカッとなり柚希の肩を掴んで、怒気を孕んだ声で言った。


「どうしてこんな事したんだよ!?」


 怒りと悲しみが入り混じった俺の瞳を、柚希の深く暗い視線が射ぬき、柚希は初めて感情を乗せて言う。


「お兄ちゃんの所為でしょ!?」


 そう言って俺の手を振り払う。


「俺の……所為?」

「そうだよ! お兄ちゃんがいつまでも変わろうとしないから!?」


 その言葉に俺は何て返せばいいのか分からなくなる。


「中学の時は学校中から嫌われていたお蔭で私は実の兄が学校一の嫌われ者という悲劇のヒロインでいられた。でも高校では精々クラスでいつも一人で居る奴程度。それじゃ私が困るの!」


 は? 一体何を言ってるんだ?


「どういう意味だ? どうして柚希が困るんだ?」


 さっきから柚希の言っている事が理解できない。


「はぁ~。もうこの際だから全部言っちゃうけど、私って常に皆から注目されたり、認めて貰いたいんだよね。その為に私は色んな努力をしてきたつもり」


 大きくため息を吐いた後、そんな事を語り出した。

 そして突然質問を投げつけられる。


「めぐが学年で2位の秀才なのは知ってるよね? じゃあ1位は誰だと思う?」


 これは話しの流れからいくと


「柚希か?」

「正解」


 柚希は短く答え、話をつづける。


「勉強だけじゃないよ? 部活だって全国に行ったのは私だけだし、持久走でも1位だし、その他にも表彰された事は何度もある。私は自分が目立つことなら何でもやってきた。お兄ちゃんの妹の立場も利用して悲劇のヒロインっていう役も演じた」


 なんだよそれ?


「私ってさぁ、自己顕示欲? っていうの? それが人一倍強いみたいなんだよね~」


 そう笑いながら言う柚希。

 自己顕示欲が人一倍強いと言うが、俺から言わせれば

 自己顕示欲の塊だ。

 そしてさっき柚希が言った、高校じゃいつも一人で居る程度という言葉と、それじゃ困るという言葉が合致する。

 高校では悲劇のヒロインを演じられない!

 つまりはそういう事なのだろう。

 しかし、俺が変わらないと困るという事がわからなかった。

 しかも良い方向に。


「どうして俺を変えようと思ったんだ?」


 そう尋ねると柚希は得意げに語り出した。


「悲劇のヒロインは無理だと分かったし、一度経験してるから別の事で注目されたかったんだよね~。そこできづいたの! お兄ちゃんは顔の作りは悪くない。っていうかキチンとすればイケメンの部類に入る。だからお兄ちゃんを学校一のリア充にすれば、私はイケメンリア充の妹って事で注目されるんじゃないかってね。そこで一芝居打ってお兄ちゃんを焚き付けた訳。そしてまだ途中だけど結果は上々。気づいた? めぐ、お兄ちゃんに惚れてたよ?」


 俺は柚希の掌で踊ってたってわけか。 我ながら情けない。

 あれ? 最後何て言った? めぐが俺に惚れてる?


「その様子だと気づいて無かったみたいだね」

「いやいや、今日初めて会ったんだぞ? 確かに会話は楽しかったけど、それだけで惚れるか?」


 俺は全力で否定するが


「それだけお兄ちゃんがイケメンに変わったって事だよ。特訓の成果だね」


 と笑って言う。


「あ、でもまだ特訓の途中だから調子に乗らない様に!」


 俺を嗜める様に言う。

 言われなくても調子に何て乗らない。 めぐの事だって信じた訳じゃないしな。


「まだ……続けるのか? 俺に計画を知られたのに」


 そう問いかけると


「当たり前じゃん! こんなんじゃ全然満足できないもん!」


 当然! といった感じで言い放つ。

 だがそれは俺のやる気しだいだろう。

 柚希の自己顕示欲の為に周りを巻き込めない。


「俺が嫌だといったらどうするんだ?」


 素直に諦めるとは思わないが、俺にも拒否権はある事を匂わせる。

 しかし、帰って来た言葉は


「大丈夫だよ。お兄ちゃんは絶対に私に協力する。もう引き返せないよ?」


 と、冷たい微笑みを浮かべて言った。

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