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第9話 違和感

「へえぇ~。じゃあ高校でもテニスは続けるの?」

「はい。でも軟式から硬式に変わるので不安はありますけど」

「めぐなら大丈夫だって! それに私も居るしね!」

「ゆずは運動神経いいから羨ましい~」


 めぐが協力を申し出てから三人で会話の練習という形で雑談していた。

 俺は事前に柚希から聞いていためぐの情報を元に話している。

 兄妹が居なく一人っ子な事、成績が学年2位の秀才な事、ソフトテニス部だった事、意外にもラノベを読んでいる事、そして俺と同じ咲崎さくざき高校に通う事等を駆使していた。


「じゃあ中学からはウチの高校に来るのは柚希とめぐだけなんだ?」

「はい。通学が楽な地元の高校に行くみたいです。それに咲崎高校は進学校で偏差値が高いので諦めてるみたいですね」

「だからめぐが協力してくれると凄い助かるの! 流石に高校で私一人じゃ限界があったから。ホントにありがとね!」


 そういう理由もあって今日の特訓の相手がめぐだったのかもしれないな。

 そして柚希の思惑通りにめぐが協力を申し出た。

 一体どこまで計算してるんだろう。


「あ! もうこんな時間。そろそろ帰らないと」


 というめぐの言葉で既に17時を過ぎている事に気づく。

 ただ会話していただけなのに時間が経つのが早く感じた。


 「ごめんね~、遅くまでつきあわせちゃって」

 「ううん、私こそ無理言って手伝わせて! なんて言っちゃったし」

 「それは全然大丈夫だよ~。二人で協力してお兄ちゃんを立派に育てよう!」

 「おい! 俺はペットじゃないぞ?」

 「「はははっ」」


 今日一日で大分会話できる様になった気がする。


「友也さん、よければ連絡先交換しませんか?」

「う、うん。そうだね、交換しよう」


 女子から連絡先を交換しようと言われて動揺してしまった。

 でもしょうがない。 今まで同性にすら聞かれたことなかったし。

 連絡先の交換を終え


「これからよろしくお願いしますね、♪」


 という言葉を残して帰っていった。

 友也先輩かぁ~。良い響きだ。

 その後出かけていた両親が帰って来て夕食を済ませ、今は湯舟に浸かりながら今日の事を振り返る。


「今日一日で色々あったなぁ」


 午前中は柚希に連れられて美容室にいって、その後服をマネキン買いして。

 午後はめぐが家にきて、協力してくれる事になったり。

 そして、協力関係ではあるが人生初めての女子の連絡先を知ったり。

 友也先輩と呼ばれて嬉しかったり。

 今日の出来事を順に思い出して頬が少し緩む。

 しかし、どうしても気になってしょうがない出来事があった。

 本人に確認した方がいいのだろうか?

 それとも気づかなかったフリをした方がいいのか。

 夜11時、両親は共働きの為既に就寝している中、俺は柚希の部屋の前に立っていた。

 どうしても昼の事が気になり、柚希に直接尋ねる事にしたのだ。

 一度深呼吸をしてドアをノックし、声を掛ける。


「柚希、起きてるか?」


 数秒してドアが開かれ柚希が顔をだす。


「どうしたの?」

「昼間の事で少し話があるんだが、いいか?」

「……」


 少しの間があった後


「入って」


 と言って俺を部屋に招き入れる。

 初めて入った柚希の部屋は、あまり女子の部屋という感じがしなかった。

 まぁ、女子の部屋に入ったの初めてなんだけど。

 それを差し引いても、殺風景というか、必要な物だけ置いてある感じだ。

 俺が部屋をキョロキョロ見ていると


「それで話って何?」


 ベッドに腰掛けた柚希が尋ねてくる。


「めぐの事に関係してるんだけど」


 と言った瞬間に


「もしかしてめぐに惚れちゃったの~?」


 と茶化してきたが


「いや、そういうわけじゃないんだ」

「な~んだ、つまんな~い」


 わざとらしく唇を尖らせる柚希。


「めぐが柚希の話しを聞いて協力してくれる事になっただろ?」

「うん、心強い味方が増えたね」

「最初に協力したいって言われた時、柚希俯いてたよな?」

「そうだっけ?」

「その後柚希は本当にいいの? って問いかけた」

「迷惑掛けちゃ悪いしね」

「それでもめぐが力になりたいって言った時さ」


 柚希は静かにきいている。

 次の俺の言葉にどう反応するのだろう。



「柚希、お前……よな?」



 言って柚希の顔を見る。

 表情は笑顔のままだ。

 そしてその笑顔のまま


「凄く嬉しかったからね!」


 と言ってきたが


「そうじゃない。俯いた状態の時、んだよ」


 言った。言ってしまった!

 ずっと違和感を覚えていた事。

 めぐの言葉に、そしてめぐに見えない様に口角だけ上げて笑った事。

 柚希の様子を見ると、俯いている。

 あの時の様に。


「……」


 言葉を発しない柚希に更に詰め寄る。


「全部、計算してたんじゃないか?」


 核心に迫るような俺の言葉に、俯いたまま柚希が口を開く。


「やっぱり兄弟だね……」


 どういう意味か考えていると、柚希は顔を上げ、どこか冷たさを感じる笑顔で


「うん、全部計算通りだよ」


 そう言ってのけた。

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