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自己顕示欲が強い妹にプロデュースされる事になりました
白石マサル
恋愛現代恋愛
2024年07月31日
公開日
128,091文字
連載中
人は誰でも自己顕示欲を持っている。それが大きいか小さいかの違いはあるが。

中学時代からヲタクでぼっちだった主人公は高校一年の終業式の後、自分の所為で虐められている妹を見てしまう。
妹は気丈に振る舞っていたが、自分の所為で妹が虐められるのは嫌だと奮起する。
「どうすればリア充になれる?」
この言葉を切っ掛けに妹プロデュースの元、リア充になるべく特訓を開始する。
そんな中、妹の思惑を知った主人公だが、妹の為に学校一のリア充を目指すのだった。

第1話 切っ掛け

 春、俺は無事二年生に進級できた。

 校門の前で感動して立ち尽くしている。

 という訳ではなく、緊張して足がすくんでしまっていた。

 何故なら今年からある目標に向かって頑張る事になったからだ。

『ヲタぼっちの俺が学校一のリア充になる!』

 今まで俺はリア充の事を心の中で馬鹿にし、自分の好きなアニメ観たりゲームさえ出来れば人間関係なんてどうでもいいと思っていた。

 そんな俺の信条を変える出来事が3月の終業式の後に起こった。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 終業式が終わり、そそくさと学校を後にする。

 クラスメイトが「これからカラオケ行かね?」等とやり取りをしているが、俺には関係ない。

 何故ならボッチで友人が居ないからだ。

 早く家に帰ってアニメでも見よう。

 などと考えながら歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の聞こえた方を確認すると、どうやら公園から聞こえてきたらしい。

 公園に近づき中を覗いてみる。

 すると数人の女子がたむろしているのを見つけた。 いわゆる『ギャル』と称される、俺とは無縁の異種族だ。

 ボッチの俺にギャルの知り合いなど居る訳が無いので、今聞こえた声は聞き間違えだろう。

 そう結論づけて踵を返そうとすると、再び聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声はやはりギャル達の方から聞こえる。

 ギャル達の方をよーく見てみると、そこには妹の姿があった。

 妹は決してギャルではない。

 むしろギャルとは正反対に位置しているだろう。

 そんな妹が何故? と観察していると

「マジうけんだけど~」

「何すわっちゃってんの~?」

「お腹でも痛いんですか~?」

「「ぎゃはははは」」

 と不快な笑い声をあげながら妹を見下ろしている。

 妹は殴られたのだろうか、お腹を押さえてうずくまっている。

 何故妹がこんな目に合っているのだろうと考えていると

「まさかアンタにあんなキモイ兄貴がいたなんてね~」

「思い出しただけで吐きそうー」

 原因は俺だったらしい。

 確かに俺は中学時代学校中から嫌われていたが、何故妹まで標的にされているんだ?

 俺の妹だからというだけで虐められているのか?

 そんな事を考えていると、妹はギャル達に言い返す。

「だからどうしたのよ! それより私を蹴った事謝りなさいよ!」

「は? どうでもよくないっしょ~!」

「そうそう」

「まさかアンタが佐藤友也さとうともやの妹だったなんてね~」

「どうしてかくしてたのかな~? 佐藤柚希さとうゆずきちゃ~ん」

「それは、私は私だし! お兄ちゃんは関係ない!」

 妹が力強く反論するが、ギャルたちはそれを嘲笑う。

 っていうか、俺ってそんなに悪評がひろまってるのか。

「いや、関係大ありでしょ~」

「そうそう」

「あんなキモイ兄貴いるやつと一緒に居たくないし~」

「実はアンタもヲタクなんじゃね?」

「きゃはは、言えてる~」

 なんだそれ。

 俺がキモイから妹もキモイって事なのか?

「私は違う!」

「ふ~ん。ま、どっちでもいいけどね~」

「どういう意味よ?」

「アンタ高校兄貴と同じ所行くんだろ? アタシたちは学校ちがうからさ~」

「だから何? あなた達に関係ないでしょ?」

「そ。もう関係ないね~」

「だから二度と友達面しないでね~」

 そういいながら足で地面を蹴って妹に砂を掛ける。

 そして「兄貴となかよくね~、きゃはは」と言いながらギャルたちは去っていった。

 妹を見ると悔しそうに俯き握りこぶしを作って震えている。

 思わず駆け寄りそうになるがグッと堪える。

 今俺が出て行けば妹は更に惨めになると思ったからだ。

 しばらく様子を見ていると妹は立ち上がり砂を払って家に向かって歩き出した。

 その足取りはしっかりしていて、とてもさっきまで苛められていたとは思えない程だった。

 妹が完全に見えなくなってから俺も帰路に着いた。

 家に着き「ただいま~」と言って自分の部屋に向かう。

 途中でリビングに居る妹をチラリと見て自分の部屋へ入った。

「はぁ……」

 部屋に入るなり俺は大きなため息を吐いた。

「チラッとしか見えなかったけど、泣いてたよな……」

 俺は今まで自分さえ良ければいいと思っていた。

 周りからどう見られようと全く気にしなかった。

 そんな事よりもゲームやアニメの方が大切だった。

 でも、そんな俺でも妹の柚希は大事にしてきたつもりだった。

 シスコンと思われるかもしれないが、柚希だけが俺にとっての大切な存在だった。

 だが、そんな柚希を俺のせいで泣かせてしまった。

 本当ならイジメてた奴らに説教してやりたい。いや、それだけじゃ俺の怒りが収まらない。柚希がされてきた事を同じ様にやってやりたい!

 だけど、俺みたいなボッチヲタクが怒ったところでバカにされるのは目に見えてる。だけど……。

「きちんと話した方がいいよな……」

 そう思いリビングに向かうと柚希はもう泣いておらず、いつも通りの笑顔でスマホを弄っていた。

 やがて俺に気づき

「あ、お兄ちゃん帰ってたんだ。おかえり~」

 いつもの調子で声を掛けてくる。

 あんな事があった後なのに。

 俺はなるべく普段通りに話しかけた。

「おう、ただいま」

 いつも通りにソファーに腰を掛けてから、少し真剣なトーンで聞いてみる。

「今日で中学最後だったろ? どうだった?」

「う~ん、特別変わった事は無かったかな~」

「そうか」

「カラオケに誘われたけど今月ピンチだから断ってそのまま帰って来た感じ」

 いつも通りの柚希だ。

 そしてギャルたちの一件には一切触れなかった。

 無理をしている様子でも無さそうに見える。

 だから俺は確信を突く事にした。

「柚希、俺の事で虐められたりしてないか?」

 俺の言葉に一瞬ビックリするような表情を見せたが、直ぐに笑顔になった。

「なに言ってるのお兄ちゃん、そんな事ないよ~」

 笑いながらそう言う。

(もういい。もう我慢なんかさせたくない)

 だが、俺の次の一言で柚希から笑顔が消えた。

「さっき公園でギャルグループに囲まれてただろ?」

「……」

 笑顔が無くなり、目線を下に下げた。

「見てたんだ……?」

「偶然な」

「そっかぁ……」

 そう言った後少しの沈黙が続いたが、柚希が意を決した様に話し始めた。

「私ってさ、自分で言うのもなんだけど、男子からも女子からも好かれてて、お兄ちゃんが言う所のパーフェクトヒロインだと思うんだ」

 俺もそう思う。柚希は勉強や運動も出来て交友関係も広いからな。

「クラスのトップカーストにも属してるしね。私凄いリア充でしょ?」

 そう言ってまた「ふふふ」と笑う。

「それでね、クラスにはもう一つのトップカーストのグループがあるんだけど、それがお兄ちゃんが見たギャルグループなんだよね」

 そうだったのか……。

「ウチのグループとそのグループはそんなに仲良く無くて、たまに衝突する事はあったけどそれ以外ではお互いに干渉しないようにしてたんだ」

 柚希の事だから衝突するたびに間に入って仲裁していたのだろう。

「お兄ちゃんって悪い意味で中学の時有名だったじゃん? いつも一人で居てマンガ読んだりゲームしてたりしてて、話す時もぼそぼそと何言ってるかわからないキモヲタクだって」

「ああ……」

 俺が遠慮気味に相槌をする。

「私とお兄ちゃんて全く正反対じゃん? だから私がお兄ちゃんの妹だって分からなかったみたい。お兄ちゃんも学校では絶対に私に近づこうともしなかったしね」

 俺が兄貴だと知れたら柚希に迷惑かけると思ってたからな。

「それでね、この間お母さんに頼まれて一緒にスーパーに買い物に行ったでしょ? それをギャルグループの一人が見てたらしくて、私が妹だってばれちゃったんだよね」

 あの時見られてたのか。 迂闊だった。

「次の日にギャルグループがウチのグループに接触してきて、私がお兄ちゃんの妹だって皆にバラしたの。皆凄いおどろいてたなぁ」

「それで虐められる様になったのか?」

 俺がそう訊ねると

「ううん。武田君っていうグループのリーダーが庇ってくれたから。実質3年のトップのリーダーの言う事には他クラスも含めて逆らえないっていう状況になって、それ以降私がお兄ちゃんの妹という事で私をいじるなっていう暗黙の了解が出来たんだ。」

 それならなんで……?

「なら今日の出来事はどうして?」

「中学最後だからこれまでの分も含めてのお礼参りだってさ。今時お礼参りなんて笑っちゃうよね~」

 そう言いながら柚希は笑った。

 でも、俺には泣いている様に見えた。

(もし、俺が武田君のようなリア充なら、こんなイジメは解決出来たはずだ)

 だから俺は決心した。

「柚希! どうすればリア充になれる?!」

「……ええええぇぇぇぇ!?」

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