今日もトレーシーはいつも通りに研究開発部の部屋で研究開発に勤しんでいた。
一つ変わった事と言えば、視線がなんとなくアルバスの姿を追い始めたことだ。
(なんだかドキドキします)
トレーシーはアルバスに助けて貰った日以降、自分の恋心を自覚した。
気付いてみれば、なぜ今まで自覚が無かったのか不思議なくらいだ。
アルバスは優しい。
アルバスは賢い。
アルバスは美形であり、侯爵家の令息であり、トレーシーの先輩である。
なにより、相性がよい。
(でも、ちょっと……小説にあるようなドキドキとも違うわ)
小説に出てくるようなドラマチックな感じではない。
恋愛小説に出てくるような大げさなものではなくて。
ちょっぴりだけ、毎日が嬉しいような、楽しいような、くすぐったいような。
とても、居心地のよい恋心。
それはとても、日常によく馴染む。
(むしろ……なぜ今まで気付かなかったのかしら?)
よくよく観察してみれば。
アルバスはトレーシーへの好意を隠すことなく接するも必要以上に立ち入ることなく、少し離れたところから見守るようにいてくれる。
(私は、アルバス先輩のことが……好き。アルバス先輩は私のことが……)
仕事中に、ふっと恋心を自覚して挙動が不審になるトレーシーを、トラントたちは不思議そうに眺めていた。