裏切者への処罰はトレーシーの知らないところで粛々と確実に行われた。
そもそも、研究開発部に攻撃を仕掛けたのがまずかったと言えるだろう。
魔法省、特に開発研究部にいる人材は元々が優秀なのだ。
ちょっと薄ぼんやりした人の良い騙しやすい人に見えるからといって侮ってはいけない。
そもそも賢すぎて嫉みを買いやすい人たちだから、うっかりしていて騙されやすそうに見えたからといって誰も忠告などしない。
ちょっと欠点があった方が可愛げあっていいんじゃない? くらいで育てられるし、付き合っていける。
そんな人たちなのだ。侮るほうがどうかしている。
本気になった魔法使える頭の良い人たちは怖い。
結果、現国王反対派の者たちは一網打尽にされた。
捕まった者たちはどうなるか?
罪状を裁判で細かく見られて量刑が決まる、というよりも、基本死刑である。
研究開発部の連中は基本メンタルデリケートなので処罰の細かいところまでは興味は持たない。
スルースキルも発達している有能な人たちだ。
しかし、トレーシーにはエリザベスの処遇だけは知らされた。
エリザベスも実行犯のひとりなので無罪放免とはいかなかったのだ。
とはいえ、死刑にするまでの罪かと言えばそうでもない。
結果、エリザベスは修道院送りとなった。
それを聞いても、別段トレーシーに思うところはない。
トレーシーの父マックスは、せっかく手に入れた爵位は取り上げられ、安物の魔法薬を売った損害賠償も求められているそうだ。
だからといって何かしてやろうという気持ちにもなれない。
義母ローラは悲劇のヒロインよろしく泣き暮らしているという。
それについてもトレーシーは、特別に思うところはないので勝手にしてくれという感じである。
元婚約者のユリウス・イグナコス子爵令息は商売上手で有名な男爵家へと婿に行ったそうだ。
わがままな男爵令嬢に振り回されて苦労しているそうだが、今のトレーシーには全く関係のないことである。
みな大人なのだから各自どうにかしてください、と、思うだけだ。
そしてトレーシーも大人なので自分でどうにかしなければいけないことがあった。