「不妊に効く魔法薬や魔道具の開発、ですか?」
「そうなのよ、トレーシーちゃん。国王夫妻からの依頼により、我が研究開発部では不妊関係グッズの開発に取り組む事となりました」
「だから魔法で防音の結界を厳重にかけたのですね。昨日、エセルさまがいらしたのは、この件で?」
「ええ。そうなのよ、トレーシーちゃん。朝一番から悪いわね。エセルが『少しでも早く取り掛かってくれ』って言うから、ゴメンね」
「いえいえ。大丈夫です」
「もっとも。国王夫妻にお子さんがいないのは、国民が皆知っているような事実だから秘密でもなんでもないんだけど。デリケートな問題だから、一応、秘密ね」
「分かりました」
「そこまでは分かりましたけど、部長。それと我々を呼び出した件の繋がりは?」
「んっ。アルバス、よい質問。キミとトレーシーちゃんで開発して貰おうと思って呼んだの」
「私とトレーシー君で、ですか?」
「ええ。トレーシーちゃんは、新しく入った魔道具制作の機器も使えるし。魔法薬に詳しいでしょ?」
「はい。でも、私が詳しいのは美容関係ですよ?」
「まぁ、美容も無関係ではないし。魔法薬に関しては緩く、気軽な感じでいいと思うわ」
「そんな呑気な感じでいいんですか? 部長」
「だってさー、アルバス。知ってるでしょ? 国王夫妻の仲の良さ。年齢的には32歳だから、そろそろ焦るのはわかるけれども。開発している途中で自然妊娠、なんてこともありそうじゃない?」
「まぁ、そうですね」
「ああ、そうなんですね?」
「そうなのよ、トレーシーちゃん。私とエセルが幼馴染で、エセルと王妃さまも幼馴染。私も国王陛下と仲が良くて……って、感じで。その辺の情報はダダ洩れなのよ」
「はぁ……」
「不妊に効く魔法薬や魔道具の開発、なんて国王夫妻相手に必要ですかね? いざとなれば
「あっ! あーあー、アルバスっ! それは、言っちゃダメなヤツー!」
「えっ? そうだったんですか? あっ? でも、秘密って言っても、
「あー、そうだったわ~。そうね、そうね。そうだわぁ~。無駄だったわ、この秘密」
「何ですか?
「ンッ。こうなったら言っとくわ。でも、後から秘密保持の魔法契約結ぶからね?」
「はい、分かりました。で、ソレって何なのですか?」
「
「そうだよ。アレは万能の魔法薬みたいなモンだから。色々と出来る事があり過ぎて危険ではあるけれど、不妊くらいなら楽勝だ」
「便利なモノがあるのですね」
「んっ、トレーシーちゃんにとっては便利な道具くらいの感覚なのね?」
「アレ? 違うのですか? お世継ぎを確実に授かれるなら便利ですよね? どう使うのか見当もつきませんが」
「ソレは
「アルバスっ!」
「ん?」
「私は使う機会もないでしょうし、知る必要もありませんよね」
「うんっ。それでいいわ、トレーシーちゃん」
「でも不妊関連グッズの開発をするとなると必要最低限の知識は必要ですよ」
「そこは大丈夫です、アルバス先輩」
「で、ね。国王夫妻に必要かどうかはともかく、不妊に悩んでいるカップルは多いから需要はあるわ。今回は王家案件ということで予算が取れたから、この機会に研究開発しちゃおうと思ってね。お世継ぎの為に、とか、肩に力の入っちゃうような事は考えなくてもよいけど。困っている人たちの為に、しっかりやってちょうだい」
「はい、分かりました」
「ん~。と、いう事は、国王夫妻に色々と聞きたい事はありますけど……その辺は……」
「デリケートな問題だから、直接聞くより問い合わせた方がいいんじゃないかしら?」
「と、言いますか……」
「何よ、アルバス。気になる事でも?」
「ああ、そうですよね。アルバス先輩。寝室とか、お部屋をちょっと拝見したいですよね」
「トレーシーちゃん? どういう事かしら?」
「まずは現状を把握しないといけない、という事ですよね、アルバス先輩」
「うんっ。それが良いと思うんだよね」
「そうですよね。寝室に呪いとか仕掛けてあったら、どんな道具を使っても意味ないですから」
「あら? そこから手を付けるわけね、トレーシーちゃん?」
「はい。セキュリティは、しっかりしているのでしょうけれど。念のためです」
「意外な所に抜けがあるかもしれませんからね」
「ウフッ。『防犯魔法初歩入門』基本を見直せ、ですね。アルバス先輩」
「そうだね、トレーシー君ッ」
「……アナタ達、ホントに気が合うのね?」
「そうですか? 基本的な事だと思いますが」
「ええ、基本的な事だと思います。これは引っ掛け問題ですね? トラント部長」
「そういうワケではないけれど……ま、いいわ。エセルに話を通しておくから、適当にやって」
「「はい」」
この後。
トレーシーは約束通り、トラントと秘密保持の魔法契約を結んだ。
ついでにトラントはアルバスとも秘密保持の魔法契約を結んで、仲間内であろうとも秘密事項に関する軽口が叩けないようにした。