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第14話

 研究棟の一室。

 その入り口に立っていたのは近衛兵である赤毛の細マッチョ美女、エセル・オズワルド伯爵令嬢だった。

「あら、エセルじゃない。珍しいわね? 何の用かしら?」

「やぁ、レイ。皆さんも、こんばんは。ちょっと相談したいことがあってね。いいかな?」

「あら? 本当に珍しいわね」

「ちょっと内密に話したい事があってね……」

「ああ、それなら。ちょっとコッチで話しましょう」

 トラントは魔法で別の部屋に繋がるドアを出した。

「ちょっと行ってくるわね」

「ゴメンね。この人、ちょっと借りるわ」

 ヒラヒラと手を振りながら、トラントとエセルはドアの向こうへと消えていった。

「ん……何かあったかな?」

 ヒラヒラと振り返していた手を止めてアルバスは思案するように眉をひそめた。

「そうかもしれませんね、アルバス先輩。噂か何か聞いてない? セイデス」

 その隣で同じようにヒラヒラと振っていたトレーシーは、セイデスを振り返って問いかけた。

「オレは何も知らないよ」

 あっさりと答えるセイデスに、アルバスは戸惑いの声を上げた。

「キミは情報通のような気がしていたけど、違うの?」

「やだなぁ、アルバスさま。オレはタダの文官ですよ? 情報なんて……」

「そうそう。セイデスは計算が得意なだけで、特に情報通というわけではありませんよ」

 あっさりと言うトレーシーに、アルバスは更に戸惑う。

「えっ? そうなの? なんとなく情報通な気がしていたけど……」

「いやいや。オレは別に噂話とか得意じゃないですよ」

「そうなんだ」

 セイデスを情報通だと、なぜ思ったのかについて考えようとしたアルバスだが、トレーシーの言葉に邪魔された。

「それよりも、ねぇ? あの二人、気になりませんか?」

「何が?」

「あー、わかるー! トレーシー君、気になるよね?」

 ポカンとするセイデスに対して、アルバスは盛り上がる。

「ですよね、ですよね。あの二人、幼馴染なんですよね? しかも、お似合いじゃないですか?」

「は?」

「わかる、わかるっ! トレーシー君、あの二人、なんか怪しいよね?」

「きゃー。アルバス先輩も、そう思います?」

「……」

 セイデスは胡乱な目をキャッキャしながら盛り上がっている二人に向けた。

「うんうん。部長、婚約者いないし。案外、そういう事かも~」

「きゃー。アルバス先輩っ。やっぱり? やっぱり、そうですかー!」

「……」

「キリッとしたエセルさまと、うちの部長を。頭の中で並べてみる」

「うんうん。お似合い、お似合い」

「さっきも自然な感じで良い雰囲気だったし。お似合いなのにねぇ。案外、本人たちは気付いてなかったりして」

「うんうん。気付いてないかも」

「……」

(女子かっ!? いや、トレーシーは女子だった。アルバスさまって、こんなノリなんだ……氷の貴公子、なんて噂もあるのに。いや、氷の美貌、だっけ? ああ、どっちでもいいー。気付け。アンタ達も同じだ、気付け)

「んっ、リンゴ一個丸ごとだと少し多いなぁ……。トレーシー君、リンゴ一切れ食べるかい?」

「下さい」

 皿を差し出すトレーシーを見て、セイデスは呟く。

「本人たちは意外と分かってなかったりするんだよなぁ……」

「んっ? セイデス、何か言った?」

「えっ? なに? セイデス君もリンゴ、食べるかい?」

 トレーシーの皿に一切れリンゴを落としたアルバスは、セイデスの方を見て聞く。

「いえ、結構です。オレは丸かじり派なんで」

「そうなんだ。歯が丈夫なんだね」

「私と同じ顔をしてますが、セイデスは意外とワイルドなんですよ」

「えっ? トレーシー君も、まぁまぁワイルドでは?」

「えっ?」

「えっ?」

「……」

(ナニを見せられているんだろうな、オレは……)

 などと思い、セイデスはゲンナリした。

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