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第13話

「と、いうワケで。晴れてオレがダウジャン伯爵家を継ぐことになりました~。拍手~」

 セイデスが宣言すると、トレーシーたちは拍手した。

「えっ?『パチパチパチ』こっちがダウジャン伯爵? 『パチパチパチ』トレーシー君は、ダウジャン伯爵令嬢ではなくなったのに? 『パチパチパチ』」

「はい。『パチパチパチ』そうです、アルバス先輩。『パチパチパチ』」

「『パチパチパチ』まぁ何はともあれ、良かったわね? 『パチパチパチ』トレーシーちゃん」

「はい。ありがとうございます、トラント部長」

 ここは研究棟の一室。

『えっ? 研究三昧だね? 良いね、良いね』と、興奮するアルバスに引きずられるように、朝・昼・晩と食事を届けて貰うようになってしまったトレーシーは、最初の晩以降、食堂には行っていない。

 そして、人数多い方が色々とシェア出来て良いね、という事で、トラントやセイデスなども含めて食事をすることが常態化してしまった。

 トラントによると、ワイワイしながら食べているのを見ていると生活が不規則な職員たちも食事を摂ろうという気分になるらしく、研究開発部全体の健康に良いということでもあるらしい。

 その辺のことはトレーシーにはよく分からないが、変わり者しか居ない部署なので深く考えるのは止めた。

 代わりに今日もとっぷりと日が暮れた窓の外を見ながら、ワイワイガヤガヤと食事をしているのだ。

「ホント良かった、安心したわ。セイデス、ダウジャン伯爵家をよろしくね」

「分かってるよ、トレーシー」

「落ち着いたら遊びに行くわね」

「落ち着かなくても遊びに来てよ、トレーシー。セバスチャンとか泣いて喜ぶよ?」

 笑顔だが他人事のように言うトレーシーに、セイデスは戸惑ったような表情を浮かべた。

「んー……でも、私は出て来ちゃった身の上だから。少し冷却期間を置こうと思って」

「遠慮しなくていいのに。なんなら、また戻ってきてもいいんだよ? トレーシーの部屋はそのままにしてあるから」

「ありがとう。でも、王城での暮らしは快適よ」

 セイデスの申し出をあっさり断ったトレーシーの横で、アルバスがはしゃいでいる。

「そうだね、そうだね。研究し放題だもんね? トレーシー君ッ」

「そうですね、アルバス先輩」

 ニコニコしているアルバスに笑顔を返しながらトレーシーは頷いた。

(人生って不思議なものね。屋敷で暮らしていた時よりもアットホームな雰囲気ですし。私の家がセイデスの家になってしまったし。……それを、寂しいとも感じない私は冷たい人間なのかしら? 変なのかしら?)

 目の前には、資料を大胆に避けて作ったスペースに料理が並ぶ。

 資料も機材も大量にある研究棟には、屋敷の食卓のようにスッキリした食事のためのスペースは無い。

 毎回、無理矢理スペースを作っている。

(空間魔法でどうとでもなるけど……なぜか皆さん、わぁ~っ、と勢いでスペースを作りたがるのは何故かしら?)

 食堂から届けられた料理は様々ではあるが、どれも美味しそうだ。

 ただし、上品ではない。

 山盛りのロースト肉と山盛りの白身魚のフライ、丸ごとのサーモンパイ、大きなボウルに入ったサラダ。

 パンも果物も大きな籠いっぱいに入っている。

 大胆な量を取り寄せて、好きなだけ食べるスタイルだ。

 残った物は全てトラントが片付けるため、問題はない。

(なぜかスープだけは、小さなお皿に入って人数分、届くのよね)

 などど、どうでもよい不思議にトレーシーが思いを馳せていると、

「ちょっといいかな」

 と、意外な人物が入ってきて、一同に声をかけた。

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