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第6話

 アルバスは24歳。

 銀色の長い髪を無造作な三つ編みにして後ろに流している。

 身長は187センチほどあってセイデスよりも高いが、とにかく細い男だ。

 瓶底のようなメガネをかけ、猫背が気になるヒョロッとした体に白衣を羽織っている。

 白衣の裾を、えっ? そこに膝があるんですか? と、驚かれるような高い位置から揺らして近付いてくるアルバスは独身だ。

 元々の素材としては悪くないのだが、見た目について無頓着な男であることは一目で分かる。

 貴族らしさの欠片も無い服装に、無造作に束ねた髪は何時も何処かが跳ねていて、アルバスの興味が外見には無いことを如実に現わしていた。

「えっ? えっ? トレーシー君ッてば、王城に住むの? えっ? ずっっっっっと王城に? えっ? ずっっっっっっっと? えっ? なんで? えっ?」

 落ち着きなく早口でまくし立てるアルバスは背中を丸めて顔を二人に近付けた。

 彼には、興味深い話題であればあるほど猫背が酷くなって早口になる癖があった。

 そのため今現在、彼の口調はかなり早回しだ。

「アルバスさま。落ち着いて下さい」

「いや、だってトレーシー君が……えっ? えっ?」

「そうですよ、アルバス先輩。私が家を出たからって……アルバス先輩が慌てる必要なんて無いですよね?」

「……」

(それを聞く? 聞いちゃうの? トレーシー? そーゆー疎いトコが、オレは心配なんだよっ!)

 セイデスは心の中で毒づいた。

「いや、そんなことはないっ。キミが王城に住むなら。いつでも魔法談義が出来ちゃうでしょう? 私もココに住んでるようなものだから。帰りの時間も気にしないで話が出来るよ。えっ? それって、どんな天国?」

「もう、アルバス先輩ってば。大袈裟~」

 アルバス・メイデン侯爵令息がトレーシーに気がある事は、傍から見ていれば明らかだ。

 なのに、アルバス本人も、トレーシーも、鈍くて鈍くて気付いていない。

 だから、セイデスは心配になるのだ。

「えっ? だって、トレーシー君が職場に住むって言うから……て、ことは研究し放題、議論し放題だけど……えっ? なんで? だって、トレーシーは婚約もしてたよね?」

「あはっ。まぁ、そう思いますよね。アルバス先輩。実は家を追い出されちゃいまして。ついでに婚約も破棄されちゃったんで。仕方ないので今日から王城に住みま~す」

「……っ⁈」

(それ言っちゃう? 言っちゃうの? トレーシー? そーゆー危機感が無さ過ぎるトコが、オレは心配なんだよっ!)

「えっ? 婚約破棄? えっ? て、事はトレーシー君はフリー? えっ? 研究し放題な上にフリー? えっ? えっ? いいな、いいな。いや、婚約者が居ないのは私も一緒か? おっ? お揃いだね?」

 セイデスの心配通り、アルバスは興奮状態である。

 チッと心の中で舌打ちするセイデスだがアルバスは危険人物というわけではない。

 挙動が不審な魔法オタクではあるが、侯爵令息であり独身。

 現在は婚約者もいないアルバスは今注目のお買い得物件なのだ。

 しかも社交界では人気が高い。

 職場では魔法オタクな24歳独身の瓶底メガネをかけた猫背な男なのだが、キチンと着飾ったアルバスは冷たい印象を与えるほどの美形で通っている。

 レンズの厚いメガネは研究中の事故に備えて目を保護するために掛けているだけで視力が悪いわけでもない。

 当然、社交の場に出る時にはメガネを取る。

 するとそこに現れるのは、青い目をした銀髪のスラリと背が高い貴族男性。

 興味のない話には口調がゆったりになる為、社交界では美貌と物憂げなゆったり喋りで有名だ。

 侯爵令息だが次男というのもポイントが高い。

 爵位にこだわる令嬢たちではあるが、義両親を煙たがるというのは万国共通の事象である。

 魔法省エリートであるアルバスは高収入であるし地位もある上、メイデン侯爵家が複数の爵位を所持しているのは有名な話だ。

 社交の場に殆ど出ないトレーシーは知らないが、それらの理由によりアルバスはモテる。

 もの凄く、モテる。

 令嬢同士の醜い争いが起きるほど、モテる。

 しかも、その事実に本人全く気付いていない凶悪さ。

 アルバス・メイデン侯爵令息本人は人畜無害であるが、全くもって罪な男なのである。

(アルバスさまは他人の気持ちにも自分の気持ちにも鈍いし。トレーシーは他人からの好意に対して鈍いし。いや、トレーシーに関しては、悪意に対しての過剰防衛の可能性も……ああっ! ホント心配っ!)

 頭を抱えるセイデスの前でトレーシーとアルバスは、無邪気に仲良く盛り上がっていた。

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