オレは立ち上がってルノの目を覗き込む。
178センチのオレと182センチのルノでは、身長差はさほどない。
少し目線を上げたなら、そこに潤んだ青い瞳がある。
真っすぐに見つめて、真っすぐに言う。
「愛してる」
「……っ」
囁きながらオレが顔を近付けると、ルノは一瞬怯んだように身を後ろに引いた。
自分から仕掛ける時は強引な癖に、迫ると逃げ腰な男ってどうよ?
と、思いつつも、オレはルノの後頭部に手を回して捕まえる。
「逃げるなよ」
手のひらから伝わって来る、自分とは違う体温。
白い肌に映える形の良い赤い唇に、オレのそれを柔らかく重ねる。
「……っ」
唇越しに感じる、ルノの動揺がオレの欲を煽る。
「……いい?」
なんの確認してんだか。
自分で自分にツッコミながらも、コクンと頷くルノの額の感触を前髪で感じた瞬間、細かい事はどうでもよくなる。
「……っ」
熱い。
何かが自分の中で弾けた気がした。
言葉もなく互いの衣類を脱がしにかかる。
オレは魔法道具を作る器用さを活かしてルノが着ている複雑な構造の貴族服をどんどん脱がせていった。
ルノはオレの簡単な構造の普段着を苦戦しながら脱がしていく。
露出していく彼の白い肌にキス、キス、キス。
身長は変わらないのに、厚みはまるで違う体に改めて感動する。
鍛え上げられたアルファの体は彫刻のよう。
逞しく張りのある筋肉に覆われているのに、整っていて美しい。
それでいて、敏感だ。
気まぐれに戯れながら落とす唇に、いちいち反応してピクリと震える肌に小さなうめき声が愛しい。
互いに露出を増やしていきながら、オレの部屋から夫婦の寝室へと移動する。
王妃さまたちからのプレゼントは、奥さま部屋に置いてきた。
これからすることを考えたら、ゴツイ指輪は無粋でしかない。
指輪は奥さま部屋のベッドの上で、事の終わりを待っている。
今はそれでいい。
「ルノ……ルノ……お前が欲しい……」
誰の声だよ、とツッコミたくなるほど欲に濡れたオレの声。
「あっ……でも、私は汚れているし……風呂に……」
「いまさら、なんだよ」
オレは少し笑ってしまいながら、素っ裸になった自分とルノの体全体に洗浄の魔法をかけた。
今はもっと重要な事がしたい。
夫婦の寝室は相変わらず白かった。
でも、少し変わったような気もする。
「フリル少な目のカーテンに変えたよ……他にも、色々と……両親が使っていた時のままだったから……」
「あー……それは……」
気まずい。親が使っていた時のままの夫婦の寝室は、気まずい。
でも、まぁ、急だったからな。
仕方ない。
キスの合間にそんなことを思いながら、白いシーツの上に雪崩れ込む。
いつの間にか、オレはルノに組み敷かれて青い瞳を見上げてた。
「……ミカエル……ホントにいいの?」
「いいよ。オレはルノが欲しい」
「一生、離してあげられなくなるよ? 私で……いいの?」
欲に染まった声は、甘く色っぽくかすれていて。
圧し掛かる体は熱くて。
欲望も露わな体を、今更止められるとも思えないのに。
それでも確認してくるのだ。ルノは。
「いいって言ってる」
バカだな、と、思いながら白い肌に覆われた逞しい背中に両手を回す。
「でも……あぁ、信じられない……」
オレのアルファが呟くのを聞きながら、しっとりとした肌の感触を愉しむように手のひらで背中を撫でる。
「はははっ、なんて顔してんの?」
なぜ、そんなに自信がないんだとオレは笑ってしまう。
「もう……」
ルノは拗ねたような顔をする。
「ははっ、ワリィ、ゴメン、ゴメンって」
可愛いな、と、思う。
思った次の瞬間には、右手でルノの頬を撫でていた。
「そんなだから……信じられないんだって」
「ふふふ。でも、ルノが悪い」
「なぜ⁈」
「つべこべ言わずにオレの事を信じない、ルノが悪い」
「なぜ⁈」
唇を重ねるたびに、ルノから漂ってくるグレープフルーツのような柑橘系の匂いが強くなる。
自分では感じないが、オレだって匂いを発しているはずだ。
どんな香りがしているのかは分からないが、己の高ぶりがはっきりと分かる場所がある。
膝を少し立てれば、ルノの熱くて硬い高ぶりが足に触れる。
「……ァアッ……」
ルノは、うめき声までセクシーだ。
整った顔を快感で歪ませたい。
表情が激しく変われば変わるほど、ルノの人間らしさは増していく。
人形みたいなルノも、貴族然としたルノも要らない。
オレは生々しい人間のルノが欲しい。
バカなルノが欲しいのだ。
本当にオレは趣味が悪い。
「あぁ……いい匂いだ……」
ルノがオレの首筋に顔を埋める。
サラサラした銀髪がオレの肌の上を滑っていく。
気持ちいい。
「ああ、ルノ、ルノ来て」
もう、逃げられない。
逃げたくない。
オレは奥さま部屋に設置してある魔法道具を起動する。
防音の魔法陣が静かに展開されて行く。
これで心置きなく鳴き叫べる。
他人なんかにアノ声を聞かせたくないが、ルノには存分に聞かせたい。
それが彼を煽ることを知ってるから。