王宮でルノの姿を見かけてから数日が経った、ある日。
少し秋の気配がし始めた日の午後。
なぜか目の前には、ルノが居る。
実家のオレ部屋でソファに寝っ転がってくつろいでいたオレは寝っ転がったまま、ルノを見上げていた。
「……帰るよ」
久しぶりに聞くルノの声。
感情の読み取りにくい表情を浮かべているルノは、麗しさがマシマシでバカ度低めだ。
状況が把握できずに戸惑うオレ。
「なぜ?」
「……いやか?」
唐突に現れた理由を聞いているのに、違う答えが返ってきた。
でも、答えは決まっている。
「いや、じゃない」
オレの返事を聞いて、かえって不安そうな表情になったルノに困惑する。
「なら……帰ろう?」
「うん」
ソファから立ち上がるオレの視線が兄さまたちの姿をとらえた。
「国王さまから言われていたのでシェリング侯爵殿をお通ししたのだが……良かったのか?」
ジョエル兄さまに問われて、オレは黙ってうなずいた。
「ミカエル……シェリング侯爵家へ帰るのか?」
「……うん。ジョエル兄さま」
兄さまたちは不満げな表情をしている。
「このまま家に居てもいいんだぞ?」
「わかってるよ。ノイエル兄さま」
「それで、お前はいいのか?」
「うん。ジョエル兄さま」
兄さまたちの不満も分かるけど、オレはルノと所へ戻りたい。
「いつでも帰ってきていいんだぞ。ここは、お前の実家だ」
「ありがとう……ノイエル兄さま」
心配そうな顔をしている兄さまたちに見送られ、オレはルノと一緒に馬車へ乗った。
ジルベルトたちに護衛されてシェリング侯爵家に向かう。
辿る道筋は目新しいままで、少しも慣れない。
向かいに座るルノは黙ったままだ。
これなら転移魔法陣を使ったほうが気まずくなかったな、と、思うオレ。
迎えに来たルノについて帰るオレも、かなりバカなんじゃないかな、と、思う。
黙っているルノは、やっぱり綺麗で。
緩く三つ編みでひとつにくくられている銀髪が、馬車の窓から入って来る日差しを受けて光るのを眺めてしまう自分を止められない。
ルノのサラサラの銀髪も、青い瞳も、整った顔も、オレはキライじゃない。
だけど男性らしさに乏しい美貌は、どこか作り物のようで。
感情が分からない時のルノは人形のように見える。
ルノが何を考えているのか窓の外を見ている青い瞳を見つめてみるけれど。
そこに浮かぶ感情は分からないし、ルノがオレの方を見ることもない。
服の上からでも分かるほど鍛えられた肉体は、誰の手も必要としていないようで。
二人でいるのに一人きりにされたような気持ちになったオレは心細さに泣きそうになる。
無言のままのルノは綺麗な人形を思わせる貴族っぽさがあり、いつものルノらしい人間臭さがない。
早くもオレは後悔し始めていた。