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第40話

 オレは両陛下とテーブルを挟んでお茶をしていた。

 テーブルの上には色とりどりの菓子が並び、香り高い紅茶が湯気を立てている。

 王妃さまは妊娠中だからハーブティーだ。

「……と、いうわけで。オレは今、実家にいます」

 オレの説明に国王さまはウンウンとうなずいた。

「ふんふん。そうかぁ。ルノは……小っちゃい所があるからなぁ」

 国王さまの隣で王妃さまもうなずく。

「そうねぇ。ルノさまは、基本的に臆病な所がおありになるから……」

「臆病?」

 ルノはバカだが臆病だとは思ったことがないオレはコテッと首を傾げた。

「んっ。その首をコテッと傾けるの。あざとカワイイぞ、ミカエル君。好き」

「そうね。とっても、あざとカワイイわ」

 ん、貴族っていうのはこーゆーツッコミが入らないように所作へ気を配るのだね。

 オレは今、理解したよ。

「癖なんですよ……」

 モゴモゴと言い訳をするオレを、小さな子どもでも見るようなまなざしで両陛下は見ている。

「でも、ミカエルさま。ルノさまと離れていては、お寂しいでしょう?」

「ああ、そうだな。ルノも寂しくて泣いているかもしれない」

「えぇ……と、そのぉ……んん……」

 ルノが泣く? ちょっと想像できない。

 国王さまがニヤニヤしているからオレは揶揄われているんだろうけど。

「夫婦って不思議よね。赤の他人が一緒になっただけなのに。離れていると、逆に不自然な気がしたりして」

 王妃さまが溜息混じりに言えば、国王さまもうなずきながら言う。

「そうそう。泊りの公務で離れなきゃならない時とか。不自然だし、寂しい」

「あら、アナタはもう慣れたのではなくて?」

「まだまだ新婚だよ、奥さん」

 オレはヘラヘラと笑うしかなかった。

 国王さまと王妃さまのイチャイチャを間近で見る日が来るとは思わなかったな……。

 もっとも、見たかったかと言われればそうでもない。

「それで、ミカエルさまはどうしたいのかしら?」

 と、王妃さまに聞かれ、ついチラッと横目で国王さまをうかがう。

「ん、分かった。私は邪魔なのね」

「拗ねないで、アルバス。デリケートなお話なのよ」

「分かってるよ。じゃ、後でね」

 国王さまが席を離れると、王妃さまは防音の魔法道具を取り出した。

「ふふ。音を消せば、ミカエルさまも安心して話せるでしょ?」

「あ、はい。……お気遣い、ありがとうございます」

「いいのよ。オメガとはいえ男性ですもの。色々と複雑よね?」

 何かを察しているらしい王妃さまの言葉を聞いて戸惑うオレ。

「ええ……まぁ……」

「ルノさまは少し、変わった所のある方ですし……分かりにくいかもしれないわね」

「はぁ……」

「その点は心配していたのよ。ルノさまはリードしてくれるタイプではないでしょう? リードを任せられないタイプというか……」

「そう、かな? そうかもしれません」

「アルファ男性らしくないというか……貴族男性らしくないというか……割と、ツッコまれ上手よね?」

「まぁ、そんな感じですよね……」

 ルノ。

 ゴメン。

 褒め言葉が、あんまり出てこないや。

「モダモダしているかと思えば、突然暴走したりとか。男性には、というか、人間には、そのような所があるわよね?」

「ですか、ね?」

「誰かに自分の人生をお任せ、で、生きて行けたら良いけれど。そうではないから困ってしまうのよ……」

「ですよね……」

「人生にも、結婚にも、正解など無いでしょう? ミカエルさまがルノさまのことを受け入れられるのなら、それはそれで幸いなことではあるけれど。えっとその、聞きにくいのだけど……」

「何でしょうか?」

「あのね。ちょっと、突っ込んだ……いえ、踏み込んだ話になってしまうのだけれど……。ええと……そちらの意味でルノさまのこと……嫌ではないのね?」

「はい?」

「えぇと、その。ん、……一応、事件のあらましは、わたくしも聞いていますので、えっと、件もお聞きしたのよね……」

「……はぁ?」

「えっと……ヒートの件ね……」

「あっ……」

「それでね、ええと……体の相性……その、そちらの意味でも、ルノさまを受け入れられるの……かしら?」

「……えっ⁈」

 ボンッと音がするんじゃないかと思うぐらい勢いよく、顔が赤くなったのが自分でも分かった。

「オメガといっても男性ですし……あの……ミカエルさまが、そちらの意味で嫌な思いをされてないといいのですが……あの……どうかしら?」

「あっ……はっ……あの……大丈夫です」

 認めてしまった。

 ああ、そうだよ。そうだよ。

 オレとルノは体の相性は悪くないんだよ。

 気持ち悪いよ男同士なんて~、とか言いながら泣いてるとか、無いから。

 その点については、オレはしっかりオメガなんだなぁ。

 認めたくないけどさぁ~。

 あ~。認めちゃったよぉ~。しかも、お妃さまの前で。

 恥ずかしいな。コレ。

「それはよかったわ」

 王妃さまは心からホッとしたような笑顔を浮かべたが、それがまたオレをいたたまれない気持ちにさせた。

 いやぁ~。

 すっげぇ……。

 恥ずかしいィィィ……。

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