奥さま部屋の窓からの景色を覚えてしまった。
「ここがオレの場所、なんだよなぁ……」
オレはソファに寝そべり、窓の外をぼんやりと眺めながら呟いた。
今日も相変わらず、ピンクピンクした奥さま部屋にオレは軟禁されている。
ルノに言わせると違うらしいけど、オレからしたら軟禁だ。
仕事からも遠ざかってしまった。あれから何日経っただろう。
国王さまから依頼された仕事も滞ったままだ。
「一番の問題は……オレ、かなぁ……」
ぼんやりとつぶやく。
仕事がしたい。これは軟禁だ。そう思う一方で、現状を受け入れてしまっているオレもいる。
オレはオメガだ。引きこもることに慣れている。
危険な事からは遠ざかるに限るのだ。危ない事に近付いちゃいけない。
オメガだから。弱いから。差別や嫉妬を受けやすいオメガは味方を作りにくい。
自分で守ろうとしたって、筋肉が付きにくい。
だから、外に出るな。自分の存在を隠せ。そう言われながら育ってきた。
隠れるようにして暮らすことに抵抗なんてない。
危ないのなら、引きこもって暮らすのもアリだな、と、無意識に思ってしまう。無意識に従ってしまう。
ルノが外に出るな、と言えば、反発しながらも従ってしまう。
オレはオメガだから。そう育ってきているから。説明とも言い訳ともつかない言葉は、簡単に思いつく。
「でも……状況は変わったんだよなぁ……」
生まれてくる王子さまが、オメガ男性であることで状況は変わった。
変えると国王さまが約束してくれたし、アルファの王妃さまも自分の子供の為に動くだろう。
彼らは弱くない。アルファだから。王族だから。世の中を変えていける。
「オレはオメガだけど」
オレがオメガであることは変わらない。変わらないけど、置かれている環境は変わったんだ。
結婚もした。国王さまを味方に付けた。仕事もある。
仕事を進めていけば、それだけでオメガが生きやすい世の中に変えていける。
「生きやすくなるのは、オメガだけじゃない」
世の中が変われば、生きやすくなるのはオメガだけじゃない。
ベータだって、アルファだって、生きやすくなるはずだ。
貴族と平民の行き難さも変わっていくかもしれない。変化は色々な場所で起きてくるはずだ。
「だって、オメガの王さまが国を治めることになるかもしれないんだ」
世の中は変わらざるおえない。
なのに……。
「オレは結局、根本的なトコで変わってないんだろうなぁ……」
この奥さま部屋から強引に出て行こう、なんて考えていない。
オレは部屋にずっと居ろって言われたら、きっとそれに従う。
でもさぁ、ルノ。
それってさぁ。
良い事かなぁ?
「んん……」
だってさソレだと、オレって人間は自立していることにならないよね?
「自立……」
オメガが自立するとは、どういうことだろう? どうなることだろう?
「んんんっ。ワカンネェ」
屋敷の奥に隠れて暮らすことが、自立になるか?
このまま奥さま部屋に隠れてたって。ルノの嫁って事にすれば自立してることになるの?
仕事を再開すれば自分で稼ぐこともできる。
ルノを捨ててひとりで生きていく道もある……けど。
それだけで人生が成立するのだろうか?
「わかんねぇ……」
お母さまが命と引き換えに産んだオレという存在は、どうやって生きるべき?
このままルノの言う通りに従って、奥さま部屋に隠れて生きるの?
「それでもいいかぁ……と、思っちゃってるトコが一番問題なんだよなぁ……」
なぁ、ルノ。
オレ、アンタの事が、とんでもなく好きみたいだ ――――。