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第34話

「なんでだよ?」

「キミのためだよ、ミカエル」

 オレたちはピンクピンクした奥さま部屋で揉めていた。

 日はすっかり高くなり、本来であれば実家のオレ部屋で作業している真っ最中のはずだ。

 なのに、まだオレはだらしなくベッドの上にいた。

 ヒートの期間は終わり、体も回復している……と、思う。だが、過保護なルノがオレを解放してくれない。

「仕事がしたいっ」

「今はダメだ」

 ベッドの端に腰かけたルノとの言い争いは、さっきからずっと続いている。

 昼も近い時間だろうに、ベッドの上というのはいただけない。

 でも、オレを抱いた後のルノは異常なほど神経質になっていて、どうしていいのか分からない。

「キミは実家で媚薬を盛られたんだよ? 今回は媚薬だったから、ヒートくらいで済んだけど。アレが毒だったらどうするの? 命を狙われたかもしれないんだよ?」

「解毒魔法をかけてたから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないっ」

「なら、どういう問題なんだよっ」

「とにかくっ。事情がはっきりするまで、キミは動いたらダメだ」

「いや、だって……」

「嫌もだってもナシだ。キミはここにいて」

 ガッとルノがオレのことを抱きしめる。ギューギュー締め付けてきて苦しい。

 でも、縋りつくようなルノを無理に引き離すこともできない。 

 ちくしょうっ! なんでこんなバカが好きだって、気付いちまったんだオレはっ!

 首筋あたりに顔を埋めている男に、オレは静かに問いかける。

「なぁ、ルノ。いつまでオレを部屋に閉じ込めておく気なの?」

「調べが付くまで、だ」

「調べが付く? 犯人が分かるまでってこと? そんないつまでも寝ていられないよ」

「だったら、部屋で出来ることをしたら?」

「そう言われても。道具を持ってきてないから、魔法道具の開発も出来ないよ」

「それ以外のことをしたらいいじゃないか」

「何を?」

「ん、例えば刺繍とか……」

 オレは思い切り顔をしかめた。

 貼り付いている男をベリッと剥がして、その顔を覗き込む。

「オレがそんなことするタイプに見える?」

「いや、見えないけど……」

 ルノの青い瞳が泳ぐ。

 オレが戸惑っているようにルノも動揺していてどうすればいいのか分からない状況なのだろう。

 だからといって易々と受け入れていい問題ではない。

「なぁ、ルノ。オレがそこそこ強いのだって知ってるだろ? こんなことやめてくれよ」

「こんなことって?」

「オレを監禁するような真似さ」

 ルノが眉毛を跳ね上げ声を荒げる。

「監禁してるつもりなんてないっ!」

「なら、軟禁か?」

「そんなつもりはないよ。私はキミを守りたいだけだ」

 自覚なし。余計に厄介だ。

「だったらさー……」

「もう、やめよう。今回の事件の首謀者が分かるまで、キミはココから出ない。それで決まりだ」

「ルノ……」

「話は終わり。終わりだからっ」

 サッと立ち上がると、ルノは部屋から出て行った。

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