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第23話

 食堂で昼食を摂りながらの長話。防音の魔法道具は置いてあるけど、セルジュとマーサの見守る目が妙に温かくて落ち着かない。

 何あれ?

 他の使用人さんたちの目も妙に優しいんだけど。

 何あれ?

 オレは気付かないフリして、ルノワールと必要なことを話し合っていく。

 途中で出されたレモンシャーベットは食後のデザートだったのか、お口直しというヤツだったのか。

 分からないが、甘酸っぱくてホロ苦くて美味しかった。

 引き続き、ケーキやらスコーンやらクッキーやら並べられて紅茶を出された。

 話ながら食べていると、あら不思議。いつの間にか無くなって、いつの間にか補充されている。

 侯爵家には妖精さんがいるのかしら? って、給仕の人がしっかり見てるんだよ。

 防音の魔法道具のせいで向こうの気配も感じ取りにくいけど、結構な人数の方々に見守られてるんだよ。

 恥ずかしいから意識しないようにしてるけど。

 オレは必要なことを思い出した。

「あっ、そうだ。セキュリティのこと、どうする? オレの実家と転移魔法陣つなぐなら、しっかり考えないと」

「セキュリティか。確かに、そこはキチンとしておかないと危険だな。王宮での貴族たちの雰囲気もおかしかったから警戒しておいたほうが良い」

「やっぱ、あれって変だよな?」 

「他のオメガを知らないから何とも言えないが。そもそも、キミがオメガであることを皆が知っていたのは変だ」

 ルノワールが顔に手をあて思案深げに首をひねる。

「社交の場に出ないから、ランバート伯爵家の三男であるオレの存在を知っている貴族は少ないだろうし。オレがオメガって情報だって、あまり出ないようにしているし。結婚相手であるルノワールならともかく、他の人たちには気付かれるの早すぎだよね」

 王宮ですれ違った男たちの視線を思い出して、オレはブルッと震えた。

「王宮だから情報が早いとしても、用心したほうがいい。何かあるのかも」

「魔法薬や魔法道具を持ち込むの、邪魔されるとか?」

 オレ自身にはたいした価値がない。思い当たるとすれば、そちらだ。

「ああ。すり替えとか、ね」

「なにそれ恐いっ」

 魔法薬は赤ちゃんに使うようなものではないけれど、悪用されたら簡単に毒が盛られてしまう。

「オメガが国王になる、なんて話になれば面白くない貴族もいる。命を狙われることがあるのはもちろん、ヒートやフェロモンのコントロールを邪魔したい輩も出るだろう」

「そうだね。殺されなくても、ヒートが悪いタイミングで起きたら社会的に死ぬ」

「次期国王ともなれば、公的な場に出る機会も多い。そこを狙われてヒートを起こされたら危ない」

「あー。ヤバそう」

 オレは性的に狙われたり、誘拐されたりしないように引きこもっていたわけだけど。

 次期国王になるなら公式の場に出る必要がある。

 公式の場に出ず、王位も継がないとなっても、王族なら危険な場面はいくらでもあるわけで。

 その危険から守る役割をオレが助けるのか。責任重大だな。

「それに。キミにしか作れない魔法薬となれば、キミ自身だって攻撃対象になる。注意しないと」

 あぁー、そうだ。今まで隠れるようにして暮らしてきたから忘れてたけど。

 オレがオメガのフェロモンコントロールできる薬作れることも秘密みたいなもんだった。

 申請したけど販売は却下されたんだよ。忘れてた。

 商品にするなら別だけど、いまアレを使ってるのはオレしかいないから。

 あの魔法薬も、項を守る魔法道具も、オレにしか作れないんだった。

 オレを殺してしまえば、オメガのヒートを管理することも、フェロモンを抑えることも出来なくなるんだ……。

 オレはブルっと震えた。

「あぁ……うん。気を付けるよ」

「そうしてくれ。……ジルベルト」

 ルノワールは食堂に控えていた、シェリング侯爵家の護衛騎士隊長を手招きした。

「ミカエルと一緒に、セキュリティまわりをみてやってくれ」

「承知しました」

「よろしく~」

 軽く挨拶するオレに、経験豊富な護衛は柔らかく礼をした。ジルベルトの眼差しも妙に優しい。

 なぜ? 

 居心地が良いのか悪いのか分からない状態を味わいつつ、オレはルノワールとの相互理解を深めていくのだった。

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