「オレたちは理解し合うことが必要だ」
「そうだね」
オレの宣言を皮切りに、相互理解のための話し合いは始まった。
王宮から帰ってきたオレたちは、食堂で昼食を摂りながら互いのことを話した。
他人に聞かれるのは恥ずかしいからと魔法道具で防音しながらの話し合いは、ちょっとツンケンしながら始まった。
「アンタむかつくけど、オレは大人だから、譲歩してやるっ」
オレの宣言に対してルノワールが無言なんだが。解せぬ。
昼食は、ハンバーグステーキにサラダ、コーンスープにパン。侯爵家のシェフは腕が良い。
ハンバーグステーキは、柔らかいヤツではなく、あらびき固めのヤツだ。噛み応えがあって、オレは好き。
ピッチピチの18歳男子だからね。ガツンと来るヤツのほうがいい。
生野菜のサラダは、あんまり好きじゃない。けど、侯爵家のは青臭くなくて割と食べられる。
コーンスープは甘めで好きなヤツだ。パンも甘めでふわふわしていて美味しい。
機嫌よくバクバク食べながら、ルノワールをちょっとだけ睨んでみる。
「一応、オレも貴族だからさ。基本情報くらいは手に入るでしょ?」
「んー。そうだねぇ……」
確かにオレは一切の社交はしていないし、あえて存在をアピールする必要のない伯爵家の三男でオメガだ。
が、あまりにもルノワールはオレのことを知らなすぎた。
ランバート伯爵家三男の情報だって、オメガに関する情報だって、手に入れようはあるだろうに。
急な話ではあったが、そこは結婚相手なんだし、侯爵家に入る人間なんだから。
ルノワールがキチンとすべき所だと思うんだよね。うん。
綺麗な所作で上品に食事を摂るルノワールに、その程度のことが出来ないとは思えない。だからこそムカつく。
「資料はセルジュに用意して貰ったんだけど……」
優秀なセルジュは急な事だったにも関わらず、オレに関する情報をキチンと集めていてくれたらしい。
国王さまからも情報は来ていたようだ。
オレが【魔法道具マグまぐ商会】に関わっていることくらい、セルジュが用意してくれた書類を読めば分かったことなんだよ。
それにさー、渡された書類くらいチェックしようよ。大人なんだからさ。
と、思ったんだが。
「この屋敷に、他人がやって来るのが久しぶりだったから……」
どうやら、このバカ(シェリング侯爵家当主)は、舞い上がってしまったようだ。
両親は既になく、婚約者すらいない孤独な男の元にオメガ(美形で可憐で庇護欲をそそる存在)がやって来る。
男であってもオメガは可愛くて魅力的という
そして暴挙に出た。全・裸・待・機である。本人曰く、調子に乗りました、ということだが。
いや、調子に乗るなら全裸で待機するより話をしようよ、と、オレは思ったけれど。
「いや、ちょっと自分を止められなくて……」
とーめーろぉー! 全力で止めろよ、バカッ。
だって、だって。この屋敷に着いた時にさー。
緊張して目元赤らめたカッコいいアルファがオレを待ってたら……とか。
ちょっとだけ。ちょっとだけだけど。期待したんだぞっ。オレだって。
結婚願望なんてなかったし、恋人欲しいと思ったこともないけど。
そもそも、男同士なのどうよ? ってのはあるけど。
放置&全裸待機は無いわ~。それだけは無いわ~。
「だから、ごめんって……」
「もう、ホントっ。あーゆーのは勘弁してくれよなっ⁉」
「うっ……うん、承知した」
素直は素直なんだよなー。バカだけど。
サラッサラの銀髪は綺麗だし。バカだけど。
俯いて、ちょっと上目遣いでこちらを見る青い目は、色っぽくて可愛い上にカッコいい。バカだけど。
あー! なんか、ムカつくー。