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第21話

「生まれる御子がオメガだから、というのは分かったけれど。それが我々の結婚と、どう関係するのですか?」

 忘れかけていた本日訪問の目的をルノワールが改めて問う。

 国王さまは太い眉をくしゃりと下げて溜息を吐いた。

「んっ。王家にオメガが生まれるとなると、きな臭い動きが出るのは容易に考えつくだろう?」

「まぁ、ね……さまざまな立場の者が、いろいろなことを考えるだろうね」

 ルノワールが大きな溜息をついた。

「そこでキミの出番だよ、ルノ」

「は?」

 真剣な表情の陛下を間抜け面したルノワールが見上げる。

「私たちとキミが親しい間柄というのは周知の事実だ」

「それが?」

「ルノが頻繁に王宮に来ても、不自然ではない。それは配偶者にしても同じだ」

「ええ。シェリング侯爵夫人が頻繁に王宮へ出入りしていても不自然ではないわ」

 国王さまの言葉を王妃さまが肯定する。

「普通の貴族並みの社交すら満足にしてこなかったオメガ男性が、いきなり王宮に出入りし始めたら回りが警戒するだろう?」

「でも親しい友人の配偶者としてなら、自然でしょ?」

 王妃さまの言葉に国王さまがうなずく。

「だからだ。キミたちを結婚させたのは」

「……そんな理由あるか?」

 ルノワールは不満げな表情を浮かべた。

 国王さまは大げさに手を広げて嘆いてみせる。

「そんな理由って、ルノ。政治が動くわけだよ? 悪くすれば、王家乗っ取りを考える不届き者が出ても不思議ではない事態だ」

「乗っ取りって……」

「そうよ、ルノさま。この子に対して暗殺よりも質の悪いことを仕掛けてくる輩が出ないとは限らないわ」

 あぁ、王妃さま。サラッと物騒なことを言わないでー!

「リアナさま。ミカエルを怯えさせないでください」

「あら? ごめんなさいね」

「王族にとっては暗殺なんて日常茶飯事でも、ミカエルのように世間との接点すらない貴族にとっては物騒すぎます」

「はははっ。ルノがまともなことを言っている」

 そう言って国王さまが愉快そうに笑う。

「ちょっ……アルバス。言い方っ」

 慌てるルノワールの姿は、ちょっとだけ見慣れてきた。

「はははっ。ルノは結婚どころか、婚約者もいなかったじゃないか。見事な体たらくっぷりだから、ちょうどいいと思って」

「私は忙しいしっ。結婚する必要も、なかったんだっ」

「はははっ。聞いてくれよ、ミカエル君。ルノは、いまでこそ可愛くないヤツだが、若い頃はそりゃモテモテだったんだ」

 国王さま、面白がってますね?

「今でも十分若いっ」

 ん、ルノワール。ツッコむ所はそこかな?

「22歳の未婚男子でも貴族なら若くはないぞ。しかも婚約者もいないなんて希少すぎる。そりゃ子供の頃から迫られたり、襲われたりときたら恋愛に興味が持てなくなっても仕方ないけどな」

「おいっ。余計な事を言うなっ」

 子供の頃から襲われたりしてたら嫌になっちゃうかもね。そこは同情する。

「女も男も嫌いなヤツなんで、オメガとはいえ男の子はどうかとは思ったんだが。仲良さそうで何より」

「そうね。思っていた以上にお似合いだわ」

 その意見には同意しかねる。オレとルノワールがお似合い? はっ。ちゃんちゃらおかしいや。

「ルノは早くに両親を亡くしている上、兄弟もいない。仲良くしてやってくれ、ミカエル君っ」

「はぁ……」

 んー。仲良く? どうしよっかなー?

「それにルノなら無職で暇だからな。頻繁に来て貰えるから都合が良い」

「無職って? 何なのその酷い言い草。領地運営とか、忙しいんですけど?」

 ルノワールが目を剥いて反論する。ん、多分、そーゆートコだぞ、ルノワール。

「ふふふ。国家運営のお仕事も、高位貴族の大切なお役目ですよ」

 あー、分かってきた。その笑顔は王妃さま版の悪い顔、なんですね?

「そう言われても、両親は亡くなっているし、兄弟もいないし。大変なんですよ?」

 へにょりと情けない顔をするルノワールは、ホントに情けない。

「でもミカエル君を王宮へ連れてくるくらいの余裕はあるだろう?」

「そうですよ。ルノさまは忙しさを理由に社交だって疎かにされているのですもの。そのくらいは、ね」

「うっ」

 あっ。ルノワールが追い詰められた。面白い。けけっ。

「ルノは不器用なタイプのアルファだから不満もあるかもしれないけど、いいヤツだからヨロシクね」

「はぁ……」

 いや国王さま。不器用で済ませられるレベルではありませんでしたよ、国王さま。……何があったかは、ちょっと言う勇気ないけど。

「ま、そういうことで。よろしくね、ミカエル君」

「はぁ……」

 要するに結婚は隠れ蓑で、本題は王家に生まれるオメガのサポートということでいいのかな?

「だったら、結婚までしなくても……」

 オレの本音が思わずダダ洩れる。

「ふふふ。ミカエルさま。ルノさまは優良物件ですのよ。おすすめですわ」

「ああ。婚約者のいない年頃のあう高位貴族なんて、ルノくらいなものだ」

「私の意思は?」

「聞いてない。と、いうか。ルノに聞いても無駄だろう?」

「ふふふ。ルノさまにお相手を見極める目など期待しておりませんわ」

「ぐぬぬ……」

 うんっ。ルノワール。弄ばれてるねっ。王家にっ。

 ニコニコする国王さまと王妃さまに見送られ、納得出来たような出来ないような気持ちを抱えたオレは、ルノワールと共に部屋を後にした。

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