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第20話

「ミカエルさま。お腹、触ってみますか?」

「いいんですか?」

 驚いて問えば、王妃さまが優しく笑う。

「ええ。どうぞ」

 オレは椅子から立ち上がり、王妃さまの傍らに跪いた。手を伸ばして、少し膨らんだお腹の上にそっと置く。

 強く巡るアルファの魔力の奥に、小さく巡る柔らかな魔力の存在。

「うわぁ……ホントにいる」

「ふふっ。ミカエルさまも、こんな感じだったのでしょうね」

「そうかもしれません」

 お母さま、お母さま。お母さまのお腹にいたオレは、どんな風でしたか?

 答えを聞く機会はないけれど。ちょっとした疑似体験。

「オレと母は魔力が多過ぎたから、こんなに優しい感じではなかったかもしれませんが……」

「優しい、ですか?」

「はい。優しいと思います。リアナさま」

「ふふ。うれしい」

 王妃さまは白く細い手をオレに向かって伸ばし、薄茶の髪を撫でた。

 ふわふわの髪の間を滑る細く長い指は、手元にある温もりを味わいながら未来を夢見ているようだ。

 髪の間を滑っていく指にオレは、過去と未来を感じていた。

 自分の頭を撫でたかったであろう母の姿と、これから生まれてくる王子の姿。

 穏やかで心地よく満ちる愛。

 ここに存在して良いと思える肯定感。

 知らず頬流れた涙を、王妃さまの指が拭っていくことで知る。

 オレが顔をあげれば、そこにあるのは慈愛に満ちた王妃さまの笑み。

「この子を助けてくれると嬉しいわ」

「……ええ。オレでよければ……」

 お母さま。お母さま。貴女が命かけて生み出した命が、役に立つ日が来ましたよ。

 オレはそれがとてもうれしい ――――――――。

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