「ミカエルさま。お腹、触ってみますか?」
「いいんですか?」
驚いて問えば、王妃さまが優しく笑う。
「ええ。どうぞ」
オレは椅子から立ち上がり、王妃さまの傍らに跪いた。手を伸ばして、少し膨らんだお腹の上にそっと置く。
強く巡るアルファの魔力の奥に、小さく巡る柔らかな魔力の存在。
「うわぁ……ホントにいる」
「ふふっ。ミカエルさまも、こんな感じだったのでしょうね」
「そうかもしれません」
お母さま、お母さま。お母さまのお腹にいたオレは、どんな風でしたか?
答えを聞く機会はないけれど。ちょっとした疑似体験。
「オレと母は魔力が多過ぎたから、こんなに優しい感じではなかったかもしれませんが……」
「優しい、ですか?」
「はい。優しいと思います。リアナさま」
「ふふ。うれしい」
王妃さまは白く細い手をオレに向かって伸ばし、薄茶の髪を撫でた。
ふわふわの髪の間を滑る細く長い指は、手元にある温もりを味わいながら未来を夢見ているようだ。
髪の間を滑っていく指にオレは、過去と未来を感じていた。
自分の頭を撫でたかったであろう母の姿と、これから生まれてくる王子の姿。
穏やかで心地よく満ちる愛。
ここに存在して良いと思える肯定感。
知らず頬流れた涙を、王妃さまの指が拭っていくことで知る。
オレが顔をあげれば、そこにあるのは慈愛に満ちた王妃さまの笑み。
「この子を助けてくれると嬉しいわ」
「……ええ。オレでよければ……」
お母さま。お母さま。貴女が命かけて生み出した命が、役に立つ日が来ましたよ。
オレはそれがとてもうれしい ――――――――。