「この結婚。どういう事なのか説明してくれ、アル」
「まぁまぁ、落ち着けルノ。まずは座ろうよ」
本題をサックリ切り出したルノワールに笑顔対応の国王さま。そこに王妃さまも加わる。
「そうですよ、ルノさま。うふふ。落ち着いてください」
「無理です。いきなり結婚しなさい、って言われたら驚きますよ」
なんだかルノワールが両陛下に構われている気がする。
他人事なんでオレは一向にかまわないけど。
オレたちは促されるまま椅子に座った。テーブルを挟んで、左手に国王さま、右手に王妃さまが座っている。
オレの右手にはルノワールが座った。緊張する。モゾモゾして落ち着かない。
ルノワールは青い目をキッと鋭くして国王さまを睨んだ。当人はへらりと笑って言う。
「あ? 訳ありだって分かっちゃった?」
「そりゃ分かります。でも理由が分からない。説明してください」
うん。国王さまとルノワールの仲良しコントを見ていてもいいけど、説明は欲しいな。
「そうよね。説明は必要よね。ふふふ。まずは、結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、リアナ。って、説明!」
そうか。ルノワールはツッコミ入れる係なんだな?
王妃さまの余裕ある対応に比べると、ちっさく見えるツッコミだけど。
「うふふ」
王妃さまは余裕の笑みを浮かべてらっしゃる。
文句なく美しい。
「うん、説明ね」
国王さまもニコニコしていらっしゃる。
さすがアルファ、余裕が優しくきらめく。
「そうです。説明してください、アル」
ルノワールは若干キレ気味。
余裕ねぇーな、お前。
でも気持ちは分かる。
「オレも説明して欲しいです。国王さま」
不本意ながら、余裕なしアルファのルノワールに乗っかっての質問タイムです。
オレの言葉に、陛下は両手を広げ天を仰いで言う。
「あーミカエル君、呼び方が硬~い。私のことは名前で呼んでくれたまえ、名前で」
「えっ……それはちょっと……」
ちょっと引く。
「アルバス。アルでもいいよ~」
「えっと……アルバスさま?」
でも相手は国王さまだから、ツッコミ入れずに従っておこう。
「あっ。これ、いい。ちょっと固いけど、可愛いぞミカエル君っ」
国王が青い瞳をキラキラさせてオレを見ている。
とても嬉しそうだ。
ナニがそんなに嬉しいんだろう?
「では。わたくしのことは、どうかリアナと呼んでくださいな」
国王の隣でソワソワしていた王妃さまも、黒い瞳を輝かせてねだる。
「えっと……リアナさま?」
「まぁ、可愛い。うふふ。」
国王さまと王妃さまが、なぜか盛り上がっている。
えっ?
なぜ?
オメガだから?
そんなにオメガって珍しいの?
珍獣あつかいなの?
「うふふ。可愛いわぁ、ミカエルさま」
「そうだね。
ん?
国王さまはニコニコしていて上機嫌だ。その隣で王妃さまも満ち足りた笑顔を見せている。
「この国では、オメガが外に出ることは少ないからね。配偶者に迎えるか、家族にオメガがいるか。アルファがオメガと接点を持てるのはそれくらいしかない。こうしてアルファがオメガに会うという機会は、滅多にないことなんだよ」
「ええ。わたくしもオメガの方にお会いするのは、初めてですわ」
「そうなんだ。……でも、アンタは割と普通だったよね?」
オレはルノワールを振り返った。ルノワールの肩がちょっとビクッってなったのは、なぜ?
アレを普通と言うかどうかはともかく、両陛下とは反応が違ったのは確かだ。
「ルノさまは、ひとりっ子でいらっしゃるし。ご両親も早くにお亡くなりになっていらっしゃるから、とても緊張されたと思いますわ」
「そうだね。ルノは兄弟すらいないからね。私たちとは反応が違ったのかもしれないね」
クスクス笑っている両陛下に対して、ルノワールはバツの悪そうな顔をしていた。
「……」
違いすぎる。違いすぎましたともっ。
そいつ、全裸で初対面かましたんですけどっ。
言いたいけど、言えない。
言えないけど、言いたい。
「それで、私たちを結婚させた理由はなんですか? 説明してください」
あっ。ルノワール・シェリング
すると国王さまはゴホンと咳をして、ちょっと改まった顔をする。横にいる王妃さまも少し澄ました表情になった。
「実は。キミたちに結婚して貰ったのには、リアナのことが関係している」
「リアナさまに何か?」
心配そうな表情になったルノワールに、王妃さまが微笑みかける。
「ふふふ。心配なさらなくても大丈夫でしてよ、ルノアールさま。わたくしの変化、分かりませんか?」
王妃さまは、ドレスの上からお腹のあたりをさすって見せた。
「えっ? まさか……ご懐妊?」
「ふふっ。正解」
王妃さまは、とても嬉しそうに、とても優しい笑みを浮かべた。
それはとても美しく、見ているこちら側の心まで浮き立つような笑みだった。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
ルノワールに続いてオレもお祝いの言葉を口にした。
わー。
王妃さまにお子さまが?
次期国王さまかも。
楽しみ。
思わず笑顔になるオレとルノワールに向かって、国王さまはなぜか真剣な顔を見せた。
「そこで、キミたちに結婚して貰ったわけだ」
「私たちの結婚と、ご懐妊に何の関係が?」
ルノワールが怪訝そうな顔をした。うん。オレも疑問だ。
「それがな。どうやらリアナのお腹の子は、オメガのようなのだ。しかもキミと同じ男の子」
「えっ?」
子供がオメガだと困るの?
オレは眉をしかめた。
「あぁ、勘違いなさらないで。わたくしたちは、お腹の子がオメガであることを嘆いているわけではないのよ」
「そうだ。案じてはいるが。ミカエル君。キミなら詳しいだろう。オメガの悲劇というものに」
国王さまは思いのほか真剣な表情でオレを見た。
「……ええ」
あー。そうだ。オメガだと……あー、色々と面倒なんだ。