「キミがミカエル・ランバート伯爵家子息殿か。うーん。可愛いねぇ。やっぱオメガは、男の子でも可愛いねぇ」
「……はぁ……」
オレは戸惑っていた。我が国の王がふにゃんと笑みを浮かべながら褒めてくるからだ。
いや、身長178センチもある18歳男子が可愛いわけなかろう、と、ツッコみたいけどツッコめない。
なにせ相手は国王さまなので。
そもそも褒め言葉なのか? 18歳男子に向かっての可愛いとか男の子というのは。どう反応していいか分からない。
相手は国王さまだし、オレは社交慣れしていないから、さっぱり分からん。
ルノワールの後について入った部屋は十分に豪華だった。それでも、王宮内においては"リラックスできる部屋"扱いらしい。
国王さまは金髪碧眼高身長で、アルファらしい威厳と美しさを兼ね備えていた。
赤に金の飾りのついた肋骨服に白のトラウザーがリラックスウエアなのかどうかはともかく、よく似合っている。
身長はルノワールよりも高い。兄たちもデカいから高身長の男には慣れているが、国王さまは厚みが違う。
筋肉がしっかりついている体は国王という身分を差し引いても軍人から舐められそうな隙などない。
国王さまとルノワール、ふたりが並ぶとアルファのなかでもランクがあるんだな、というのが分かる。
ルノワールは、ちょっと線が細くて女性的だ。対して国王さまには支配者としての風格がある。それでいて威圧的には見えない。
緩やかな曲線を描きながら流れる長い金髪。スッと通った力強くて高い鼻。青い瞳の目は大きくてまつ毛も長いが男性的だ。
国王さまとルノワールは同じ年齢くらいのアルファなのに、何かが違う。決定的に違う。……地位か?
いや、それだけではない気がする。
「ミカエルが戸惑っているから止めて下さい、国王さま」
「いや、いつも通りアルバスでいいよ、ルノ」
オレの横でキリッと抗議するルノワールに、くしゃっとした笑顔を向ける国王さま。これはアレだ。格の違いというヤツだ。
国王さまの余裕が半端ない。
「では、アル。ミカエルを構うの止めろ」
「いいじゃない。ミカエル君、可愛いんだもの。構いたい」
余裕のないルノワールに対して余裕のある大人の男対応の国王さま。どっちに構われたいかと言えば、断然、国王さまである。
とはいえ、国王さまに構われたら緊張で固まるので止めて欲しい。にしても気安いな、このふたり。
「えっと……おふたりの関係は……」
「幼馴染なんだ。ルノから聞いてない?」
「軽くは聞きましたけど。本当に仲が良いのですね」
普通、仲が良いと聞いていても兄弟並みとは思わないだろう。相手は国王さまなんだし。
「んっ。ルノは有力侯爵家のアルファだからね。子供の頃から側近候補として一緒に育ったの」
「側近候補かどうかは別にして、割と一緒に育ったね」
「そうなんだ」
んー、国王さまと一緒に育った男なのかルノワールは。侯爵って地位、高いんだな。
「うふふ。アルとルノは昔から仲良しさんなのよ。わたくしも、子供の頃からの仲なのよ」
「王妃さまも、ですか」
王妃さまは黒髪に黒い瞳が印象的な美女だ。胸の下で切り替えのあるワイン色のドレスがよく似合っていた。
背が高いうえヒールを履いているからか身長はルノワールと同じくらいに見える。
ルノワールよりも細いが、流石アルファという迫力を持った女性だ。
部屋に通されたオレは、迫力のアルファふたりに圧倒された。
が、ルノワールに倣ってどうにか挨拶を済ませることができた。
その点は良かったのだが、実際に仲良しな関係性を見せつけられることとなり、早く逃げたい気持ちでいっぱいだ。
我が国の前国王が早々に位を譲ってしまったため、現国王と王妃は若い。
近隣諸国との争いごともなく落ち着いた状態であることも考慮に入れ、若いふたりに経験を積ませるために前国王が譲位を前倒ししたらしい。
バタバタして新国王を立てるよりは、と、周囲も好意的だと兄たちから聞いている。
この方なら大丈夫だろうな、というのはオレも感じた。だから不思議である。
なぜオレとルノワールを王命で結婚させたりしたんだろう?