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第14話

 侯爵家がある場所は王都のなかでも立地が良い。

 出発した馬車の外に見える屋敷も立派なものだ。

 立ち並ぶ長い柵に囲われた広い屋敷が、豪奢な門扉によって家柄を主張する貴族屋敷街を抜けて王宮を目指す。

 貴族の屋敷が立ち並ぶ界隈は凄いな、とも思うし、たいしたことないな、とも思う。

 知識としては知ってたけど、実際見るとイメージは変わる。

 ひきこもりにとっては、あんなにスペースなくても生きていけるよ? 感が先にくる。

 見栄もあるんだろうけど、だからナニ? って感じがするのだ。

 高い柵と広い敷地があったから守られた身ではあるけれど。競うように立ち並ぶ屋敷を見ると、これはこれで違和感がある。

 この屋敷のいくつかの奥には、オメガがひっそりと暮らしているかもしれない。それはそれで違和感がある。

 閉じこもる気楽さと安心感と、閉じ込められる閉塞感は簡単に分けられるものじゃない。

 恵まれた環境に居たオメガであるオレが、とやかく言えることではないけれど。

 社交も免除。仕事も面倒なトコは兄たちにやって貰っていた身としては、世の中めんどくせー感が爆発してしまう。

 そこまで考えてオレは気付いた。

 あー、そうだ。【魔法道具マグまぐ商会】の事も、まだルノアールには言ってない。

 自分にとって当然のことは相手も知ってるって思いがちなんだよな、オレって。

 なんせ一番近い兄たちくらいとしか話さないから。

 兄たちは、それこそ生まれてからのこと全部知ってる勢いで理解してくれちゃってるからな、オレのこと。

 でもルノアールはそうじゃない。社交界デビューもしてないオレのことは知りようがなかっただろうし。

 いちいち説明しなきゃいけない。あっ。こーゆーのって、オレ初めてじゃないか?

 あー、めんどくせー。でも、やんなきゃいけないんだろーなー。

 貴族屋敷街を抜けると抜けると、商店が並ぶ可愛らしい街並みが現れた。

「あーカワイイー。あそこは何の店かなー?」

「最近できた話題のカフェじゃないかな? 興味があるのかい?」

「店に行ったことないから。どこのっていうより、店そのものに興味あるっ」

「ミカエル……」

 あー、また何かオレやっちゃったみたい。ルノワールの視線が、痛々しいものを見るヤツに変わった。

 でも、ま。初めて見る景色にオレの心はウキウキしてるんだ。そこに水を差すのは止めてくれ。

 湧きたつ高揚した気分のまま、色々と眺めたいんだよオレは。

 公園すら目新しく見えるオメガのオレ。

 そのオレに向けるルノワールの何とも言えない居心地の悪さを含んだ温かな視線。

 王都住まいだった18歳の男が、ワクワクした幼児みたいになって王都を眺める図は異常なんだろうな、と、薄っすら自覚する。

 自覚させられるが、誰だって初めての経験には興奮するだろう? という開き直りも必要だ。

 オレはルノワールの反応についてはまるっと無視して、新しい経験を味わうことに勤しんだ。

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