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第13話

「ミカエルには快適に暮らして貰えるように色々と整えていくから。心配しないで」

「いや、オレ……心配はしてないよ? 色々と話し合いは必要だと思ってるけどさ」

「そうだね。話し合わないとね」

 侯爵家の馬車は乗り心地が良い。比較対象はないが、なんとなくそう感じた。

 小説のなかに出てくる椅子がフカフカの馬車は良い馬車、と、いう基準を取り入れて判断してみた。

 向かい合って座るルノワールとの距離も極端には近くない。でも逃げ場のない狭い空間は、ちょっと緊張する。

 他のヤツと一緒に乗るよりは楽だろうけど、それでも緊張する。そして居心地が悪い。

 なんとなく心配げな、同情心マシマシ風味な空気を醸しだしてくる侯爵さまは、悪いヤツではないのだろう。

 ルノワールは服を着ていれば優しげで整った顔をしているただの美形だ。

 長い睫毛に縁取られた大きな目は、どこを見ているのかはっきりと分かる。

 その視線が向けられた先にいるのはオレだ。

 こちらに向けられた青い瞳は、優しい色をしている。悪いヤツではないのだろう。

 だけどね、可哀想なモノを見るような視線は違うと思うんだ……。

「オレたち、お互いのことを知らな過ぎるし」

「そうだね。私はオメガのことを知らなすぎるから……」

「いや、そうじゃなくて」

 一般的な知識も必要だろうけど。オレがどんなヤツなのかを、もっと知ったほうがよくない? 

 それとも、知りたくない?

 探るような視線でルノワールを見れば、ふにょんと甘い笑みを浮かべた。

「何か希望があるのかい? 出来る範囲で対応するから何でも言って」

「うん」

 オレも特殊だからさ。出来る範囲を推測するのも、希望を出すのも苦手。

 一番の希望はランバート伯爵家に帰して貰うこと。……だと、思う。

「それと、屋敷の使用人は殆どベータだから。長年勤めてくれてる者も多いし、安心していいよ」

「うん。そっちの方は、あんまり心配してない。オレも魔法が使えるし魔法道具もあるから」

「ほう」

「ただ、色々と持ってくる余裕がなかったから実家に取りに戻りたいんだよね」

「ほう」

「あと、オレ、魔法道具作るのが仕事なんだ。実家のオレの部屋は作業場だったし、全部持ってくるとなると今の部屋だと収まりそうにないしさ。どうしようかと思って。それで、まずは実家との間を魔法陣で繋いで移動が簡単にできるようしたいんだけど」

「ほう」

 崩れない笑顔対応なんだけど、ルノワールの感情は読めない。

 んー、これはオッケーでいいのかな?

「一応、転移魔法陣は部屋に設置して貰ったけど。まだ繋げてはないからね。事前にセキュリティをどうするか話し合ってからにしようと思って」

「そうか」

「オレの部屋のセキュリティ……あ、実家のほうね。転移魔法陣はオレの使ってた部屋に設置してあって、直接飛べるように準備してある。そこと今使ってる奥さま部屋に直通の転移魔法陣を設置したんだ。で、その二つを繋げたいわけ。でも、実家全体のセキュリティと、こっちの家のセキュリティの兼ね合いがあるでしょ?」

「そうだな」

「部屋にも魔法道具とか使って侵入への備えはしているけど。レベルが適切でないと、実家から侯爵家に侵入されたりとかの心配もあるから。その辺をキチンと詰めないと、転移魔法陣の本稼働するのはマズイと思って……」

「んっ。帰ってから、ゆっくり話し合おうか」

 あ、なんかメンドクサイと思われたっぽい。

 そーだよねー。セキュリティって大切だけど、なんか面倒だよねー。

 だから、勝手に転移魔法陣を稼働させなかったんだー。

 そこは正解だったみたい。

「わかった」

 帰ってからゆっくり話し合おう。他の事も含めて。

 忘れないようにしないとな、と、思いつつ、オレは馬車の窓から外を眺めた。

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