結婚って、こんなもんだっけ?
ご機嫌で風呂から上がってきたオレ(ミカエル・ランバート伯爵家三男(18歳))は、ドアを開けた途端に固まった。
「やあ。はじめまして」
バカでかいベッドの上。
天蓋から垂れ下がる白いカーテンが綺麗なドレープを作る向こうに、素っ裸の知らない男が片肘をつき寝そべってこちらを見上げていた。
「わたしの名はルノワール。今日からキミの夫になる男だ」
さらさらの銀髪が白いシーツの上に垂れ広がる。青い目がはまった顔は整っていて女性みたいに美しい。
男心を惹きつける女性的な美貌を裏切るバッキバキの筋肉は、乳白色の滑らかな肌に覆われていた。
「……っ」
対してオレは貧相な体にバスローブ一枚引っ掛けただけの姿だ。思わずチョーカーを掴む。
オメガの首筋を守るチョーカー越しに息をのんだ喉が動いたのが分かった。
「ぁ……オレはミカエル・ランバート……」
辛うじて名乗るオレの髪はびしょ濡れで、タオルを巻きつけただけの頭からは水が滴り落ちる。
どうってことない薄茶の髪と瞳。オメガにしては育ち過ぎの体。
目前のアルファに比べたら魅力の差は歴然としていた。
なのに。アルファの男、ルノワールは余裕のある笑みを浮かべて更に差を見せつけてくる。
いけ好かない男なのに、オレのどうってことない薄茶の瞳は嫌味なほど魅力的な
「今日からは、シェリングだろ?」
「……っ」
指摘されて唇を噛む。
確かにそうだ。
オレは今日からシェリングになった。
「さぁミカエル。初夜を始めようか」
「……はぁ?」
確かに今は夜だけど。問題はそこじゃない。
「白い結婚じゃなかったのかよ⁈」
オレは思わず叫んだ。
なのに、余裕の笑みを浮かべて
「結婚した当日の夜は、初夜だろ?」
「そりゃ、そうだけど……」
アンタ、オレが屋敷についてから今まで顔を見せなかったよな?
オレのこと、気に食わないんじゃないの?
それに、さ。
「初顔合わせが裸って……ないだろ?」
オレの背中を冷や汗がダラダラ流れていく。
無いわぁ~。
イロイロ……無いわぁ~。
とか、思いながら精神状態立て直そうとしているオレに余裕のアルファさまが言う。
「何を言ってるんだキミは」
裸の美丈夫がシュッと身を翻して起き上がり、ベッドからスッと降りて立ち上がる。
さすがアルファさま。裸で歩いていても様になる。アソコはブラブラ揺れてるけどな、などと思っていたら。
「……っ⁉」
抱き上げられた。お姫さま抱っこ状態である。
「⁉ っ! ⁉」
言葉も出ないまま動揺するオレはそのまま運ばれて、ベッドの上にポフンと落とされた。
「オメガにヤる以外の価値などない」
「そんなわけあるかぁっ!」
抱き込まれて引きずり込まれたベッドの中で、オレはルノワールの股間を容赦なく蹴り上げた。