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第2話 過保護ヒーラーは泣きながら俺を治癒してくれる

 ガイ達のパーティから脱退した俺たちは二人で簡単なクエストをこなす日々を過ごしている。

 今もクエストボスである大型蜘蛛モンスターと対峙していた。

 俺はシールドを構えながら突進し、そのまま壁に押しつぶす。

 蜘蛛モンスターはそのまま動かなくなり、クエスト採取アイテムをドロップした。


「ヒール!!」


 リラさんの癒しの魔法が俺のHPを回復する。


「あ、ありがとうリラさん。でもヒールは必要ないよ? 反動ダメージくらいしか受けてないから」


「は、反動ダメージを受けているじゃないですか! 念のためもう一度ヒール掛けますね!」


「いや! 本当にいいから! MPもったいないから!」


 ガイ達のパーティから脱退してからリラさんの様子は180度変わっていた。

 今みたいにほんのちょっとのダメージでもすぐにヒールをを掛けようとしてくるようになったのだ。


 ——『MP節約という名目でキミは仲間に激痛を我慢させていたんだぞ』


 ガイの一言が物凄く効いたようだ。

 今や『MP効率厨』だったリラさんの面影は一切ない。

 代わりに『超過保護ヒーラー』として生まれ変わってしまっていた。


「おっとっと、岩に躓いてしまった」


「……っ!! ヒール! ヒール!!!」


「転んだだけだよ!? 回復なんて掛けなくて大丈夫だから!」


「転んだダメージでバドさんが死んじゃったらどうするつもりなんですか!!」


「キミの中で俺はどんだけ虚弱体質なの!?」


「だってぇ……バドさんすぐ我慢しちゃうんだもん。今も怪我を隠しているに違いないんだ」


「隠してないって! HP全快だって!」


「信じられません。身体に傷がないか見ますのでちょっと服脱いでください」


「ここで!?」


 どうしてダンジョンのど真ん中で追いはぎみたいな目に合わなければいけないんだ。

 ほら、他のパーティが微笑ましそうにクスクス笑ってるよ。


「と、とにかく、クエストは完了したから街に帰るよ」


「じゃあ帰りながら脱いでください」


「脱がすことに全力過ぎない!? キミ!」


 タンクがモンスターの攻撃を受け、ヒーラーがその傷を癒す。

 今の俺たちは間違いなくその役割を果たせているのだが……


「……っ!? ヒール!!」


「うお! ビックリした! どうして今ヒールしたの!?」


「バドさんの深爪が痛そうでしたので」


「深爪程度でヒールしないで!? ていうか深爪ってヒールで治るの!? 治ってるし!?」


「バドさん。今度から私がバドさんの爪を切りますので。ヒーラーとして当然の役割です」


「爪管理までしているヒーラーなんて聞いたことないから!」


 さすがに深爪程度でヒールを掛けてくるほどの過保護っぷりは問題だろう。

 うーん。どうしたものか。


「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!!」


「ぬおおおお!? リラさん! もうとっくに治ったよ! ていうかリラさんのヒールは回復量凄まじいんだから1回で十分だよ!」


「やだぁ! バドさんが痛いのやだぁ! 全部……全部治すんだもん!」


「治ってる! 本当に治ってるから!」


 リラさんは異常なほどに俺へのダメージに気を使うようなった。

 そう——今もスープで口の中を軽く火傷した程度でヒール4回重ねを行ってくれたのだ。

 ——過保護すぎん?

 このままでは朝食中にリラさんのMPが付きてしまうかもしれない。


「リラさん。MPはしっかり節約しよう。過去のキミはそれが出来ていたんだから」


「怪我を放置してヒールを掛けない駄目ヒーラーから学ぶことなんて一つもありません」


 うーん。こじらせているなぁ。

 リラさんの気持ちは正直嬉しいのだけど、MP効率厨の頃の方が冒険者としては正しい形だったと思う。


「リラさん。せめて俺のHPが半分になるまでヒールは掛けないってことにしない?」


 その提案にリラさんは息を飲むような仕草でショックを受けていた。


「だ、だめ。それだとバドさん痛いままじゃないですか。怪我をさせたまま貴方を放置するなんて、今のは私には絶対できません!」


「わ、わかった。じゃあせめて『戦闘中』はHP半分ルールを適用しよう。そして戦闘後にはしっかりヒールを貰って全快の状態

で次へ進む——これならどう?」


「ぅぅぅ」


 明らかに納得の言っていない様子だけど、最終的には首を縦に振ってくれた。

 妥協点としてはこの辺りが妥当か。

 でもいつかはリラさんの過保護っぷりをどうにかしないといけないな。

 それは今後ゆっくり改善させていけばいいか。


「——あの……バドさん。当り前のように私と一緒にいてくれてますが……どうしてなのですか?」


 リラさんが追放されたその日、俺も便乗するようにパーティから自主脱退を申し出た。

 『心を痛めたままのリラさんを放っておけない』

 そんな俺の心情を察してくれたのか、ガイは反対したりしなかった。

 それにリラさんと共に居たいと思う理由は他にもある。


「ああ。単純な話だよ。俺にはリラさんが必要だからさ」


「ほえっ!? ひ、必要、ですか?」


 俺の言葉になぜか驚きを示すリラさん。


「ああ。俺さ。好きなんだ」


「す、すすすすすす、好き!?」


 そう——俺はリラさんの回復魔法が好きなのだ。

 『ヒール』というのは回復魔法の投擲だ。

 球のようなものを対象を投げ、当たった箇所を中心に患部が治療されていく。

 リラさんはその投擲がとても上手い。

 一番回復が欲しい箇所へ明確にヒールを掛けられるヒーラーを俺はリラさん以外に知らない。


「俺にはリラさんしかいない。他の人なんて考えられない」


「~~~~っ!?!?」


 以前1度だけ他のヒーラーと即席パーティを組んだことがある。

 でも、その、言っては悪いけどお粗末に感じた。

 いや、リラさんのヒーラー技術が高すぎるのが原因だろう。

 高位のヒーラーと一度でもパーティを組んでしまうともはや他のヒーラーでは物足りなく思えてしまうのだ。


「俺が冒険者でいるうちはリラさん以外を相棒にする気は一切ないよ。まぁ、リラさんの方が俺のことを嫌がっているというのならさすがに諦めるけど」


「そんなこと! 全然! 嫌だなんて思うわけないです!」


 やたら前のめりに詰め寄ってくるリラさんに俺の方が困惑してしまう。

 でもよかった。嫌われているわけではないらしい。


「本当に? 俺、タンクとしては並だし、いつも迷惑ばかりかけてしまうけど」


「わ、私もバドさんを、その、す、好きなので。だから、んと、大丈夫なんです!」


 それは嬉しい。

 タンクとして俺もリラさんに認められていたのか。

 これは冒険者として自信になるぞ。


「——私、もうバドさん以外の人とパーティ組みません」


「へっ!?」


「決めました。私の一生を貴方に捧げます」


「一生って。あはは。そりゃあこの先ずっと安泰だなぁ」


 リラさんとずっとパーティ組めることは正直嬉しいが、他の人とパーティを組む気がないという発言はちょっと考えないといけない。

 んー、タンクとヒーラーの2人パーティか。

 ……アタッカーどうしよう。

 まっ、今はリラさんとの絆が確認できたことを素直に喜ぼう。


「んじゃ、改めてよろしくねリラさん」


「はい。生涯貴方だけを癒し続けますね」


 真剣な言葉を向けられて思わず笑みが零れた。

 しかし、今の俺はまるで気が付いていなかった。

 リラさんの言葉は俺の思っていた以上に重い意味があったということに。

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