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第45話 サマードリーム・3

 目覚めたら、やっぱり一人だった。

 みーちゃんだって寝不足なはずなのに、お客さんの朝ごはんの準備のためにしっかり起きるとは、その辺りはプロだなぁと思う。

 寝不足の原因は私だから、後で謝っておこう。

 あ、でも。午前中の飛行機で帰るから、もしかしたらゆっくり話す時間ないかもなぁ。そんな事を考えながらノロノロと身支度をした。


「おはようございます」

 朝食を運んでくれたのは恵さんだった。

「ごめんね、今日はバタバタしてて一人で食べてもらわなきゃ」

「いえいえ、元々一人旅なので大丈夫です。それより何かあったんですか? もしかしてみーちゃんが寝坊とか?」

 恵さんはキョトンとして、「ううん、違うわよ、週末に入るから土曜日は大体こんな感じよ」と言い。

「そうやって、いつも心配してるんだぁ、可愛い」と微笑むから、顔から火が出そうになった。


 ゆっくり食事をした後は、まだ時間に余裕はあったけど、楽しかった旅を振り返りながら出発の準備をした。

 そういえば、ずっと天気が良かったなぁ。私、晴れ女かも。

 そういえば、お土産買ってないや。空港で買えばいいか。


「雫、準備出来てる?」

「えっ、みーちゃん? 出来てるけど」

 突然やってきたみーちゃんは、女将姿ではなく普段着だ。

「とりあえずこれ、お土産。持って行って」

「え、いいの?」

 何種類かの名物が入っていた。

 ありがとうと、素直に受け取った。

「それでね、ちょっと早いけどもう出てもいいかな?」

「えっ?」

 予定では、恵さんが飛行機の時間に合わせて送ってくれるはずだったけれど。

「私が、送っていきたいから。先に寄るところがあって早めに出たいんだ。駄目かなぁ」

 駄目なわけーーあるわけない。

「嬉しい……」

 目頭が熱くなったのを誤魔化すために、お土産をバッグにしまった。

「じゃ、行こうか」




 車へ近づくと、後部座席に尚美さんが座っていた。挨拶をして隣に座ると相変わらずニコニコとしている。

 みーちゃんの運転で出発した。


「今日からショートステイなのよ」

 みーちゃんが説明してくれた。

 尚美さんは月曜日まで施設に入るとのこと。

「あ、お泊まり?」

「そう」

 当の尚美さんは、窓の外の景色を眺めているようだった。

 島内にある施設だから、それほど長い時間ではなかったと思う。あれ? と思った。到着した時、尚美さんの笑顔が消えていたから。そういえば会ってからずっと笑顔しか見ていなかったな。


「こんにちはぁ」

 施設のスタッフが迎えてくれて、尚美さんは入って行った。一度だけ振り返った。なんだか寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。


 助手席に移動して空港へ向かった。

 時間には余裕があった。

 小さな空港なので、割と静かだ。

「みーちゃん、さっきね。尚美さん、寂しそうに見えたの」

「そう? 嫌がる日もあれば、喜んで行く日もあって、よくわからない。自分の母親なのにね」

 そう言うみーちゃんも、寂しそうで。

 なんと言えば良いのかわからなくて、そっと手を握った。

 みーちゃんも握り返してくれて、しばらくは無言で手を繋いでいた。


「そういえば、ごめんね」

「何が?」

「みーちゃん、眠いよね。私は飛行機で眠れるけど、みーちゃんはお仕事なのに昨夜はその……」

 みーちゃんはクスクス笑い出した。

「めちゃくちゃスッキリ目覚めたよ。あんなことされて元気にならないわけないでしょ、雫の愛が私のパワーの源なんだよ」

 うわっ、またサラッとそういう事を言うんだから。顔が熱くてしょうがないじゃないかぁ。

 一人であたふたしていたら。


「雫、いろいろありがとう」

 とびきり優しい声音だ。

 あぁ、そろそろお別れの時間か。

「こちらこそ、ありがとう。楽しかった」

「またーー」

 言いかけていた言葉が不自然に止まった。

 え? みーちゃんが泣いていた。

「みーちゃん?」

「ごめん」

「大丈夫だよ」


 私たちは大丈夫。

 いろんな事を乗り越えてきたから。

 これからだって、何があっても乗り越えていける。

「大丈夫だから、ねっ」

 ゆっくりと背中をさすった。


「そろそろ時間だね」

 みーちゃんも落ち着いたようで、最後は笑顔で見送ってくれた。


 みーちゃん、私だってそうだよ。

 みーちゃんの大きな愛が、私の生きる糧になってるんだから。


 窓の外には、二日前と同じように、大きな山が鎮座していた。


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