タクシーを降りたら、冷たい空気が一気に体を冷やした。
すっかり夜も深くなっていたので、泊まっていけば? と、みーちゃんは言ってくれたけど、帰らなければならない。
さーちゃんに、ちゃんと話さなきゃ。
怖いな。なんて言われるのか、どんな反応をされるか。違う……また、傷つけてしまうんだ。あんなに優しいさーちゃんを。どれだけ怒られても、なんなら殴られても、私は受け入れなければならないんだ。
「一緒に行こうか? 私が話そうか?」
よっぽど不安な顔をしていたのか、みーちゃんがそんな提案をした。
「ううん、自分で話さなきゃ」
ドアを開けると、テーブルに突っ伏して寝ているさーちゃんが見えた。
「さーちゃん?」
近づいていくと、顔を上げたさーちゃんと視線がぶつかった。
「あ……」
少し驚いたように一瞬目を見張り、そのあと無言になった。
「さーちゃん、あのね--」
「わっ、もうこんな時間。私、寝るね」
「ちょっと待って、話が--」
「聞かない、聞きたくない」
さーちゃんにしては大きな声で言うから、驚いて二の句が継げなくなる。
さーちゃんは部屋へ向かう。
「え、なんで……」
追いかけて行くが、ノブに手をかけて止まる。
「顔見ればわかるよ、勝手にすれば?」
背を向けたまま発した言葉は涙声で。
「ちょ、待ーー」
バタンとドアが閉まる。
部屋の中は暖房が効いていて暖かいけれど、私の手は冷たく震えていた。それが徐々に体全体を包み、肩も震えた。流れようとする涙を--違う、私が泣いちゃいけない--必死に止める。傷ついたのは私じゃない。
『ごめん』
言えなかった言葉、伝えられなかった気持ち。
キッチンへ戻れば、作りかけのケーキ。
そういえば『おめでとう』も言ってなかったな。
翌朝、さーちゃんは起きてきたけれど、目も合わせず浴室へ消えた。
私は、いつものように朝食の準備をしていた。
「もう出るから、朝ごはん要らない。帰りも遅くなるから……出て行くなら、私がいない間に荷物も全部持っていって」
冷たく言い放ったさーちゃんの目は赤く、少し腫れていた。