「雫、ごめん」
謝ることしか出来ない私に「みーちゃんのことが知りたい」と雫は言った。
いいの? 言い訳なんて許されないと思っていたから、少しでも私に興味を持ってくれることが嬉しくて。
これが最後かもしれないなら、全てありのままの私を話したい、雫の心の片隅にでも私の記憶を残したい。
「ありがとう、雫」
私が生まれたのは、とっても田舎でね。日本の最北端から、さらにフェリーで二時間かかる小さな島なの。冬は雪に閉ざされるから、観光客がやってくる短い夏を待ち焦がれてた。うちは小さな旅館でね、まぁ家族経営のようなものだけど。私も小さな頃から料理を仕込まれたの。
え、それは聞いたことある? そっか、前に話したっけ。少しだけ?
上京してからは、友人や恋人にも実家や家族の話は一切してこなかったけれど、雫には--少しだけでも--話したんだね。そう、私にとって雫は最初から特別な存在だったんだね。
あ、続けるね。
母は厳しい人でね、よく叱られたの。五歳差の兄がいたんだけど、兄には優しくしていたように見えてね。私はそんな母が嫌いだった。あぁ、それも話したことあったよね。
そう、だから私は中学を卒業すると同時に、親戚を頼って札幌に出たの。
母は大反対だったけれど、父がなんとか説得してくれて高校だけは出してくれた。いろいろなバイトをしてね、出来るだけ早く自立したかった。もう実家には戻るつもりなかったから。
親戚がバーを経営してたから、バーテンダーの真似事をしてみたり、お酒の仕入れも少しずつ任されたり、英語も独学で勉強したの。それが上京してからの仕事にも役立ったのね。
あぁ、ごめんなさい。
こんな身の上話、聞きたくないわよね。
え、そんなことない?
それは……嬉しいな。
だから、実家とはほぼ縁を切っていた状況だったの、ただ4年前に父が亡くなった時には連絡が来たわ。結局、戻ることはなかったけれど。
その時にはもう兄が旅館を継いで一緒に経営していたらしい。兄がもう結婚した事も、その時に知ったの。
半年前、その兄が倒れたって連絡が入ったの。