「さーちゃん、何のケーキがいい?」
「え、なに?」
お互い、仕事初めで疲れたねぇって言い合った後、唐突な私の質問に対し困惑してるさーちゃん。
「さーちゃんのバースデイケーキだよ」
「へ?」
さーちゃんの誕生日は1月7日。
年明け早々なので、お正月と一緒にお祝いされちゃうって、昔から嘆いていたっけ。
「今年は、私が好きなケーキを作ってあげるよ」
「え、いいの?」
「なんでもいいよ」
「じゃ、チョコレートケーキがいいな」
「任せて」
私は、頭の中でレシピを検索し、足りない材料を書き出した。
誕生日の当日が日曜日だったので、ケーキは当日作ることにした。
前日の土曜日に、デートっぽくショッピングをして、プレゼントを買った。
「これでいいの?」
「これがいいの」
さーちゃんが欲しがったのは、犬のぬいぐるみ。子供か!
「いいなら、いいけど」
「可愛いでしょ」
「うん、可愛いけど」
「ぬいぐるみなら、嫌いじゃないでしょ?」
「まぁ、吠えないしね」
犬嫌いな私でも、普通に可愛いと思う。
「子供みたい、とか思ってる?」
「そんなことーーある」
そんな私の返事にも、ふふっと笑顔を見せるから、よっぽど気に入ったようだ。
午前中にスポンジケーキを焼いた。
さーちゃんも、手は出さないけど興味深そうに眺めていた。
「これから、どうするの?」
「冷ましてからデコる」
「へぇ」
「このレシピで作ろうと思って」
スマホを見せて、出来上がりはこんな感じだよと、画像を見せた。
「おぉ、美味しそ」
二人で眺めてたその時だった。
「えっ……」
震えたスマホと、表示された名前に驚いて体が動かなくなった。
震え続けているスマホをただ眺めて、思考は停止したまま。
「しーちゃん!? 出ないの?」
「えっ」
『みーちゃん』という表示を、さーちゃんも見たはずだ。
さーちゃんの何とも言えない表情が、これが夢や幻ではないと言っている。
そして、迷っているうちにスマホのバイブは止まった。
辺りに静寂が広がった。
自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「なんで……」
さーちゃんの呟きは、私の呟きでもあった。
お互いに目を合わせたその時、再び着信が入った。
ビクリと体が反応し目が泳いだ。どうしよ……
再び、二人の目が合った。
「しーちゃん、私が出ようか?」
「あ……ううん、私が」
待ちに待った連絡のはずなのに、こんなに不安なのは何故だろう。
通話ボタンを押すのに、こんなに躊躇うなんて。
「もしもしーーはい、ーーえ、そんな急にーー無理だよーーえっ、ちょっとーー」
気付いた時には通話はとっくに切れていた。時間にすれば数分かもしれないが呆然としていたみたい。
「しーちゃん?」
さーちゃんの声で我にかえる。
「え?」
「何だって?」
「会いたいって……いやっ、行かないよ! さーちゃんとケーキ作んなきゃだし……行けないよ」
さーちゃんは何も言わずに私を見つめてた。
「お昼ごはん、作るね」
体を動かして考えないようにしようと立ち上がり、キッチンへ歩く。
どこかフワフワした感覚が常にあった。
パスタを茹でながらも、今さら? って呆れたり。ずっと待ってるなんて言われても困るし。
いや、もう考えるのやめやめ。
「ごめん、さーちゃん。パスタ茹ですぎたね」
「そんなことないよ、美味しいよ」
そんなわけない。自分でも不味いと思うもん。
それでも、さーちゃんは完食してくれて、そして言った。
「しーちゃん、行っておいでよ」
「え?」
「会っておいで」
「なんで、だって今日は--」
さーちゃんの誕生日なのに。
「私のことはいいから。しーちゃんの……好きにして--思う通りにしていいから」
「さーちゃん」
さーちゃんは部屋へ戻ってしまい、一人で考えることになった。どうするべきかを。
そう、いつも誰かに頼って甘えて行動していた。私が自分で考えて行動しなければならないんだよね、自分の責任で。
「さーちゃん、行ってくるね。すぐ戻ってくるから」
ドア越しに声をかけた。
返事はなかった。
私は、みーちゃんに会いに行くことにした。