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第12話 さーちゃんの想い

「なんだ、さーちゃんか」

 虚ろな目で、彼女は何度もそう言う。

「なんだって、なんだよ」

 最初はそう思った。でも今は、それでもいい。誰かの代わりでも、誰かと比べられても、彼女が辛い時にはそばにいたいと思う。

 子供の頃から変わらずの、みんなに愛される笑顔を取り戻して欲しい。



 しーちゃんが酔い潰れてるから迎えに来て欲しいと、マスターから連絡が来た。どうして私に? と思ったけれど、その理由は迎えに行ってみて分かった。

 あの人--しーちゃんの恋人--がいなくなったらしい。マスターの話によると、失恋とか喧嘩とかではなく、何も言わずに消えたようだ。

「最悪だ」

 ちらりとすれ違ったことのあるだけの、あの人の姿を思い出し顔を歪めた。

「俺が連れて帰る訳にいかないからさぁ、悪いけど頼める?」

「いいですよ」

 私に連絡くれて良かったと感謝した。


 それからずっと、私の部屋で一緒に過ごしている。とても一人にしておけない状態だったから。

 促さなければ食事はおろか飲み物さえも口にしようとしない。

 声をかけなければ話をしようとさえしない。笑顔なんてもってのほかだ。

 常にぼーっとしていて表情がない。

 そのくせ、あの人の話題になれば泣き崩れる。

 ふらっと出て行っては、マスターから連絡が来るほど酔い潰れる。

 一週間、仕事を休ませ様子を見ていたが、変わらないため無理矢理病院へ連れて行った。

「なんで? 病院なんて行かなくても大丈夫なのに」不満を漏らしたので。

「もう有給残ってないでしょ?」と現実を突きつけた。

 心療内科で診断書を貰い、休職手続きをさせた。

 職場にも私にも、迷惑をかけているという思いがあるようで、何度も「ごめんね」と言う。

 その度に私は、謝らなくていいから、と言い続ける。

「なんでさーちゃんは、私なんかに良くしてくれるの?」

「何言ってるの? そんなの......決まってるでしょ」

「親友だから?」


「しーちゃんは覚えてないかもしれないけど、お母さんが出て行って私が大泣きした時、しーちゃんがずっとそばにいてくれたんだよ。あの時--大好きな人が何も言わずにいなくなった時に」

 あの時から、しーちゃんは私の大事な人になった。

「覚えてるよ、小4だったよね」

「今度は私が、しーちゃんがもういいって言うまで一緒にいるから」


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