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第9話 早春

「えっ、臨時休業?」

 いつも待ち合わせに使っているバーに来たら張り紙がしてあったーー理由は設備の不具合? どうやら電気が使えないらしい。

 あらら、金曜日の夜なのに……マスターも落ち込んでるだろうな。


 みーちゃんに連絡をしたら、今日は早く帰れそうだから直接部屋へ来て欲しいって返事が来たので、少しだけカフェで時間を潰してから訪問した。

 インターフォンを押したが反応がない、まだ帰ってないのか。

 どうしようかな、スマホを取り出したら、あれバッテリーがないや。まぁいいか、すぐに帰ってくるだろうし、ここで待っていよう。幸いみーちゃんの部屋は廊下の突き当たり。部屋の前で待っていても他の住人に迷惑はかけないだろう。


「--くぅ、しずく? ちょっと大丈夫?」

「--ん? あれ?」

 目の前に、みーちゃんの顔があった。

 いつもの笑顔じゃなくて、髪が乱れて眉間にシワが寄ってる。顔も赤いし薄っすら汗もみえる。少し息も荒いような--


「はぁぁ、良かった。雫、立てる?」

 あ、私、座り込んで......寝ちゃってたのか。恥ずかしい。

「うん、ごめんなさい」

 みーちゃんは鍵を開け、部屋へ入りながらも。

「謝るのは私の方だよ、帰る間際になってトラブル発生しちゃてね、雫に連絡しようとしたけど繋がらなくて。ほんとごめん」と、ひたすら謝っていた。


 充電してなかったのも私だし、勝手に待っていたのも私なのに。

「みーちゃん、走ってきたの?」

 乱れた髪を撫でながら聞けば、ーー心配だったからーーなんて、恥ずかしそうに言うから、おもいきり抱きついた。

「ちょ、雫、体冷えてる! まずはお風呂入ろ」

「一緒に?」

「え・・・うん、わかったから、離れて。お湯、入れてくるから」

 さっきよりも赤くなった耳を確認して嬉しくなった。


 二人でゆっくり湯船に浸かって温まった後。

 ご飯を作っている間、みーちゃんはパソコンとにらめっこしてた。

 トラブルが、まだ完全には収束してないみたいだった。

「大丈夫なの?」

「あ、ごめん。ちょっと経過だけ見てた。私に出来ることはもうないから、週末は呼び出しもないから安心して」

 そう言った笑顔も素敵だけど、仕事中の真剣な顔も素敵なんだろうなと想像する。

「どうした?」

 不思議そうに首を傾げるみーちゃんに。

「みーちゃんの裏の顔が見たくて」と言うと、ちょうど食べていたご飯を詰まらせていた。

「な、なにそれ」

「あ、言葉間違えた! いろんな顔が見たいなってことね」

「あぁ、びっくりした」

 お茶を飲んで、ようやく落ち着いたようだ。


 その夜。

「雫、大丈夫?」

 また、みーちゃんの心配そうな声で目覚めた。

「なんか熱いよ、熱あるんじゃない?」

「え、そう? みーちゃんが一緒にいるから嬉しくて?」

「バカなこと言ってないで、測ってみて」

 体温計を渡された。

「ほら、38度5分だって。え、どうしよっ、氷枕? あ、薬! 風邪薬でいいのかな?」

「みーちゃん落ち着いて。寝てれば大丈夫だから」

「だめだよ、私のせいだもん、どうしよっ、あ、ちょっと待ってて」

 ワタワタしながら、キッチンの方へ行ってしまった。


 しばらくして戻ってきたみーちゃんは、スポーツドリンクと氷枕を持っていた。少し落ち着いたみたいだ。

「とりあえず、水分補給だって。飲める?」

「みーちゃん、誰かに電話してたの?」

「うん、親戚の子が医者なのを思い出して聞いてみたの」

「そっか、ごめんね迷惑かけて」

「何言ってんの、まずはお水飲んで! 飲ませてあげようか?」

「うっ……いい、自分で飲める」

 魅力的なお誘いに一瞬ぐらっときたけど、みーちゃんに移しちゃうのも嫌だから。


「汗かいたら着替えさせてあげるからね」

「えっ? あっ……はい、お願いします」

 なんだか、みーちゃんは純粋に心配してくれているみたいで、変な想像した自分が恥ずかしくなった。

 その後も、おでこを触られたり頭を撫でられ、みーちゃんに看病されながら私は眠りに落ちた。


 目覚めは、いつもより遅くお昼近かった。少し喉に痛みがあるが、気分は悪くない。

 キッチンの方から音が聞こえているなぁと思っていたら、みーちゃんが顔を覗かせた。

「あ、起きた? どう?」

「うん、大丈夫だよ」

 みーちゃんの両手は、私の頬から首を触る。

「ちょっと下がったかな」と頷いているけど、普通、おでこじゃないの?

「念のため、測ってね」と渡される体温計。

「37度2分ね、雑炊作ったけど食べれる?」

「うん、みーちゃんが作ったの?」

「そう、味が心配?」

「ううん、楽しみ」

 私のために作ってくれたんだもん、不味くても食べ切る自信あるし。


「うわっ、なにこれ、美味しい」

「ほんと? 良かった。久しぶりに作ったから自信なかったけど」

「出汁は何? なんか高級っぽい」

「え、昆布だけど」

「昆布……」

「うん、ウチはいつも昆布だったな」

「そっか、みーちゃん家の味かぁ。今度教えて」

「あぁうん、そうだね。でも良かったぁ、熱が下がって」

「風邪なんて、寝てれば治るって」

「若いなぁ、いいなぁ」

「えぇ、なにそれ」

「歳取ると、一晩では治らなくなってくるんだからね」

「まじで?」

「まじです」

 本気なのか冗談なのか、みーちゃんは複雑な顔をして笑っていた。


「じゃ、みーちゃんが風邪ひいたら、私がずっと看病するからね、有給使うから何日でもいいよ」

「そんな、もったいないわ」

「もったいなくないよ、大事な有給は大事な事に使うんだから」

「雫のそういうとこ--」

「ん?」

「そういうことをサラッと言っちゃうんだから」

「だから?」

「--好き」

 二人して、照れながら笑った。

「客観的に見たら、私たちバカップルだね」と言って。


 大丈夫だって言ってるのに、大事をとってとか、念のためとか言って、みーちゃんはお出掛け禁止令を出した。

 夕飯も、作ってくれると言う。

 本当は料理出来るのに、作ってなかったのは何故なんだろうと思っていたら。

「だって面倒じゃない? 自分のために作って、一人で食べて、さらに片付けるなんて」と一蹴された。

「雫のためになら作ってもいいかな。たまにならね」なんて得意げに言う。

 みーちゃんの手料理は希少価値があるらしい。


「やっぱり、美味しい」

 雑炊もそうだったけど、みーちゃんの料理はなんだか上品な味がする。

 これ……

「プロっぽい」

 とても、たまに作るレベルで出せる味じゃないと思うのだ。

「実は、実家が商売でやってて、小さい頃に仕込まれたから」

「えっ」

「でも、めちゃくちゃ厳しくてね。雫みたいに楽しく料理した覚えがなくて……家を出てからは、ほとんどしてない。あんまり好きじゃないんだよね。ごめん、なんか変な話しちゃって」

「みーちゃん」

「え、なんで雫が泣いてるの? どこか痛い?」

 みーちゃんが、あまりにも辛そうな顔をしていたから。


「好きじゃないのに、私のために?」

「違うよ、好きじゃないのは実家、というか母親なの。今朝、久しぶりに雑炊を作って、雫が美味しいって食べてくれるの見たら嬉しくて、またその顔が見たくなって、作りたかったから作ったんだよ。だからいっぱい食べて」

「うん」

 あまり話してくれないから、過去にいろいろあったんだろうなとは思っていた。無理に知る必要もないとも。そんなの誰にだってある。抱えきれなくなった時や話したくなった時に、そっと教えてくれればいい。私はずっと側にいるから。


「明日はデートしようね」

 そのために、早々にベッドへ潜り込んだけど、今日一日ゴロゴロしていたせいか、なかなか眠気がやってこない。

 隣に寝転ぶみーちゃんに擦り寄って戯れてみる。

「雫? 本当にもう大丈夫なの?」

「もう、何回聞くの? みーちゃんのご飯も食べたし元気モリモリだよ」


「そう、じゃ」

 クルっと回転したと思ったら、組み敷かれてた。

「へ?」

「遠慮なく頂くよ」

 あ、この顔だ。笑ってるけど、いつもの笑顔とはちょっとだけ違う。みーちゃんの裏の顔--じゃなくて、でも見てるとゾクゾクする。

「うん」頷くしかない。

 キスされる瞬間、「あ、待って、キスはだめ」と制した。

「なんで?」

「風邪、移したくな--」

 問答無用で奪われた。

 だめって言ってるのに、もう。

 という文句は言葉にならず、甘くて蕩けるような口づけに思考もストップする。

 息継ぎのために一旦離れる度に。

「今更だし」

「雫に移されるなら」

「風邪も愛おしい」

 などと言う。激しいキスで、みーちゃんの思考も少し変だ。

 だめと言ったのに、離れると寂しくて、自分から唇を合わせにいってしまう。

 いつの間にかお互い半裸状態になっていて、胸を柔らかく揉まれながら、いたるところに舌を這わされていた。少し物足りなさを感じてモジモジしてたら伝わったのか、両方の乳首に刺激がきて「ひゃ」凄い声が出てしまった。吸われてる方も、摘まれてる方も気持ち良くてどうにかなりそうだ。身体の中心がジンジンしてトロリと何かが溢れる感覚。キュッとみーちゃんの後頭部に力を込めれば軽くイったのがバレた。

 胸から顔を離して軽くキスして「その顔好き」なんて言うから、横に背けた。イキ顔なんて恥ずかしすぎる。

 容赦なく、みーちゃんの指は秘所にあてがわれクチュクチュと音をたてる。蕾を刺激した後スルリと侵入してくる。「ふぁぁ…あぁ」思わずあがる嬌声にも、ニヤつくみーちゃん。

 顔を見られたくなくて抱きついたら、さらに奥まで指が届き、また感じてしまう。

 みーちゃんは指を動かさず。

「雫、自分でいいように動いてごらん」と言う。

「……っ」

「雫の大好きなキスしてあげるから」

 やっぱりバレバレだよね、ディープキスをされると感じまくること。

 舌を絡め合いながら腰を動かすと、あっけなく果てた。

「みーちゃん、ごめん」

「ん?」

「ちょっと休憩……させて」

「ん、いいよ」

「だから指、抜いて」

「ちぇ」

 なんで舌打ちなんだよぉ。

 指を抜いて舐めてるし。

「みーちゃん、やめてよぉ」

「なんでぇ、いいじゃない好きなんだもの」

 うぅ、そんな可愛く言われても。


 いや、そんなことより。

「ねぇ、みーちゃんも気持ち良くなろ」

 みーちゃんは察してくれて、私が寝たままでも愛撫出来るような体勢になってくれた。

 普段は私よりも小さいはずなのに、見上げる胸は豊満に見えて、思わずそのまま咥えた。固くなってるところをコリっと弾くと、艶っぽい声をあげる。両手で触る、やぁらかい、きもちいい。顔を埋めたくて背中に手を回す。

 片手は下へを滑らせると、少し腰を上げてくれたので隙間から差し込む。

「みーちゃん、凄いことになってる」

「ん……知ってる……雫お願い」

 そんな可愛いお願い、聞くに決まってるし、そんな風に言われたら我慢できなくて、一気に指を沈めていく。

「あぁ、みーちゃんの中、熱いよ」

 動かす度にキュッと締め付けられる。

 声も大きくなっていく。

「雫、待って、一緒に、いきたいの」

 私が指を抜くと、待っていたかのように片足を持ち上げられた。

 恥ずかしさよりも期待の方が勝ってドキドキしていたら、ヌチャと二人の性器が重なった。ゆっくり動くと擦れ合うが潤いは十二分だ。

「あっ……みーちゃん、やばい、気持ちいぃ」

「雫、一緒だよ、ずっと、好き、あっ--」

 最後は、みーちゃんに抱きしめられキスをされながら、二人で絶頂を迎えた。


 翌朝は二人とも寝坊をし--休日だからいいんだけどね。

 目覚めた時は、私の胸にみーちゃんの顔が埋もれている形で。この状況は、よくある。というか、起きると大体コレね。

「だって安心するんだもん」て、赤ん坊か、って突っ込みたくもなるが、実は嬉しくてしょうがない。

「こんな時間だから、今日のデートはお散歩にしよう」

「いいね」

 天気も良いし、暖かくなってきたからちょうど良いと思う。

「雫を連れて行きたい場所があるんだ」

 ニコニコする様は、まるで子供のようで。

「え、どこ?」

「内緒!」

 思ったとおりの返事だった。

 可愛いな。


 簡単なお弁当を作って出掛ける。

 歩きながら「そろそろ教えてよ、どこ行くの?」と甘えてみると。

「お花見だよ」と言う。

「え、もう?」

 確か、昨日福岡で開花したってニュースでやってたから、この辺りはまだまだのはずだ。

「ソメイヨシノじゃなくてね」

「え、凄い」

 橋の上から眺めると圧巻だった。

 川沿いにピンクの並木道が出来ていた。

「河津桜だよ」

「綺麗だね」

「歩こうか」

 手を伸ばすと、しっかりと繋いでくれた。

 空いているスペースを見つけ、お弁当を広げて食べる。

 写真もいっぱい撮った。

 名所らしく人出も多い。

 みんな笑顔だ。

 隣に座る、大好きな人もニコニコしてる。きっと私も想像以上に笑っているんだろうな。

 このまま時間が止まればいいのに、と思うほどに幸せを感じていた。

 帰り際に、近くで開催されていたフリーマーケットを覗いて、みーちゃんがお揃いのキーホルダーを買ってくれた。小さな桜が付いていて可愛らしい。


「あぁ、明日は仕事かぁ」

 無情にも時間は過ぎて、そろそろ自分の家へ帰る時間がやってくる。

「サザエさん症候群?」

 みーちゃんが大丈夫? と言って首を傾げる。

 仕事が嫌と言うよりも、みーちゃんと離れるのが辛いのですが?

「なんとかね」

「また一週間頑張ろうね」

 そう言って、さっき買ったキーホルダーを手に握らせてくれた。

 チャリンと鳴ったソレを見ると。

「えっ、みーちゃんコレって」

 鍵が付いていた。

「うちの鍵。私がいなかったら、入って待ってて」

「いいの? 嬉し--」

 思わず抱きついた。

「もう風邪なんかひかせない。雫が大切だから」

 あぁもう、私、こんなに幸せでいいんだろうか。


 さらに力を込めてギュッとした。

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