「みーちゃ〜ん」
歩いていたら、どこからかそんな声が聞こえてきた。
まさかね。
「ちょっと、みーちゃん無視しないでよぉ」
声の主が追いかけてきた。
嘘でしょ?
「ねぇ、みーちゃんってば」
「みーちゃんって言うな」
振り向いたら、やっぱり彼女だった。大石雫。
彼女と一夜を共にしたのは、一週間前の事だ。
「偶然だねぇ、こんなとこで会うなんて! 運命かも」
構わずに歩いていると、嬉しそうについてくる。
「ねぇ、大きな荷物だね、まるで海外にでも行くみたい」
私のキャリーケースを見ながら言う。
「帰ってきたとこよ」
「えぇ、だからずっと会えなかったのか」と呟いた。
「ん?」
「なんでもないっ、ねぇ、どこ行くの?」
「疲れたから、軽く飲んで帰る」
「わぁい」
「連れてくなんて言ってないけど?」
「そんなつれないこと言わないでくださいよぉ、やっと会えたのに」
いつのまにか隣に来て歩調を合わせて歩いている。
「もしかして、毎日この辺で私を待ってた?」
少し声を落として聞いた。前回は、迷ったけれど連絡先を教えずに別れたから。
「え……そんなわけないじゃないですかぁ」
一瞬真顔になった気がしたけど、そうだよね、そんなわけないよね。
初めて会った居酒屋の近くで再会したのは、ただの偶然だよね。
件の居酒屋から5分ほど歩いたところにあるバーへ入った。
「いらっしゃい、お、美佐ちゃん久しぶりだねぇ」
「マスター、いつものお願い」
「はいよ、あれ、今日は可愛い子連れてきてくれたんだ?」
「可愛いなんて、ありがとうございます。マスター、同じのお願いしまーす」
「はいよ」
最近の若い子は可愛いと言われて否定しないのか。
ちゃっかり隣に座る彼女は、まぁ、確かに可愛いけれど。
「常連さんなんですね」
「まぁね、先週は臨時休業でね、それであの居酒屋さんへ行ったの」
「そうだったんだ。で、海外は旅行? それとも仕事で?」
「仕事だよ」
「美佐ちゃんは、あちこち飛び回ってるよな」
マスターがカクテルを並べながら、話しかけてきた。
「へぇ、かっこいい! 今回はどこへ?」
「ヨーロッパ廻ってた。写真見る?」
ほんとは、そんなにかっこいいわけじゃない。仕事だから気も使うし、なにより疲れる。時差とか身体がついていけないのは、年を取った証拠か。
「見る見る」
一枚一枚スクロールしながら、わぁ! とか 素敵! とかはしゃいでいる彼女の顔を見ながら飲むカクテルも悪くない。
「はぁ、いいなぁ」
最後まで見終わったらしく、カクテル片手にため息を吐いた。
「これから、いくらでも行けるじゃない」
「え、一緒に行ってくれるんですか?」
ぱぁっと明るい笑顔になって、そんなことを言う。
「なんでそうなるの?」
「二人で行ったら楽しそうだから」
「そう?」
「そうですよぉ、絶対楽しいですって、あ、マスターお代わりお願いしまーす」
しまった。
飲みやすいカクテルだけど、アルコール強めだった。
「あれ、寝ちゃった? 奥で休んでく?」
マスターが気を利かせて声をかけてくれた。
「大丈夫だと思う。タクシーで連れて帰るわ」
なんとかタクシーに乗せて、終電を逃した時によく利用するビジネスホテルへ向かった。
「ここ、どこ?」
部屋のベッドに寝かせて、しばらくしたら目が覚めてきたようだった。
私は時差ボケで目が冴えていたので、椅子に座って本を読んでいた。
「ホテルだよ」
本から目を離さずに答えた。
「お持ち帰り、してくれたの?」
「家の場所、知らなかったからね。どうする? 帰る?」
いつのまにか近寄ってきていて、背後から抱きつかれた。
「一緒にいてくれないの?」
耳元で囁かれてドキリとした。
「起きたのなら、私が帰ろうかな」
一緒にいたら理性が保てないだろうーー今さらかもしれないがーー
「抱いてくれないの?」
「酔っ払いを抱く趣味はない」
抱いてしまったら、セフレになってしまいそうで。それは、なんか嫌。だったら突き放した方がいい。
「酔ってない」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」
背中から離れた、と思ったら正面に回って膝の上に跨った。
「ちょっと……なっ」
何してるの、と言う前に。
まただ。この上手すぎるキスに翻弄される。
「ちょ、雫、やめて」
やめてくれないと、止められなくなる。
「嬉しい、名前、憶えててくれた」
キスはやめてくれたけど、今度は正面から抱き着いて首筋を舐めてくる。
だから、そんなことされたら。
私の弱すぎる意志なんて、あっけなく砕け散るんだから。
「雫!」
「はい」
「ベッド行こ」
今回は、私が主導権を握った。
酔っているせいか、常に目が潤んでいて。
「雫!」
名前を呼ぶと、さらに瞳が揺れて。
「かわいい」
思わず本音が零れた。
柔らかい唇も、はちきれんばかりに張りのある胸も、きめの細かい肌も。
すべてが愛おしく、ゆっくりと時間をかけて口づけていく。
最初は恥ずかしがって小さかった喘ぎ声も次第に大きくなり、私を勇気づける。
少しずつ体を下方へずらし、雫の大事な場所を見つめた。
「きれい」
私の呟きが聞こえたのか、脚を閉じようとしたけれど、そうはさせず優しく触れてみた。
ピクリとする反応を確かめながら、ゆっくりと舐め上げる。
「みーちゃん、も、だめ!」
一段と大きくなる嬌声を聴きながら、私も高まっていく。
「雫、入れるね?」
「ん、みーちゃん、来て……」
何度か絶頂を迎えて、雫は眠りについた。
私は、やっぱり時差の関係で眠気はやって来ず、雫の寝顔を見つめてた。
可愛い子は、乱れても可愛い。
「やっちゃったなぁ」とは思うものの、やっぱり私にはあそこで止められる意志なんて持ち合わせていない。
今だって、雫の寝顔を見ながら、さっきの雫を思い出しながら、手が自然と自分の秘所に向かっていくのだから。