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ワンナイトラブ
ひばり
恋愛現代恋愛
2024年07月31日
公開日
135,842文字
完結
そこからはじまる恋もある?

きっかけは、たまたま隣の席に座ったこと。
「ワンナイトしませんか?」と言ったのは、年下の可愛い女の子だった。
バリキャリの美佐と、社会人2年目の雫。
ワンナイトから始まった恋の行方は・・・

第1話 ワンナイト

 どうして、こうなったのか。

 可愛い寝顔を見ながら思う。



 偶然? たまたま? あぁ、昔の歌にそんなのがあったっけ。

 たまたま居酒屋で隣の席に座っただけよね。

 意気投合してお酒を酌み交わした相手は、同性の女の子。

 見るからに若いわぁ、お肌のきめの細かさが物語っている。

 そんな彼女が目を潤ませて言った。

「お姉さん、私とワンナイトしませんか?」


 ん? 今なんと?

 意味、わかってるんだろうか。

 こんな可愛らしい子が、私みたいなおばさんと?

 いやいや、ないわね。

 何か勘違いしてるにちがいない。

 もしくは、何かの罠?


 私は余裕を見せるために微笑みながら。

「意味、わかってるの?」と問うた。


「わかってるに決まってるじゃないですかぁ。ワンナイトラブですよ、直訳して一夜の愛。中学で習う単語ですよ」とケラケラ笑う。

 酔ってるね!

「もしかして学生さん?」

「違いますよぉ、あ、もしかしてそれ心配してる? 大丈夫です、成人してるので犯罪にはなりませんよ」クスクス笑う。

 犯罪って、、ワンナイトの意味わかって言ってるのか。

 本気?

 だったらどうする?

 守備範囲ではある。いや、ぶっちゃけドストライクなんだけど。

 いやいやいやいや、年の差いくつよ?

 脳内会議では分裂している。


 そんな私を見て彼女は勘違いして。

「えぇ、信じてないんですかぁ? なんなら免許証で確認します?」と財布を取りだした。

「ワンナイトで名前を名乗るなんて無粋よ」と制した私。

 あれ、なんでワンナイトする前提で話してるんだろ。


「では、出ましょう」

 グイっと引っ張られ、会計を済ませあれよあれよと外に出た。

 腕を組まれて寄り添って歩く。

 腕に感じる、彼女の柔らかい胸。

 年甲斐もなくドキドキしてしまう。

 彼女は組んでいた手をするすると下へ移動させ手を繋ぐ。

 自然すぎる動作だ。

「お姉さん、手冷たいよ? 温めてあげます」

 そのまま彼女のコートのポケットへ。

 慣れてる?

 このままだと主導権を握られる。

 え、何の?

 自嘲気味に笑ったら、小首を傾げて「どうしたの?」と言う。

 もういいや、これが何かの陰謀だろうとも、据え膳食わねばなんとやらだ。

「結構飲んだよね? 休憩していこうか」 そう誘ったら、少しだけ驚いたようだったけれど。

「はい」と、恥じらいながらも頷いた。



 小綺麗なホテルの部屋に入った。

 彼女はさっきから部屋のあちこちを眺めまわし「へぇ」とか「ほぉ」とか感嘆の声をあげていた。

 ようやく気が済んだのか、ベッドへ戻ってきて隣に座った。

「お姉さんは慣れてるっぽいですね」

「まぁね、年の功?」

 なんて言ってはみたものの、じっと見つめられて目を逸らしてしまった。

 あぁ、情けない。


「お風呂、広かったですよ! アメニティも充実してた。お姉さんも一緒に入ります?」

「い、いや。お先にどうぞ」

「そうですか? ではお言葉に甘えて」

 るんるん♪ という感じで行ってしまった。

 シャワーの音を聞きながら、ゴロンとベッドに寝転がる。

 彼女の肌ならシャワーの水とかも弾いちゃうんだろうなぁと想像しながら……


「……さん、おねえさん」

 あれ?

「え、寝てた?」

 目の前に彼女の、ほんのり赤い顔があった。

「その寝顔、反則ですよ」

「ごめ……わっ……」

 起き上がろうと思ったら、押し倒されて一瞬で奪われた。

 唇も、心も。


 キスが上手すぎて、彼女もいい匂いがするし。

 はっ?

「ちょっと待って、私まだシャワー浴びてない」

「大丈夫です、私匂いフェチで、お姉さんの匂い好きですから」

「やっ、そういう問題じゃなくて……って聞いてない……っはん」


 結局、押し切られた。

 攻められて啼かされて。

 自分があんなに喘ぐなんて知らなかった。


 なんで、こうなった?



 隣で眠る彼女の可愛らしい顔を眺めながら。

 そっちこそ、この寝顔は反則。いや、この顔であのテクニックのギャップは本気でずるい。

 一夜限りかぁ。

 彼女の目が覚めてここを出たら終わる関係だ。


 何度でも言おう。

 なんで、こうなった。


「あ、おはようございます」

 可愛い子は、寝惚け顔も可愛いのか。

「ん、おはよ」

「お姉さん、気持ちよかったですか?」

 うっ、いきなりそれ聞く?

 まぁ、ここで意地を張ってもしょうがない。

「うん、とっても」

 素直に認めた。

「それは、良かったです」

 綺麗な笑顔で言う。


「でも、貴女は良かったの?」

「え?」

「私だけ気持ち良くなっちゃって、申し訳ないというか……」

「あぁ。では、ひとつお願い聞いてもらえますか?」

「何?」

「名前、教えてもらえませんか?」

「名前……?」

「ワンナイトじゃなくて、また会いたいな。なんて、ダメですよね」

 今度はしおらしく言う。


 こんなこと言われて断れる人間なんているんだろうか。

 なにこれ、夢オチとかじゃないわよね?

 思わず、彼女のほっぺをつねる。

「痛っ」

 夢じゃない!

 何するんですかぁ、って涙目になってる彼女に。

「名前を聞くなら、まず名乗るのが先でしょ?」

 社会人のマナーを教える。

「そうですね」

 そう言って、ベッドから抜け出して、バッグをゴソゴソしていたと思ったら戻ってきて、ベッドの上に正座して。

「こういうものです」と、名刺を差し出したーー下着姿だけどーー


 何かのギャグかと思ったら、ちゃんとした会社の名刺だった。

 ここまでされたら、教えないわけにはいかないか。

「今、名刺はないけど、橘美佐と申します」

 深々と頭を下げたーー下着も付けていないけどーー


「じゃ、みーちゃんですね!」

「は? そんな猫みたいな呼び方?」

 私をいくつだと思ってんの?

「え? 嫌ですか?」

 彼女に言われると、悪くないなと思ってしまう自分がいることも確かなんだけど。

「2人の時だけにしてよ?」

「はぁい。私はなんでもいいですよ」

「えっと、大石雫?」

「はい」

「しずく!」

「はぁい」

 嬉しそうに笑った彼女を見たら、もっと早く名前を教えて、彼女の名前も呼んであげれば良かったなと思う。



 これはもう、ワンナイトでは終われない。

 そんな気がする。


 どうして、こうなったか。

 それは、すでに恋に堕ちていたから。


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